フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

「ソーシャル・イノベーション」シンポジウム
福岡・九州の明日を託す人材とは?

2010年3月31日発行の30号より

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いま、社会、組織、個人を取り巻く環境が大きく変化して、時代の枠組み自体も大きく変容しようとしている。こうした状況下、都市や地域の成長・発展を担っていく人材のマネジメントやリーダーシップのあり方について、熱く討論した。

Speaker
合野弘一 福岡県商工部国際経済観光課企画監
三苫美由 希 福岡市総務企画局職員研修センター職員
寺崎正勝 九州電力経営企画本部地域戦略グループ長
星野高明 日本政策投資銀行九州支店業務課調査役
後藤太一 福岡アーバンラボラトリーLLC代表社員

Moderator
田村馨 福岡大学教授/フォーラム福岡編集委員

※本文中の「一般」は、会場の一般参加者からの発言

本人の能力を発揮できる場が与えられているか

田村 1月29日に開催したソーシャルイノベーションセミナーの第1回では「社会性と経済性の両立」について議論しました。本日の2回目は「私たちの社会をどのような人材に託せばよいのか」について考えてみたいと思います。福岡における人材不足、人材劣化についての皆さんの現状認識はいかがでしょうか。

寺崎 人材不足・人材劣化については、専門職や技術職が増えているにも関わらず、GDPが伸び悩んでいるというデータがあります。この点について、私は、あまりに技術や情報が専門化・細分化し過ぎてそれらを統合する機能が低下してるのではないか。

つまり、「横串を刺す」と言う全体を考えて行動できる人材が少なくなっている、または横串機能が十分発揮されていないことが、その一因ではないかと思います。


三苫美由希
福岡市総務企画局職員研修センター職員
1976年生まれ、福岡市出身、九州大学経済学部経営学科卒。99年福岡市に入庁、城南区保護課、交通局総務課、こども未来局こども家庭課を経て、現在に至る。

三苫 各自が優れた能力を持っているにも関わらず、自分の本当の力が十分に発揮できていないだけなのではないかと思います。それが本人自身の問題なのか、所属している組織風土などの環境的な問題なのか分かりませんが、人材自体は劣化していないと思います。

働いている一人ひとりは、本当に一生懸命に働いていると思います。人に伝わりやすい成果の見える仕事ができればモチベーションはあがっていくんだと思います。しかし市役所の仕事でも成果がみえにくい業務がたくさんあって、それでも頑張って仕事をしている人たちがたくさんいます。

成果がみえにくい業務も必要な仕事なんですよねぇ。そうやって頑張っている人たちに、光があたることも大切なのではないかなぁと。プラスのスパイラル状態の人たちが、さらにつながってもっといい仕事をする。そんなプラスオーラにあふれた環境が必要だなぁと感じます。

寺崎 人材劣化を考える場合、持っている能力を発揮できる場が与えられているのかを考える必要があります。例えば海外留学でMBAを取得した人が戻って来ると、学んだこととはまったく畑違いの職場に配属されていることも少なくありません。会社がコストをかけて育てた人材を「しっかり活用できているのか」と私自身、忸怩たる思いを抱くこともあります。

後藤 いま私の仕事では英語・会計・ITという3つの基礎力を持つ専門人材を必要としています。しかし、そういう人材が地域ですぐに見つからず、神戸や東京、シンガポール、バンコクなどで探しているのが現状です。この状況は東京も変わらないと思います。ひとつの地域内で人材が足りている、足りていないと議論しても仕方がないと思います。

横串を指す人材が鍵を握る


合野弘一
福岡県商工部国際経済観光課企画監
1956年生まれ、福岡市出身、九州大学法学部卒、81年福岡県に入庁。国際交流課、財団法人自治体国際化協会ロンドン事務所、企業立地課を経て、現在に至る。

合野 公務員はスペシャリストよりもゼネラリストが求められる傾向が強く、通常3年、長くても5年で部署を異動していきます。しかし、私は国際経済の仕事を11年しています。私の仕事柄、企業との折衝が多いために担当者が変わると、話が振り出しに戻りがちです。「地域活性化にはスペシャリストを置く部署も必要」との知事の考えもあり、私のような人間もいます。

