フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

福岡/九州での、自立の《芽》となる2大プロジェクト

2012年3月31日発行の42号より

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九州の大動脈である九州新幹線に続く大型プロジェクトとして期待が集まるのが、『グリーンアジア国際経済総合戦略特区』と『国際リニアコライダー』だ。追加売上高5兆円、経済波及効果5兆円という2つの巨大プロジェクトの概況を取り上げる。

九州新幹線時代を迎え、九州の自立を促す2つの大きな布石

昨年発生した東日本大震災の翌日・3月12日に静かなスタートを切った九州新幹線・鹿児島ルートは全線開業によって九州の南北を結ぶ大動脈としての役割を担う。

全線開業1年間の利用者数は、博多〜熊本は目標の4割増にわずかに届かなかったものの、前年同期の在来線特急に比べて37%増の896万人という数字を上げた。一方、熊本〜鹿児島中央は、同65%増の514万人という大幅な伸びを示している。

また、九州新幹線の乗り入れに先立って開業した新博多駅ビル『JR博多シティ』の開業1年間の来館者数は目標の5割増となる5420万人、全館の累計売上高も15.4%増の750億円と好調だった。

一方、2011年度の九州における観光消費額は、対前年度比11%増の2兆4900億円とシンクタンク・九州経済調査協会は推計する。九州新幹線全線開業で宿泊客が大幅に伸びた鹿児島県内での経済効果について、鹿児島銀行系シンクタンク・鹿児島地域経済研究所は464億円と試算。同じく熊本県内での経済効果についても、肥後銀行系シンクタンク・地域流通経済研究所は195億円と推計する。

九州新幹線全線開業に関連した開発プロジェクトも一段落した感はあるものの、九州がさらにパワーアップしていく大型プロジェクトがいま、動き出している。昨年12月に国から総合特区の指定を受けた『グリーンアジア国際経済総合特区』、そして国際協力の巨大実験施設である『国際リニアコライダー(ILC)』の誘致だ。福岡が牽引していくカタチで、《九州はひとつ》としてまとまって、地域の自立を目指す動きがいま、始まろうとしている。

県・2政令市で取り組むグリーンアジア国際戦略総合特区

国の国際戦略総合特区に指定される

国が昨年12月に公表した総合特区の第一次指定分に福岡県・北九州市・福岡市が共同で申請した『グリーンアジア国際戦略総合特区』が、国際戦略総合特別区域として選ばれた。

グリーンアジア国際戦略総合特区は、世界の環境課題対応先進国である日本が培ってきた都市環境インフラ技術やノウハウをパッケージ化して、アジアの諸都市に提供していくとともに、産業のグリーンイノベーションをさらに推し進め、アジアの活力を取り込みながら共に成長していくことで、アジアから世界に展開していきたいとする。

福岡県の小川洋知事は、2月20日に開催したフォーラム福岡の講演会において、「アジアとの高い親和性を強みとして生かしながら、アジアとともに発展し、世界に展開していく特区構想を実現させていきたい」と語った。福岡県と共同申請をした福岡市は、アジアとの物流網を強化し、さらなる企業の集積による産業拠点化を期待している。一方、北九州市は『緑の成長戦略』を加速させて国内外の投資を呼び込み、雇用を創出して地域経済の活性化を目指したいとする。

日本の成長戦略を担う2つの国際戦略総合特区

「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の実現に向けて国が2010年6月に発表した『新成長戦略』―。戦略の実現に向けて内閣府が設けた『総合特区』制度は、大都市圏を対象に国際競争力強化を目指す『国際戦略総合特区』と全国各地の地域資源を生かしていく『地域活性化総合特区』からなる。

両特区ともに規制緩和に加えて、税制・財政・金融上の支援措置などを総合的に実施するのが特徴だ。国際総合戦略特区の指定に向けては全国11の都市・地域から申請があり、内閣府の専門家等による審査の結果、7地域が指定された。

小泉政権下の2003年4月から実施された『構造改革特区』は、特定地域で規制を緩和する社会実験を構造改革の突破口としたため、税制優遇などの措置は無かった。これに対して、総合特区は規制緩和に加え、税制・財政・金融上の支援措置を設けるなど、複合的な政策が特徴だ。

成長戦略の発表後、総合特区の制度設計のために実施したアイデア募集には、全国の自治体や企業、NPOなどから約450件の応募があった。総合特区の財源としては、各省庁の予算を重点的に活用することとし、なお不足する場合などに充てられるものとして国際戦略総合特区1あたり上限20億円、地域活性化総合特区で同5億円の総合特区推進調整費が手当てされた。

グリーンアジア特区のあらまし

国が新成長戦略で打ち出す戦略分野は●健康(ライフ・イノベーション)、●環境(グリーン・イノベーション)、●アジア、●観光・地域、●科学・技術・情報通信、●雇用・人材、●金融―の7つだ。

このうち、グリーンイノベーションとアジア経済戦略の分野で国に提案したのが、グリーンアジア国際戦略総合特区だ。これまで、福岡県・北九州市・福岡市が培ってきた地域資源である《環境トップランナーとしての技術・ノウハウ・ブランド》や《緊密なアジアとのネットワーク》を強みとして生かす。

