課題は宿泊、予算、交通… そして「市民の理解」
2006年2月10日発行の9号より
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本誌が行ったアンケートによると、福岡五輪への期待の一方で「SMAPがヤフードームでコンサートをするだけでホテルが満杯になる都市で、オリンピックなんてできるわけがない」との声や、財政負担増の懸念から招致に反対する意見も少なくない。そうした意見の背景には、五輪招致の意義よりも費用やスタジアムの建設などが先行して論じられていることがあるのではないか。
五輪招致という大事業は行政のみで成し遂げられるものではない。市民と行政が一体となった取り組みが必要だ。課題のひとつひとつをどう乗り越えるかを明確にし、五輪招致の意義をきちんと伝えていくことが、市民の理解を得ることにつながり、市を挙げての招致活動が実現する。五輪招致の意義と課題について、福岡市オリンピック招致準備事務局の吉村哲夫事務局長に聞いた。
【宿泊】地元ホテルの協力体制が強み。
不足分はクルーズ船や九州内で手当て可能

福岡市オリンピック招致準備事務局
吉村哲夫事務局長
五輪開催となると、各国の選手・役員1万6000人は選手村があるが、それ以外にIOC関係者が約6000人、報道関係が1万9000人で、大会関係者の合計が約4万人。一般の観客が1日最大10万人以上が訪れる。これに対して、福岡市内のホテル・旅館は211件2万632室で定員3万496人(2004年、福岡市観光統計)。IOC関係者にはスイートルームが必要なVIPも多く、さらには開会式や閉会式には国の首脳クラスの出席も予想される。宿泊需要は質・量の両面で福岡市のキャパシティを超えることになりそうだが…。
吉村事務局長「まず、現在のホテルのキャパシティについては、福岡の場合はホテル業界が全面的に協力してもらえることが強みだ。ユニバやサミットなど数々の大会やコンベンションで協力関係を築いてきた。もっとキャパシティが多い都市でも必ずしもすべての部屋が使えるわけではない。アテネ五輪ではクルーズ船を大会期間中ホテルとして利用していたが、福岡でも可能ではないか。国賓クラスの来福がどれだけあるかは予想しにくいが、サミットなどの際に主要ホテルのほとんどで受け入れた経験があるし、開会式前後などの限られた期間のことでもあるので、セキュリティの問題も含めて心配はしていない。
クルーズ船をホテルとして
利用することも可能だ
(写真は本文とは関係ありません)
さらには、新しいホテルができることも福岡の都市の発展を考えると十分に予想されること。また開催までには九州新幹線が開通しているので、熊本なり鹿児島からでも短時間で通うこともできる。もちろん北九州のホテルも活用できる。このように積み重ねていけば、関係者が宿泊することについては支障はないと考える。
一般の観客については、過去のどの五輪でも開催都市のホテルに宿泊するということはありえない話で、みなさん周辺都市の宿泊施設を利用したり、ホームステイする場合もある。福岡の場合の強みは九州各地に温泉も数多くあり、そう宿泊可能数では首都圏と変わらない。この五輪招致活動を通じて九州の一体的な観光浮揚を図ることも重要なことであり、九州観光推進機構とも連携して取り組みたい。九州の自然や温泉を楽しみながら五輪観戦ができるというところも福岡五輪ならではの特徴としてPR材料となるだろうし、特に参加国の事前キャンプの誘致を九州中で展開することなどを開催計画の中に盛り込んでいきたい」
【財政】仮設施設の活用で全体の経費を圧縮
予算は遺産として後利用可能な施設に
オリンピックにかかる経費は大きく分けて3つ。招致活動にかかわるものと直接の大会運営費、そして施設整備などにかかわる費用だ。このうち、大会運営費はIOCからの分配金やスポンサーの協賛金、チケット収入などでまかなわれるため、地元の負担となるのは招致費用と施設整備費だ。
招致費用については長野五輪の際は3年で約20億円。北京に敗れた大阪は4年間で約27億円をかけたと報告されている。府県や市などの自治体の負担金が約半分、残りは地元経済界を中心とした寄付によってまかなわれた。
計画次第で大きく増減するのが施設整備費だ。巨大なスタジアムや交通インフラなどを整備するとなると2000億円、3000億円という巨額の費用がかかり、実際、過去にそうした大会もあった。しかし福岡の場合は競技会場としては既存の施設や仮設施設、特設スタンドなどを活用すること、さらには新しい交通インフラ整備などを抑えることで、1000億円程度のコンパクトな投資に留めたいのが山崎市長の考えだ。
しかし、それだけの費用で招致レースを勝ち抜くための魅力的なプランができるのか、あるいはその費用そのものを捻出できるのか、といった疑問の声も出てきている。
吉村事務局長「九州のGDPがオランダ1国に匹敵し、ギリシャよりもはるかに大きいことなどを考えれば、招致費用は問題ないだろう。それは経済規模だけのことではなく、これまで福岡でユニバやアジア太平洋博覧会(よかトピア)などさまざまな大きなイベントを実施するにあたって、そのすべてで経済界からもかなりの協力をいただいて、官民が一体となってやってきたという実績がある。そういう意味では心配ないと思う。
