スポーツが秘める産業としての市場性
2007年8月1日発行の15号より
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スポーツには、「みるスポーツ」「するスポーツ」を通じて、イベント開催やスポーツ観戦、用品購入、スポンサー協賛などによる多岐の経済効果がある。スポーツをひとつの産業として捉えた場合の市場性をはじめ、海外での事例についても探る。
推計15兆円の日本のスポーツ市場
日本に限らず世界各国では、自国におけるスポーツ産業の規模を弾き出すのは容易なことではない。
日本におけるレジャー関連について、権威的な統計指標であり、市場調査の参考データとして多くに参照される『レジャー白書2006』(財団法人社会経済生産性本部)では、市場規模は4・2兆円と推測している。ただし、『レジャー白書2006』が示した数字は、スポーツ用品の購入代金をはじめ施設使用料、スポーツ観戦代、スクール受講料などのスポーツ関連の個人消費についてのみだ。

スポーツはいまや一大産業となり、無視できない存在となっている
このため、スポーツをひとつの産業として見立てた場合、マスメディアが支払う巨額の放送権料をはじめ冠イベントや命名権などのスポンサーマネー、スポーツ活動・観戦にともなう交通費・飲食費、さらにプロ選手への報酬や球団運営費などは含まれていない。
この点を踏まえて、スポーツ産業に関連した著作が多い原田宗彦・早稲田大学スポーツ科学学術院教授は、『スポーツイベントの経済学』(平凡社新書)のなかで、『レジャー白書』の数値に加えて、社団法人スポーツ産業団体連合会の調査報告、ジョージア工科大学によるスポーツエンターテイメントの概念を用いて、日本のスポーツ産業について「15兆円程度の規模になる」という推測する。
ちなみにアメリカのスポーツ産業については、95年のジョージア工科大学の調査によると国内産業別で11位となる1520億ドルと報告した。また、2001年時点でアメリカのスポーツ産業規模について、アメリカのスポーツビジネス誌の調査では1946億ドルとの報道もある。
行政が支援するアメリカのプロスポーツ

球団・球場があることで地域への経済効果は大きい
人気の高い4大プロスポーツであるアメリカンフットボール(NFL)、野球(MLB)、バスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)では、日本のプロ野球と異なり、チーム名にスポンサー企業をつけず、地名および愛称で称している。それだけにチームの地元に対する密着度や地域住民からの愛着度も高いといわれている。
また、アメリカのプロスポーツは、独特のポジションを社会的に築いている。「アメリカでは、財政的にはマイナスでも球場建設に取り組み、そして球場や球団があることによる増収や地価上昇、企業誘致などの副次的効果で回収していく」と、プロ野球引退後に7年余りアメリカに滞在した小林至・江戸川大学教授は述べる。アメリカでは、州や都市が地方債を発行して球場を建設して、球団に廉価で貸し出しているというのだ。なかには年間の球場使用料が1ドルという例さえある。さらに球場で発生する飲食や物販などの売り上げや看板などの広告収入も球団が手にしている。
なぜ、アメリカではプロスポーツが厚遇されるのか?

江戸川大学社会学部
小林至教授
この理由について、小林教授は、「アメリカにおける都市間競争の激しさに加えて、州や都市が課税自主権を持っている。このために球団誘致や球場建設の結果として、観戦に来た観光客らを対象としたホテル税や駐車場税、入場券税、レンタカー税などを徴収していくことで回収を図る」と解説する。
つまり、都市間競争と課税自主権があるアメリカの州や都市では、スポーツを都市戦略や地域振興策のなかに組み込んでいる。そして、都市としてのステータス向上による富裕層の居住増加という点も都市経営のポイントと考えているのだ。
ドジャーズショックに始まるアメリカの行政支援
かつてニューヨーク・ブルックリンに本拠地を構えていた人気球団・ドジャーズは、ニューヨーク市に再三にわたって、新球場の建設を要望していた。しかし、実現しなかったため、58年に西海岸のロサンゼルスに移転するという手に出た。
このドジャーズ移転が引き金となって、球団側は集客力や収益性の向上を目的とした新球場の建設を州や都市に要請し、時として本拠地移転を材料に交渉した。この結果、行政主体による球場をはじめとするスポーツ施設の建設計画が相次ぐようになった。
メリーランド州ボルティモア市、インディアナ州インディアナポリス市、オハイオ州クリーブランド市などでは、荒廃した市街地のエリアに球場をはじめとする大規模スポーツ施設を建設した。そして、市街地は賑わいを取り戻したことで経済活動も復活し、さらに治安も回復した。
アメリカにおけるスポーツによる都市再生
スポーツ好きが多いアメリカでは、都市戦略の一環にスポーツを位置づけて、都市の再生や構造転換に乗り出した例も多い。