同特区では、「アジアの活力を取り込み、アジアから世界に向けて展開し、アジアと共に成長すること」を目標として掲げる。具体的な数値目標としては、国が目標としている2020年までに環境分野での新規市場創出50兆円超のうち約1割に相当する約5兆円の追加売上高を目指している。

グリーンアジア国際戦略総合特区の具体的な中身ついては、大きく4つの柱で構成されている。

●アジア低炭素化センターでのパッケージ化による環境ビジネスのアジア展開

アジア低炭素化センターを核に産学官が連携して、《上下水道》《スマートコミュニティ(地域エネルギー)》などの都市環境インフラをアジア諸国の現状やニーズに応じて関連技術やノウハウなどを組み合わせてパッケージとして輸出していく。

●グリーンイノベーションを加速する産業拠点の形成

高い環境性能と高コストパフォーマンス性を備えた製品の研究・開発から量産までを一貫して手掛けて、環境にやさしい低燃費車や生産プロセスを効率化する産業用ロボットなどを需要の拡大が期待されるアジアをはじめ世界に向けて販売していく。

●資源リサイクルの次世代拠点づくり

携帯電話やデジタルカメラなどの小型電子機器や太陽光発電パネル、リチウムイオン電池などの資源となる廃棄物を国内やアジアから広域的に収集して、レアメタルなどを回収していく新しいリサイクル技術や社会システムづくりに取り組む。

●アジアとの円滑なビジネスネットワークづくり

高速・低コスト(航空機の約1/5以下)・低環境負荷(CO2排出量約1/40以下)のRORO船(コンテナトレーラーの車台部分ごと積み込む貨物船)を生かしながら、アジアとのヒト・モノ・カネの往来を活発化させて、環境ビジネスを中心にアジアの活力を取り込んでいく。

今後に向けたグリーンアジア特区の展開

今年1月、グリーンアジア国際戦略総合特区を推進していくために福岡県、北九州市、福岡市の3者による共同事務局を福岡県庁内に設置、事務局長に北橋健治・北九州市長が就任した。

今後、外国人招聘の手続き簡素化、廃棄物の広域収集運搬の規制緩和、日中韓におけるコンテナシャーシの相互乗入、水素ステーション建設での規制緩和などに取り組み、「環境を軸とした産業の国際競争力を強化し、アジアの活力を取り込み、全国に経済効果を波及させていく」考えだ。

地域の《宝》となる、夢の巨大実験施設『国際リニアリコライダー』誘致を巡る動き

世界3大プロジェクト・ILCの誘致と九州

いま、世界の素粒子研究者が熱い視線を注ぐ国際的な巨大プロジェクトがある。宇宙誕生を巡る謎を解明していく『国際リニアコライダー(International Linear Collider ILC)』計画だ。

ILCは、全長31km〜50kmの地下トンネル内の直線加速器で電子と陽電子をほぼ光速度まで加速して、衝突させる巨大な実験研究施設である。この衝突実験では、ビッグバンと呼ばれる宇宙誕生の直後を再現することができ、宇宙誕生の謎をはじめ、物質に質量を与える未知の素粒子・ヒッグス粒子の性質の解明、さらに時空構造の解明などが期待されている。

ILCは、国際宇宙ステーション(ISS)、国際熱核融合実験炉(ITER)とともに21世紀の『世界3大プロジェクト』と言われている。巨大な直線加速器の建設計画は、以前から日・米・欧が各々で推進していた。しかし、建設費が巨額になるため、2004年に世界の素粒子研究者が話し合って、加速器の基本技術を一本化した国際協力プロジェクトとして、世界に1カ所建設することで合意した。

この世界的な実験研究施設の建設候補地として、日本国内では福岡、佐賀両県にまたがる脊振山地が、東北・北上山地とともに挙がっている。

国際共同でつくる巨大実験施設ILCとは何か

大ヒット作『ダ・ヴィンチ・コード』に続いて映画化された、ダン・ブラウン著『天使と悪魔』の舞台として登場した欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型加速器が現在、世界最大・最高性能を誇る。

スイス・フランス国境にある、円周27kmの円形地下トンネルでは、2008年9月から大型ハドロン加速器(LHC)を稼動させて、陽子同士の衝突させる実験を手掛けている。LHCを運用する欧州合同原子核研究機関に常駐するスタッフは2300人強で、年間に利用する研究者は約1万人にのぼる。この数は、全世界の素粒子研究者の約半数にあたる。

これまでの素粒子物理学の研究過程で新たに派生した技術としては、素粒子研究者間のコミュニケーションツールとしてCERNが発明したインターネット上のWWW(World Wide Web)が挙げられる。また、日常的に使っているGPSも一般相対性理論の検証実験用に開発した技術がベースだ。さらに世界のコンピュータを結ぶ新処理法であるグリッドコンピューティングも誕生している。

