フォーラム福岡

福岡の近未来図

スポーツ文化の定着に向けて

2007年8月1日発行の15号より

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学校教育と企業スポーツによって発展した日本のスポーツへの見直しが進んでいる。地域文化としてのスポーツのあり方をはじめ、地域に根ざした総合スポーツクラブの動向を踏まえながら、スポーツ文化の定着に向けた取り組みを追う。

スポーツ本来の姿を取り戻そう

歴史的に見て蹴鞠と武道以外にスポーツが育たなかった日本に近代スポーツが入ってきたのは明治以降になる。そして、学校教育を通して普及したスポーツは一種独特な形で発展してきた。「富国強兵」を唱える政府が軍事教練として行った体育と結びついたスポーツからは楽しむという概念が否定され、肉体的、精神的苦痛に耐えることが強調されたからだ。

その後、日本におけるスポーツは学校教育と企業によって支えられてきたが、その結果、本来は一般大衆のものであるスポーツは庶民の手から離れ、飛び抜けて才能がある人がやるという位置づけとなり、やがては企業の宣伝の道具としての役割を担うようになる。その結果、勝利することが必要以上に求められるようになったスポーツからは楽しむという部分が欠け、スポーツそのものが持つ力も見失われがちになっている。

そんな現状にアビスパ福岡ホームタウン推進部長である下田功氏は警鐘を鳴らす。
「スポーツには4つの要素がある。まずは人と関わることができる楽しさ、本能的に体を動かすことの楽しさ、できるようになる楽しさ、そして勝負を通して様々な手段を知る楽しさ。そうした楽しさを感じることが本来のスポーツの意義。そして、スポーツは現代社会が抱えている、いじめをはじめニートやフリーターなどの問題を解決する力を持っているが、今のままではその役割が発揮できない」

昔は、集団で遊ぶことで子どもたちは人と関わり合い、様々なことを経験し、その経験を通して生きる力を蓄えていった。だが、急激に変わる社会環境の中で遊ぶ場所を失った子どもたちは、人との関わり合いを持てなくなってきている。

「いまスポーツが担わなくてはならない役割は、遊びを代替えする存在として、子どもたちに体を動かしながら人と関わりあえる機会を提供すること」(下田氏)

スポーツが本来の姿を取り戻すことが求められている。

子どもたちの生きる力を育むために

では日本の子どもたちは、どの程度スポーツに関わっているのだろうか。11歳の子どもの例を取ると、ヨーロッパでは定期的に週2回以上スポーツをやっている子どもの割合は男子で80〜90パーセント、女子では60〜85パーセントであるのに対し、日本では男子が37パーセント、女子は27パーセントでしかなく、他の先進諸国と比較しても著しく低い。

それでも昔の日本であれば大きな問題はなかった。そこには集団で遊ぶ場所があり、子どもたちを地域で育てる習慣があり、その中で子どもたちは問題なく生きる力を育んでいったからだ。しかし、その場所がなくなった現在、スポーツをしないことによる子どもの成長過程における影響は小さくない。

「大人たちは子どもに元気がないのは分かっている。人づくりの面では政府も非常に悩んでいる。子どもを持つ親が、この現状について真剣に考えければいけない時代になってきている。我々が一般の親に対して伝えなければいけないことは多い」(下田氏)


身近にスポーツを楽しむことができる環境が求められる

また、大学生に行ったアンケート調査では、スポーツをすることが好きと答えた比率は30パーセント、嫌いが40パーセント、どちらでもないが30パーセントだった。興味深いのは、いつからそう思うようになったのかという問いに対し「好き」と答えた学生も、「嫌い」と答えた学生もその80パーセントが、6歳〜8歳の時と回答したこと。さらにその理由も初めて出会った指導者の影響を受けてという同じものだった。

この結果を受けて、下田氏は次のように話す。

「日本では子どもを『小さな大人』として見てしまう傾向にある。けれど子どもは決して大人ではないし、幼少期は年代によって全く違う感性を持っている。それなのに、ただ叱るだけの指導ではやっていけない。自分の経験だけで指導するのではなく、子どもの発育・発達のことを、もっと良く知っておく必要がある」

子どもを囲む大人たちに子どもの発達過程をどう伝えていくか。それもこれからの大きな課題であろう。

アビスパ福岡の取り組み


アビスパ福岡ではスポーツ教室をはじめ、指導者講習や講習会にも取り組んでいる

こうした背景を受けて、アビスパ福岡は一般の大人を対象にした講演会や指導者向けの講習会を開催している。中でも最も力を入れているのが指導者養成講習会だ。

「子どもは大人に対する依頼心が強く、認めて欲しいと思っている。ところが、大人たちは将来のために叱っておいた方がいいと考える。子どもを『小さな大人』として扱っているという批判は、まさにここに集約されている。大人の責任として、子どもたちにどう接していくかということを指導している」(下田氏)