スタジアムなどのスポーツ施設は都市のランドマークとなっている
アメリカ国歌と星条旗の生誕地であるメリーランド州ボルティモア市は、先進的なウォーターフロント開発でも知られる。このボルティモア市に本拠地を置くオリオールズ球団が移転をタテに市や州に要求した結果、公設によるオリオール・パーク球場が92年に誕生した。アメリカ建築協会賞も受賞した新球場は、球団の成績が低迷しても満員になるほどの人気を集めた。この成功が以後、公的資金による球場建設の理論的な支柱になったといわれている。
70年代半ばに重厚長大型産業の衰退にあえいでいたインディアナポリス市は「アマチュアスポーツの首都」というコンセプトによる都市の再活性化事業に乗り出した。都市活性化として、大規模な多目的ドームや大型プール、陸上競技場などのスポーツ施設に加え、コンベンションセンターを建設した。また、ドームの隣接地区も再開発されて、大規模ショッピングモールやホテル、レストランなどの商業施設も中心部に登場した。アマチュアスポーツの首都としてのインディアナポリス市には、アメリカの有力スポーツ団体のうち10団体が本部を移した。82年のナショナル・スポーツ・フェスティバルと87年のパン・アメリカン協議大会、2002年のFIBAバスケットボール世界選手権大会など約400あまりの国内外の大会誘致に成功した実績がある。この結果、30億ドルを超える直接的な経済効果を創出したといわれている。
ヨーロッパの都市におけるスポーツへの考え方
アメリカの事例のみならず、ヨーロッパに目を転じてもスポーツを用いた都市再生や都市戦略の事例は数多い。
かつて世界最大の製鉄都市だったイギリスのシェフィールド市は重厚長大型産業が衰退したため、スポーツによる都市再生計画が議会で決議された。この議決にもとづきシェフィールド市では複合スポーツ施設やスタジアム、屋内競技施設を核に劇場や大規模ショッピングモールを建設、「スチール(鉄)のまち」から「スポーツのまち」への変貌を遂げた。
また、オランダ第一の港湾都市であるロッテルダム市は、90年に都市マーケティング戦略を立て、スポーツイベントの誘致をはじめ、施設整備や選手養成、さらにスポンサー獲得などの都市のプロモーションに乗り出した。この結果、従来の「ワーキング・シティ」(労働都市)のイメージを「スポーツ・シティ」へと刷新を図っている。
ヨーロッパの都市では、至るところに芝生の広場や整備された公園があり、スポーツや日光浴を楽しむ市民の姿がみられる。Jリーグの立ち上げの中核となった元日本代表のサッカー選手らは遠征先のヨーロッパで、芝生の上で元気よくサッカーに興じる子どもらの姿が原風景になったという。
さらにヨーロッパでは、名門といわれる有名クラブほど、サッカー教室や指導者講習をはじめとする地域のスポーツ文化を支える活動に熱心だ。長い年月を経て、このような地道な活動を続けて来たことで、地域の住民から支持され、そして名門クラブへと育ったといわれている。
スポーツにみる古代と現代都市の共通項

古代都市でもスポーツは市民にとって不可欠な存在だった
アメリカやヨーロッパの都市におけるルーツとなる、ギリシャ・ローマの古代都市では、古代オリンピックに代表される「見るスポーツ」と市民自身が楽しむ「するスポーツ」が、日常生活のなかで育まれていた。
古代オリンピックが、クーベルタン男爵によって近代オリンピックとして蘇ったように「見るスポーツ」の場だった古代都市の円形競技場はドーム球場をはじめとするスポーツスタジアムに生まれ変わっているとする見方もある。そして、これらのスポーツ施設は、かつてと同じく都市のランドマークや集客装置としての機能を担っている。また、古代の公衆浴場は市民にとっては「するスポーツ」を楽しむ場だったが、今日ではスパリゾートやフィットネスクラブとして復活したともいえる。
そして、「するスポーツ」「見るスポーツ」が巨大産業化した今日では、都市再生や再開発、活性化を図るコンテンツとしても着目されている。重厚長大型の産業都市からの構造転換や集客交流などを含めた都市戦略を考える上での重要なコンテンツとなり得るのだ。(近藤益弘)
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※当ページの内容は、2007年8月1日発行の15号に掲載されたものです。