ILCが地域・社会にもたらす莫大な波及効果

現在、LHCが手掛けるのが陽子同士の衝突実験であるのに対し、ILCでは素粒子である電子・陽電子で衝突実験をするため、非常にクリアな反応をみることができる。このような世界最先端の加速器であるILCの開発・実用化に向けても新材料や超精密加工、超伝導技術などが求められる。これらの高度な技術開発の成果はITやバイオテクノロジー、ナノテクロノロジー、医療、環境などの幅広い先端技術分野への応用が考えられる。

世界最先端の科学技術拠点の誕生や地域経済の活性化など、ILCが地域にもたらす効果は大きい。

ILCの誘致が成功して、施設が完成すると、世界中から数千人の科学者・技術者とその家族が暮らす国際学術都市が誕生する。その経済効果は、野村総合研究所の推計によると、ワールドカップに匹敵する5兆円に上るという。また、青少年への科学的な好奇心を高めることで、次世代を担う科学者・技術者の育成や科学技術の振興、さらに国際社会への貢献なども考えられる。

ILC建設の総事業費8000億円・工期10年

ILCの建設計画には、日本をはじめとするアジアや、欧米などの先進国を中心に参加が見込まれる。建設候補地は、ヨーロッパ2地域(ドイツ、フランス・スイス)、ロシア・ドゥブナ、アメリカ・シカゴと日本2地域の計6地域だ。

今年末までに各建設候補地の詳細な工学設計を終えて、各国政府に提示される予定だ。その後に政府間協議を経て、建設地を決める流れになっている。ILC建設には約10年(最速7年)の歳月を要し、完成後は世界中の研究者・技術者が集まり、20年〜30年の運用が見込まれる。

2007年に発表されたILCの概念設計書や建設コストによると、総事業費約8000億円が見込まれる。先例では誘致国が半額負担、残りを参加国で負担するルールだ。完成後の施設運営費は年間約400億円を見込む。

素粒子学&加速器大国・日本、そして、ILC誘致の現状

小柴昌俊『宇宙ニュートリの検出』、南部陽一郎『自発的対称性の破れ』、小林誠と益川敏英『小林・益川理論』、湯川秀樹『中間子の存在予想』、朝永振一郎『繰り込み理論』……。ILCの根幹である素粒子物理学は日本の得意分野であり、ノーベル物理学賞受賞者を数多く輩出する。また、加速器の基幹技術である超平行ビーム生成と超伝導加速空洞で世界記録を持つ日本は加速器大国だ。

もっとも、現状では、ILCは研究者間での取り組みであり、日本を含めた各国とも政府レベルでの具体的な検討を進めていないのが実情だ。夢の巨大プロジェクトともいえるILC誘致に向けては、まず国がILCを国家プロジェクトとして位置づけることが当面、最大の課題だ。

建設条件で優位な九州・背振山地、震災復興を掲げる東北・北上山地

九州へのILC誘致の実現に向けて、福岡・佐賀両県は2007年10月、地元大学や経済団体などで組織した『先端基礎科学次世代加速器研究会』を設置して、次世代加速器を主な題材として基礎科学を勉強・研究しつつ、誘致に向けた検討や調査・研究などを手掛けてきた。2011年度は、脊振山地の地質調査やILCを核とした国際研究都市の構想策定に取り組んでいる。

建設候補地の九州・背振山地は、「活断層や人工振動が無い」「固い安定岩盤の50kmにわたり確保可能」「アクセスや輸送で便利」などの条件面で優位性がある。福岡・佐賀両県は昨年11月、九州・山口各県や経済団体にも働き掛けて、九州が一体となって取り組む体制を整えた。

一方、東北は2009年4月、岩手県と東北経済連合会を中心に『東北加速器基礎科学研究会』を発足させて、活発に活動している。昨年3月に発生した東日本大震災は、ILC誘致を取り巻く状況も一変させた。昨年6月、東日本大震災復興構想会議の場において、達増拓也・岩手県知事が『TOHOKU国際科学技術研究特区』を提案、ILCを誘致して『国際素粒子・エネルギー研究所』を国家プロジェクトとして創設することを要望した。

《地域の宝》となる、ILCが導く九州の未来

「岩手県は東北加速器基礎科学研究会による要望活動も積極的に実施」。福岡・佐賀両県は「先端基礎科学次世代加速器研究会を中心に誘致活動を実施」。文部科学省研究振興局と内閣府政策統括官が昨年9月にまとめた総合科学技術会議有識者議員会合資料『国際リニアコライダー計画について』で誘致を目指す動きを記す。

九州から国への要望については、ILCを核にした国際研究都市構想をまとめ、関係者へ説明後、今夏から開始する見込みだ。宇宙誕生の謎を解明するILCは、人類共通の財産であり、さらに九州への誘致が実現すると、世界に貢献できる《地域の宝》になり得る国際プロジェクトでもある。ILCの誘致に向けて、九州の産学官が一体となって、総力を挙げた取り組みが今後、大いに期待される。(近藤 益弘)

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※当ページの内容は、2012年3月31日発行の42号に掲載されたものです。

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