フォーラム福岡

福岡の近未来図

都市戦略および地域戦略としてのスポーツの可能性

2007年8月1日発行の15号より

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スポーツを都市マーケティングのコンテンツや地域振興のツールとする取り組みが、胎動し始めている。スポーツが秘める可能性を顕在化させるためには戦略と組織・仕組みが必要だ。今後の都市戦略や地域戦略におけるスポーツの潜在力について考える。

スポーツキャンプで賑わう宮崎・沖縄

平均気温が約17度、日照時間で約2100時間、快晴日数が年平均54日……。1年を通して温暖な気候にある宮崎県ではスポーツ合宿・キャンプが盛んだ。

今年春の実績をみてもプロ野球では、1959年以来キャンプを続けている読売巨人軍をはじめ、福岡ソフトバンクホークスや西武ライオンズなど全12球団中の5球団(※)が宮崎でキャンプを張る。一方、サッカー界でもJリーグ全31チーム中15チームがキャンプをした。

また、今年は韓国プロ野球界から斗山ベアーズと起亜タイガースがキャンプ地として選んだ。加えて、社会人、大学などのアマチュアチームも数多く訪れている。プロ・アマあわせて、年間で延べ約8万6000人が宮崎でスポーツ合宿・キャンプをしている。


温暖な気候を生かした宮崎県でのスポーツ合宿の誘致に力を注ぐ

このようなキャンプやスポーツ合宿数の実績には96年6月に行政および関係機関の協力の下に発足した「スポーツランドみやざき推進協議会」の果たした役割が大きい。宮崎県における観光振興計画の一環として、スポーツランドみやざき推進協議会はスポーツ合宿の誘致に向けた広報活動や受入体制の整備、スポーツイベントの開催などに取り組んでいる。

宮崎県と同じく今春、プロ野球8球団(※)がキャンプを張った沖縄県には、期間中オープン戦も含め22万7000人余りの観客が訪れた。

この沖縄県内でのキャンプについて、琉球銀行では直接的な経済効果として35億5900万円と推測する。さらに関連産業を含めた経済波及効果について、沖縄県の産業連関表をもとに53億3700万円と弾き出している。

注目を集めるスポーツコミッション事業

2002年の日韓共催によるサッカーワールドカップで、何かと話題になったカメルーン代表チームを招致した大分県中津江村(現大分県日田市)の事例を見てみよう。

従来からの過疎の村であった中津江村は、招致にあたっては大きな予算を組めなかった。このため、村内にある既存施設を有効活用し、なかでもサッカー施設の生命である芝の品質管理を徹底した。

この芝の管理が評価されて中津江村は、キャンプ地としてワールドカップの出場チームからお墨付きを得たのだ。その結果、今ではJリーグのチームがキャンプ地として利用しているだけでなく、九州全域から中学・高校などの運動部の合宿の申し込みが後を絶たない。

このような地域にスポーツ施設やボランティアを最大限に活用して、スポーツイベントの誘致をはじめ、イベントの企画・運営、都市・地域のプロモーション、地域経済の活性化を図っていく取り組みをスポーツコミッションと呼ぶ。

アメリカにはスポーツコミッションを担う組織があり、その数は400ともいわれている。日本でも今年5月、関西経済同友会スポーツ・観光推進委員会が国内初となる民間によるスポーツコミッション機関を大阪に設立することを提言するなど、その動きは活発化している。

福岡市におけるスポーツ振興の取り組み

これまで多くの国際大会を開催してきた福岡市は、競技施設(ハード)、運営ノウハウや市民のおもてなし(ソフト)、陸海空の交通利便性(アクセス)を有する。さらに都心から半径5キロ以内に空港や主要駅、宿泊施設、競技施設がコンパクトにまとまっている。

これらの都市資産を活用したスポーツコミッション事業を手掛ける福岡市市民局スポーツ部の久木原哲雄・スポーツ課長は「国際的なスポーツ大会の誘致に加え、国内外の代表チームのキャンプ誘致に取り組み、ワンストップサービスで提供している」と解説する。

今年5月開催の国際グランプリ陸上競技大阪大会ではスウェーデン代表チームが滞在した。また、今年8月のIAAF世界陸上競技選手権大阪大会に向けて、オランダとベルギーの代表チームが事前調整のために福岡市でキャンプする。


少子高齢化に対応したスポーツ政策が求められる

これらのチームの滞在では公開練習やコーチ・選手による子ども達への指導など市民との親睦・交流もスケジュールに組み込まれている。また、来年に迫った北京オリンピックに向けて海外のスポーツ団体が、大会本番に向けた調整キャンプ候補地として、福岡市への視察が相次いでいるという。

「見るスポーツ」とともに「するスポーツ」の方も活発だ。福岡市関連のスポーツ教室等は、公民館・体育館などを会場に年間777回・80教室を開催、延べ5万人近い市民が参加している。また、平日夕方からの学校校庭の夜間開放でも約17万人(2005年度)が利用した。土曜日(午後)と日・祝日に開放する小学校体育館の開放事業の利用者は45万7000人(同)におよぶ。

「少子高齢社会を反映して高齢者の利用が増えている。体育館や公民館でのスポーツ教室で高齢者にも対応した講座を増やしており、最近さかんなウォーキングに対応して、区役所ではウォーキングマップ作成や歩きやすい環境づくりにも取り組んでいる」と、廣澤稔彦・福岡市市民局スポーツ部スポーツ課長は語る。現在、福岡市が策定をすすめているスポーツ振興計画では、健康づくりとしてのスポーツにも力を入れていくとする。