昨年実施した指導者講習会は、36回、参加延べ人数は、1135名であった。中でも福岡市教育委員会、福岡市スポーツ振興事業団、福岡県教育庁からの委託を受けて行ったジュニア年代スポーツ指導者講習会及び講演会は10回を数え、946人の指導者や教員が参加した。サッカーに限らず種目を越えてジュニア年代の指導者を集める講習会は、スポーツ界全体で子どもたちに生きる力を育んでもらいたいという願いからだ。

「指導の考え方、コンセプトを共有することを一貫して指導している。種目を越えて全てのスポーツに携わる指導者が子どもに対する同じ考えを持てば、スポーツはしっかりと浸透していくし、子どもたちの心身の健全育成に必ずプラスになる」(下田氏)

そして今年は、福岡青年会議所(福岡JC)と連携し、ソフトバンクホークス、サニックス、コカコーラ・ウエスト・ジャパン、九電工、ライジングらと連携し、種目を越えた子どものためのスポーツイベントを企画。秋にはJリーグからの助成金を利用して、初心者向けラグビーであるタグラグビーの大会やドッヂボールの大会を開催する。また福岡JCとの連携事業として様々な企画も実施している。

93年5月15日の記念すべきJリーグ開幕の日、当時の川淵三郎・Jリーグチェアマン(現日本サッカー協会キャプテン)は、「すべてのスポーツを愛するみなさん」という言葉で挨拶を始めた。その言葉通り、Jリーグの理念はサッカーの普及・強化のためにあるのではなく、すべてのスポーツに関わる人たちとともに、地域の人たちにスポーツの素晴らしさを伝え、スポーツ文化を振興することにある。アビスパ福岡は12年の歴史と草の根活動を通じて、地域にスポーツの価値・本質を伝え続けている。

総合型地域スポーツクラブによる試み

さて、ここまでアビスパ福岡によるスポーツ振興活動を見てきたが、次にスポーツを通じて地域の活性化を図っている事例を紹介しよう。


田主丸カルスポクラブ
江藤勇介事務局長

田主丸カルスポクラブは、文部科学省の「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」を受けて2001年度に田主丸教育委員会が発足させたもので、拠点型、多世代型、多種目型、受益者負担型、文化複合型、自主運営型を網羅した総合型地域スポーツクラブの設立を目指している。クラブ名の『カルスポ』は、カルチャーとスポーツの造語。スポーツのみならず、様々な文化にも取り組んで、田主丸町の文化やスポーツを振興する中心的な存在として活動することを表している。

設立にあたっては、すでに活動をしていた複数のクラブをカルスポクラブの会員として取り組むことでスタート。事務局がパイプ役となることで、同一種目のクラブ間の横のつながりや、種目を越えた交流を行うことで地域の活性化を図ることを目的としている。現在は、サッカー、女子バレー、野球、和太鼓のクラブが加盟しており、会員数は約400名を数える。

現在は、種目ごとの交流大会が主たる事業。今後は種目を越えた交流を深めていくのが課題だ。

「文化とスポーツの発信基地として様々な情報を発信できるようになれば、総合型地域スポーツクラブの意義が明確に出てくると思う。現段階では事務局対クラブという形だが、今後、どこまで個人との交流も図れるかということが課題なので、いろんな交流を仕掛けたい。地域のスポーツと関わっていく中で、高齢者の方とか小さな子どもたちとの関わりを持てるように活動していければと思っている。これからも次のステップに向かって進んでいくのが重要」とは、江藤勇介事務局長。試行錯誤の中で活動をするクラブは、まだ発展途上にある。既存の団体をまとめる難しさもある。しかし、地道に交流事業を推進する中で、新たな一歩が見えてくるはずだ。

スポーツが「文化」になるとき

スポーツ文化という言葉が日本に登場したのは、1993年のJリーグ開幕の時。Jリーグバブルと言われた人気とともに、その言葉は瞬く間に広がり、今では多くの人が口にするようになった。実際にはスポーツが文化になるには時間が必要だが、それでも試合会場で、練習場で、確実に変化は起きている。

緑の芝生のグラウンドの周りに、老若男女が集まり、年齢差も、性別も、地位も関係なく、スポーツという共通言語を介してコミュニケーションをとる。汗を流し、語り合った経験を通して、子どもも大人も様々なものを身につけていく。アビスパ福岡やカルスポクラブに代表される団体が、地道に草の根活動をしていく限り、そんな日は必ずやってくる。(スポーツジャーナリスト 中倉一志)

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※当ページの内容は、2007年8月1日発行の15号に掲載されたものです。

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