運営費についてはIOCからの分配金や協賛金によってまかなわれることになるので福岡市の負担となることはない。まして福岡は中国や韓国に近いこともあり、ギリシャなどよりもスポンサーの獲得という点では優位にあるという見方もできるだろう。
また、東京都の財政力と比べられると、確かに東京の方が大きいが、われわれは施設整備に多額の費用をかけない、という考えが基本的にあるので、福岡市の財政力で対応できる金額に抑えたい。
ユニバを契機に整備された
スポーツ施設は市民の財産となっている
(写真は博多の森球技場)
ユニバーシアード大会の時に投じた費用が現在の負担となっている、という指摘もあるが、ユニバを契機に整備した施設は市民にとって本来必要なものであり、実際に区体育館や総合西市民プールなどはかなり利用されているし、西南部の道路などインフラ整備も進んだ。
五輪となると大会の規模が全く違うので、違う視点からの考え方が必要となる。それは、遺産としてどう残すのか、つまり後利用を最大限に考えること。これがなければ施設をつくる意味がない。現在の計画原案にも示している通り、できるだけ仮設の施設を活用する方針だ。これによって後利用の問題点を解決できる。IOCも強く推奨していることでもある。また、仮設費用は運営費用として計上されるため、地元の負担にならないことも全体の経費を抑える上で大きな効果がある」
【市民の理解】五輪招致は未来づくりへの挑戦
スポーツの意義を見直すのも大事
福岡市の五輪招致の取り組みについては、必ずしも市の考え方が市民に理解されているとはいえない。市民の間から招致の気運の盛り上がりがまだ見られないのは、計画内容が決定・公表に至っていないこともあるが、市長の招致表明以来の説明不足も原因ではないか。
吉村事務局長「市長の考えとしては、五輪招致にチャレンジすることによって、単に世界的に有名になったり、ハードが整備されたりとかいうことではなく、福岡を将来こんな街にしたいというビジョン、つまり文化的・創造的な面だったり、国際的に交流ができることであったり、経済的に生き生きとした街であることなどを実現していくために、今回の五輪招致への取り組みは契機となるのではないかということ。五輪の場合は文化的な面も強く求められるし、パラリンピックの開催もあることから共生社会という問題も考えなければならない。さらに環境にやさしいまちづくりをしないと絶対に受け入れてもらえない。ホスピタリティも必要。だから、スポーツの祭典ということだけではない意義がある。都市にとってあらゆる面で将来を見据えた都市づくりへのチャレンジであるということだ。
もうひとつの大事な視点は、スポーツの意義をもう一度考えること。五輪の競技を見ることにとどまらず、体に障がいのある方もお年寄りも子どもたちも含めて、より多くの市民がスポーツを楽しめる環境をつくることが大事。われわれの社会生活にとってスポーツがどんな意義があるのかを考えることの契機にもなる。実際、バルセロナやアトランタ、シドニーなどの成果報告を聞くと、市民のスポーツ参加率が向上したという。そうした効果は福岡でもおおいに期待できると思う。
こうした意義を市民のみなさんに理解していただけるかどうかは、われわれがどういう計画をつくれるかだろう。具体的な計画が固まってくると自然に注目度も高まる。そこでしっかりとPRしていきたい。また、青年会議所のみなさんの活動には大いに期待している。九州のJC全体で取り組む組織もできている。五輪招致の活動は、長野にしろ大阪にしろJCのメンバーが中心を担われたということもあり、彼らの熱気を招致活動につなげていただければ。九州の一体的な発展という意味では、九州全体の経済、観光に大きな影響を与える可能性があるわけで、みんなで手を携えて活動する価値はあると思う」
【交通】コンパクトな競技会場配置で効率的輸送
過去の五輪で必ず問題となっているのが、交通問題だ。渋滞によって選手の会場への到着が遅れる、といったケースも何度もあった。福岡で開催した場合、その心配は?
吉村事務局長「競技会場を博多湾沿岸に集中配置するので、選手や役員の競技会場の移動はほどんど都市高速が使える。これほどコンパクトで効率的な都市はほかにないのでは。仮にメーンスタジアムが須崎埠頭となった場合でも、天神からスタジアムまでは十分で歩ける距離。どの五輪でもスタジアムの周辺は交通規制をするので、観客は交通機関の拠点から歩くのが普通。敢えて新しい道路を設けたり交通機関を新設したりせず、今の交通インフラを活用する方向で計画を進めたい。空港の問題も、現在の福岡空港のキャパシティで十分対応できると考えている。特に福岡空港の場合は関空や中部、さらには韓国の仁川、香港、上海などのハブ空港とのアクセスが多様にある。必ずしも直接の便がないといけないという問題ではない。ロンドンやパリと比べられると確かに劣るかもしれないが、それを言われると、世界の限られた都市でしか五輪はできないということになる」(宮崎仁士)
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※当ページの内容は、2006年2月10日発行の9号に掲載されたものです。