福岡県が打ち出すタレント発掘事業と総合スポーツクラブ政策

将来のトップアスリートを育てる―――全国初の試みである福岡県タレント発掘事業は、今年4年目を迎える。福岡県タレント発掘事業は、優れた素質を持ちながらも埋もれている子どもたちを発掘して、一貫した指導システムにもとづく強化育成プログラムを通じて国際的に活躍する選手らトップアスリートを育成・輩出することを目的とした事業だ。

「子どもたちが自分に合った種目を見つけ、より活躍できる可能性を広げる仕組みができたことは大きい」と、福岡県教育庁の篠原一洋指導主事は、その意味を説く。福岡県が、日本オリンピック委員会と国立スポーツ科学センターとの協力を得て、スタートしたタレント発掘事業は、「見つける」「育てる」「活かす」ためのプログラムで構成されている。県内のすべての子どもを対象としており、学校での体力測定結果で応募できる。今春は、応募した3795人のなかから70人が選ばれて、将来のトップ選手を目指す。

2004年に開催されたアテネオリンピックに派遣された日本代表選手312人中、実に16人が福岡県出身者で、都道府県別で第4位。将来のトップアスリートを目指す彼らが、国際舞台で活躍する日もそう遠くないであろう。


福岡県教育庁
篠原一洋指導主事

タレント発掘事業とならんで福岡県が力を入れているのが、総合型地域スポーツクラブだ。「《いつでも・どこでも・だれでも》が、《多種目・多世代・多志向》でスポーツを楽しむことができるクラブの存在は重要」と、前出の篠原主事は解説する。95年にスタートした総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業を受け、全国初のクラブとなったのが、北九州市の戸畑コミスポであり、2007年7月末現在で30クラブが設立している。

従来の行政主導でなく、地域の住民が主体となって「地域の実情に応じて、身の丈に合った」運営を目指して会費制を採用しているのが特色のひとつといえる。このように継続的にスポーツを続けていくことは、健康増進による将来的な医療費の削減だけでなく、地域におけるコミュニティの再生についても期待されている。福岡県では、総合型地域スポーツクラブの立ち上げや運営の支援にも取り組んでおり、2013年までに福岡県下の全市町村に総合型地域スポーツクラブを設立していく方針だ。

スポーツの本質は「地域の祭り」

世界に目を転じると、アメリカの大リーグに象徴されるように一大産業として成立し、都市のマーケティングとしてスポーツを捉えている国もある。その一方でヨーロッパのサッカーをはじめとする地域スポーツクラブのように市民生活に根付き、スポーツが文化として認知されている地域もある。

スポーツとは地域に育まれ、地域の人々が楽しめる「財産」といえる。スポーツには「競う」「楽しむ」という要素に加えて、「する」「見る」という行為を通じて、地域に潤いと豊かさ、そして感動をもたらすものだ。スポーツが地域におけるひとつの産業としても根付くことで経済的な結びつきも含めて、スポーツは地域の人々にさらに親しまれて、そして本来の「地域の祭り」的な存在になり得る。

しかし、現実に目を向けるとスポーツに対しては地域を構成する市民、企業、行政がそれぞれバラバラに取り組んでいる実態が浮かび上がる。市民間でも温度差があり、企業サイドでのスタンスの違いに加えて、タテ割り行政による弊害もある。さらに日本には他国でみられるようなスポーツ省というスポーツ全般を管轄する組織が国自体にもない。

産学官によるスポーツ戦略の推進が不可欠


ユニバーシアード福岡大会で灯ったスポーツによる国際交流の「火」は、いまなお途絶えることなく、福岡の地で燃え続けている

「するスポーツ」「見るスポーツ」として、単なる運動や体育という範疇を超えて、ひとつの産業として、さらに美術や音楽などと同じく人々に感動を与える文化として、地域の財産にしていくためには戦略と組織が求められる。

スポーツが秘める可能性を花開かせる戦略としては、夢も含めたビジョンを打ち出し、達成に向けたシナリオを描き出し、さらに実現に向けた仕組みや仕掛け、組織が必要だ。産業としてのスポーツの市場を考えたときに集客ソフトとしての観光産業と関係が深いといえる。九州には観光戦略を推進していく九州観光推進機構の存在がある。さらに関西経済同友会によるスポーツコミッション設立の提言も踏まえて、福岡/九州にもスポーツによる地域戦略、都市戦略の具体化に向けて、産学官で議論する場、そして推進していく組織が必要なのではないだろうか。(近藤益弘)

参考文献・資料)
『スポーツイベントの経済学』原田宗彦著(平凡社新書)
『野球型vs.サッカー型』林信吾・葛岡智恭著(平凡社新書)
『スポーツ経済効果で元気になった街と国』上條典夫著(講談社+α新書)
『スポーツ球団と地域経済との正しいあり方を築くために』小林至著(東京財団)
『レジャー白書2006』(社会経済生産性本部)
『余暇・レジャー総合統計年報2006』(生活情報センター)
『21世紀の九州・山口経済社会事典』(九州経済調査協会)
『日本初のスポーツコミッションを大阪に』(関西経済同友会)
『福岡県スポーツ振興基本計画』(福岡県教育委員会)
『米国におけるスタジアム・ファイナンス』(日本政策投資銀行)
『りゅうぎん調査2007年6月号』(琉球銀行、りゅうぎん総合研究所)『調査月報2007年3月号』(みやぎん経済研究所)
『九州経済調査月報1996年7月号』(九州経済調査協会)
『ウィキペディア(Wikipedia)』(フリー百科事典)

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※当ページの内容は、2007年8月1日発行の15号に掲載されたものです。

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