私自身は長く在籍するからこそ、いろいろと分野を広げていけると考えて、ITやアニメなどの業界などにも積極的に関わってきました。その結果、1次産業から3次産業までの幅広いネットワークができ、東京にも人脈を築いています。それらをいかに福岡、九州のために役立てるかを考えています。したがって、スペシャリストが全体を見渡せるようにしていくことが大事だと思います。

三苫 スペシャリストやゼネラリストとしての強みを伸ばしていくことはとても大切なことだと思います。さらに、一人で出来ることには限界もあると思うので、人を巻き込みながら、お互いに協力しあってより良いものを創っていく力も必要になってくるのだと思います。

星野 私は福岡に2度目の勤務となりますが、最初の福岡赴任となった98年は、いわゆる「貸し渋り」が社会問題となった時期であり、またハウステンボスやシーガイアも破綻する等大変厳しい環境でしたが、その中で私が「すごい」と思ったのは自治体の方々の精力的な姿です。

例えば福岡のとある百貨店の閉店では、当の百貨店関係者でなく、行政幹部自ら弊行にファイナンスの相談に来られるなど、地場経済に対する並々ならぬコミットメントと機動力を感じました。一方、重厚長大型の産業構造からの転換期だった北九州市は、国内でもいち早く「エコタウン」制度の認定を受け、市環境局職員自ら環境産業のプロジェクト作りに携わっておられました。

また、福岡県庁では合野さんが海外を飛びまわって企業誘致をされていました。自治体の方々が、まるで商社マンのように事業創造や産業育成に取り組む姿は東京で見られず、力強さを感じました。

今回再び赴任して、彼らに続く人材が出てきて欲しいと思うところはあります。他方、地域経済の行く末を考える立場としての大学の躍進は目を見張るものがあり、10年前には存在していなかったビジネススクールやベンチャービジネスラボラトリー等が生まれ、それらが地域経済と積極的に関わる姿勢は、各経済プレイヤー間の横串を指す存在として今後期待できると思います。


寺崎正勝
九州電力経営企画本部企画担当・地域戦略グループ長
1959年生まれ、福岡市出身、西南学院大学商学部経営学科卒。82年九州電力に入社、広報部副長、事業開発部課長、経営企画部課長を経て、現在に至る。2004年アメリカ国務省International Visitor Leadership Programに招聘、参加

議論と対話で産学の人材像ギャップを埋める

寺崎 九州電力と北九州市は2005年からカーエレクトロニクス拠点の構築を目指して、自動車メーカーや地元大学等と今後の車づくりで求められる人材像や育成法を議論したことがあります。

議論を通じてメーカー側からは「どんなに最先端の知識を持った人が大学から来ても結局は一から車づくりの概念を教えないといけない」という意見がありました。

つまり、メーカーが求める人材像と大学が送り出した人材には大きなギャップがあったのです。最初は産学で考え方の相違がありましたが、議論を通じてお互いを理解し、歩み寄ることができました。

その結果、北九州大、九州工業大、早稲田大学による連携大学院が2009年度に誕生し、各大学の強みやメーカーニーズを踏まえたカリキュラムの構築、メーカー技術陣の招聘による実践的な指導や単位互換制度、さらにインターンシップの充実も図られました。

互いに求めるものが違うなかで、コミュニケーションを通して求められる人材づくりの仕組みができあがった一つの事例であり、一連の動きは経団連も注目しています。

後藤 先ほど基礎力を持つ人材が地域になかなかいないと話しましたが、それは「他流試合」をしていないからだと思います。


後藤太一
福岡アーバンラボラトリー代表社員 米国認定都市計画士
1969年生まれ、東京都出身、東京大学工学部都市工学科卒、カリフォルニア大学バークレー校修了。鹿島建設、ポートランド都市圏自治体、福岡アジア都市研究所主任研究員、福岡新都心開発事業部長を経て、現職へ。

いつもの仲間と同じことをやる以外の場数をどれだけ踏み、どれだけ一線を越えた体験をするかが大事です。ただ、経験するのではなくて、結果として何らか達成するものがないと肉になり血になりません。

そういう「他流試合」を重ねた人がもっと増えたら良いと思います。

星野 自治体の人材育成策で参考になるのがシンガポールです。シンガポール国際企業庁では毎年採用した職員を世界各国に留学させて修了後、留学国での企業誘致を担当する制度を採用しています。派遣後の雇用期間は6年と定められており、自分の転職先の確保も含めて、実績づくりに真剣になります。

早期に誘致担当者を海外経験をさせて他流試合をさせることで企業誘致の成果を最大限に引き出すだけにシンガポールの制度から学ぶ点が多いと考えます。

議論は一人称で語らなければならない

田村 ある国で一定の豊かさを達成したとみなす基準は、1人あたりGDPが1万ドルと言われています。いま4000ドル弱の中国は今後、毎年15%成長したとしても到達するのは2017年頃です。

また、インドは毎年10%成長しても2038年頃です。つまり中国から成熟した観光客が来日するのは7年後以降です。この点を見据えて観光開発を考えている人材がいるでしょうか。

観光に限らず、基礎的なデータが頭に入っていない人が多いように思えます。そして、いろいろ見逃した結果、人材が劣化している局面もあるのではないかと思いました。

後藤 「どういう人材をつくるべきか」「社会の仕組みが間違っている」と言うのは他人事です。「あなた自身はどうか?」と問いたいと思います。この場も含めて議論は、一人称で語らなければいけません。

もしも「すごい人材が現れて、地域を救ってくれる」という期待があれば、それは幻想だと思います。


会場からの質問や意見が飛び交うなど、自由闊達な議論となった

一般 「すごい人材が地域を救ってくれるというのは幻想」という話ですが、私はそれが一番現実的だと思います。

福岡に住みたいと思う人たちが大勢やって来るようなまちを目指すべきだと考えています。そのためには、どうしたら良いかについてお聞きしたいと思います。

後藤 たしかに外の人を使うという考え方もあると思います。ただ当事者の気持ちを掴むにはコミュニケーション能力、すなわち対話力が問われます。

私が福岡に来て驚いたのは、福岡にいながら福岡以外、なかには海外の仕事ばかりこなしているフリーランスの人が大勢いることです。彼らの仕事の内容を伺うと、高度な技術で多様な事業を手がけている人が多く、特定の領域に閉じこもっていません。彼らの力を地域で活用しない状況はもったいないと感じます。  

地元大手企業も少しだけ勇気を出して彼らに発注すれば、その状況が変わるのではないでしょうか。

合野 私の立場では、異文化とも交じり合って違う価値観を産み出すとか、新しいことを発想していくべきだと思います。例えば、ITや半導体についてもシリコンバレーとは違う、新しいアジア型のあり方は皆さんと協議しながら、深めたいと考えます。

三苫 見過ごされがちですけど,当たり前のことをコツコツと頑張っている人たちの力があって、いろんな人たちの力がつながって、より良い福岡へとつながっていくんじゃないかなぁと思います。

自らのミッションについて自問自答を繰り返す

一般 冒頭の横串を刺せる人材、動ける人材をどうつくっていくかという話を聞きたいと思います。

寺崎 例えば会社ですと組織に所属している以上、与えられたミッションがあります。それを本当に理解していないと横串を差せません。と言うよりも横串を刺す意味や必要性がわからないと思います。

部下にも常に「本質は何か」と問い掛けながら、私自身も自らのミッションについて自問自答しています。それができると組織が面白くなり、自分で色々と能動的に動けるようになってくると思っています。

合野 私自身は横串を刺して動いていると自認していますが、「何のためか」という理解がないと、遂行だけに追われがちです。使命が分かると、部下の動きは違ってきます。上司や先輩は部下や後輩に考える機会を与え、動きを見守らなければなりません。

私は「福岡県の優れたモノを世界に売りたい」との思いで環境や農政など、仕事は何でも引き受けます。色々な仕事を手掛けるので管轄部署から怒られますが、良い情報は自分で掴み、担当部局に持ち込むという大局的に物事を考えることが必要だと考えます。


星野高明
日本政策投資銀行九州支店業務課調査役
1973年生まれ、神奈川県出身、東京大学法学部卒。1997年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ロンドン・ビジネス・スクール大学院修了。プロジェクトファイナンス部、環境・エネルギー部を経て、2度目の九州支店勤務へ。

星野 福岡は、各種専門学校やデザイナー系のスクール等、専門性を育てる場自体は充実していながらも、それがあまりGDPの成長に寄与していないという現実があるように思われます。

すなわち、専門スキルを有した人が、福岡・九州という限られた経済の中で商売するに留まっている点にこそ、課題があると思っています。本当はこういう人材が、アジア・海外に出て福岡に外貨を稼いでくるような展開が見られるべきであり、そういう動きこそが、横串を指す人材としても機能していくのではないでしょうか。 例えば食の分野は、そういう動きを仕掛けられる有望な分野と考えており、既に横串を指すような動きの萌芽が見え始めています。

福岡で何か新しいことを始める舞台をつくりたい

一般 これまでの議論で「人材が輩出できていない」「輩出しているのに有効に活用できていない」「福岡から流出している」の3つだと思います。

チャレンジ精神を持って新しいことをやりたい人は東京へ行く一方、福岡で就職する人は保守的で、仕事より生活を優先しがちな人が多いように思えます。そういう人が集まっても、新しいことはなかなか起きません。

では、どうすれば良いかと考えると、外から誘致する発想ではないかと思います。アジアの玄関口として、海外の人が福岡に来て、起業する仕組みをつくるような構想が必要ではないでしょうか?

合野 このような構想が必要というのは、その通りです。福岡県内の大学を卒業した7割以上が県外に出ており、県市ともに問題視して企業誘致やベンチャー育成に力を入れています。その中でいま県が国や地元財界などに話をしているのが、『福岡アジア新時代創造特区』です。

中国では税金ゼロの経済特区を作り、韓国も同様に進出企業によっては税金をゼロにしています。このような抜本的な規制緩和や税制改革を総合的に進めて、福岡でも何か新しいことを始められる舞台を作りたいと考えています。

寺崎 先ほど人材が東京に流出しているという話がありましたが、果たして彼らはすべて東京で成功しているのでしょうか。その点に私は疑問を感じています。


田村馨
福岡大学商学部教授/フォーラム福岡編集委員
1954年生まれ、福岡市出身、北海道大学卒。農林水産省政策研究所経済政策部主任研究官、日本総合研究所社会システム研究部コンサルタントを経て、福岡大学へ。

福岡は支店経済です。中央から有能な方が赴任されています。その彼らの行動を見ていると非常に面白い。伸び伸びと自分が思い描く企画を自分で仕掛け実行したり、仕事以外でも活発に好きなことをしている方を多く見かけます。東京で大きな組織の小さな歯車であったものから、福岡に来ると小さな組織で大きな歯車になれる。責任は決して小さくないものの福岡での時間を「自己実現の場」として生かしているように感じるのです。

福岡の目指すべき姿のひとつには、こうした『自分の思いを実現できる都市』ということではないかと考えます。「自分の思いをこの地で実現できる」あるいは「他の都市よりも実現しやすい場所である」という点は、街としての大いなる魅力につながると思います。 

田村 いま求められるのはソーシャル・イノベーションを起こす人材。従来のイノベーションは企業や組織に利益や成長をもたらしただけ。地域や社会のあり方を射程に入れつつ自らの変革を厭わない人材こそが企業や組織を変え、社会や地域を変えていくのでしょう。

さて、今日は、様々な人材像や人材育成のあり方などが出ましたが、人材については簡単に答えが出る問題ではありません。今回の議論をひとつのきっかけにして、各自が自分なりの考えを導き出すべきではないでしょうか。(2010年2月24日、九州経済調査協会6階大会議室にて開催)


明日の担う人材について熱心な討論を重ねた


福岡大学商学部 次世代の公共セクターを担う人材育成プログラム
2009年の政権交代で、地方分権、道州制など地方政府を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。戦後、地方経済社会の発展を支え、成長を牽引してきた、官と政の大きな枠組みが変わる中、地方政府のあり方も変わらざるを得ないでしょう。そのあり方如何で当該地方・都市の発展も大きく決まるからです。いまこそ、新しい公共セクターのあり方と、それを担うマネジメントとリーダーシップのあり方を考えなければなりません。本プログラムでは、次世代の公共セクターを担う人材育成プログラムの開発に取り組んでいます。

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※当ページの内容は、2010年3月31日発行の30号に掲載されたものです。

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