フォーラム福岡

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都市資産としての大学の価値を考える

2008年7月31日発行の21号より

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九州新幹線が博多駅に乗り入れる2011年、九州大学は創立100周年を迎える。九州大学という「知の拠点」とともに福岡市は全国有数の都市に発展し、大学集積地として繁栄してきた。大学をひとつの産業、社会インフラとしてとらえ、都市資産としての価値を探る。

どうして大学を都市資産と考えるのか

九州大学は現在、大学院を含めて1万8000人の学生が在籍し、5000人近くの教職員が働いている。九大の年間予算は1140億円、資産の合計は3640億円の立派な「事業体」だ。直接利益こそ出さないものの、これまでの100年弱の間に12万人の人材を社会に送り出してきた。それに受託研究や共同研究の産学連携などの研究収入が年間に85億円。人とモノを動かす空港、港湾、新幹線、高速道路が交通インフラなら、大学は人材育成や開発研究の社会インフラという見方もできる。

例えばいま進められている九大の伊都キャンパスへの移転は、完成までに20年を要し、最終的に1万8000人の教員・学生が移転するという一大プロジェクトだ。九大は伊都キャンパス移転を「一大学のキャンパス計画でなく、一つのまちづくりと考えている」(梶山千里総長)と位置づけて、福岡市西部に新しい都市資産が誕生するという考え方だ。

もちろん有形の資産だけでなく、100年近くにわたり九大が創出してきた目に見えない「資産」は計り知れないものがある。仮に明治期に当時ライバル都市だった熊本市か長崎市に九州帝国大学が設立されていたら、いまの福岡市の発展はあり得なかったと考える人は少なくないはずだ。

激烈だった九州3県での大学誘致合戦

九州大学はなにも天から降って来たわけではない。激しい地域間競争の結果だった。

1900年の帝国議会で「九州帝国大学設置建議書案」が可決され、第一段階として九州に総合大学の一分科として医科大学が開設されることになった。そこで長崎、熊本、福岡の3県の誘致合戦が展開される。医学に関係が深い長崎、九州の中核拠点都市を自認する熊本の2県に比べ劣勢の福岡県は、福岡市や博多商業会議所と協力して大学設置期成会を組織し、官民が一体となり誘致運動に取り組んだ。地元負担金、敷地や県立病院の提供などの誘致条件は3県ほぼ互角。地元紙同士のネガティブキャンペーンも展開された。誘致合戦のあまりの激しさに文部省内では「長崎には医科大学を置き、順次、福岡には工科、熊本には法科を配置」という折衷案も出たくらいだ。

まず長崎が落ち、熊本と福岡が激戦の末、1903年3月、福岡への京都帝国大学福岡医科大学の設立が決定した。当時「医界時報」は福岡の勝利について「福岡の運動はすこぶる機敏にして用意周到。一方、熊本は福岡の運動にあわてて運動を始めた感じがする。いわゆる油断大敵。熊本県は政府の要職に多くの人材を出しているので、労せずに手中に落ちると高をくくり自惚れていた」と報じている。要するに福岡の官民一体となった誘致運動が功を奏したわけだ。福岡医科大学設立の総事業費131万円のうち国費は81万円で、残り50万円を地元で負担した。

大学の資産価値を知っていた地元財界


2年後に創立100周年を迎える九州大学(写真は工学部本館)

1911年の工科大学の開設で京都帝国大学から独立して福岡帝国大学が誕生するときは、域外の古川財閥の60万円の寄付に助けられたが、福岡県は25万円を負担し、福岡市・粕屋郡・箱崎町は土地を買収して寄付している。1919年の農学部の開設のときも、県が総事業費219万円の半分以上に当たる135万円を負担している。さらに1939年の理学部設立のときは、総事業費150万円の大部分に当たる120万円を地元財界の麻生太賀吉、松本幹一郎、貝島太市、石橋正二郎らの寄付金120万円で賄っている。

これらの寄付行為の前提には1907年の北九州の明治専門学校(1912年に国に寄贈=現九州工業大学)の創設のとき、地元財界の安川敬一郎と松本健二郎父子が寄付金330万円と敷地を提供したことにある。

これらの寄付行為以外にも、九州大学の設立に際して、渡辺通りの名を残した渡辺与八郎氏は、教育上好ましくないとのクレームがついた大学付近にあった遊郭を福岡市・住吉の所有地に移転させることでも協力した。

当時の地元財界人は目先の利益にとらわれず、地域の発展のためには長期的にみて大学が欠かせぬ存在だと知り抜いていたといえるだろう。

なぜ福岡市は全国3位の学生数なのか

現在、福岡市には11大学と9短大があり、約8万人の学生が学んでいる。大学や学生の絶対数は全国第5位だが、福岡市の人口あたりの学生数は京都市、東京都23区に次いで全国第3位となっている。教職員数も9700人で同じく第3位である。

福岡市に大学や学生が多い理由について福岡市は「福岡市における大学の歴史は、明治期の九州大学誘致に始まる。都市の発展で、人が集まり、それが新たな大学の立地を誘発し、都市機能が高まるなかで、さらに都市が発展するという好循環によって、福岡市は全国有数の都市に発展し、大学集積地になった」(福岡市経済振興局) と説明している。要するに大学と都市の魅力や活力において両者には相乗効果や相関関係があり、切っても切れない存在だ。

大学産業は市に膨大なお金を生み出す

大学をひとつの産業として見れば、大学や学生は都市の経済面でも大いにプラスになっている。

九州経済調査協会の「大学の集積が福岡市に及ぼす効果等に関する調査」(2004年度)によると、大学や学生が市に落とすお金(需要増加額)は年間2327億円にのぼる。これは(1)大学・短大の事業活動(2)学会などのコンベンション開催による県外参加者の消費活動(3)教職員の消費活動(4)学生の消費活動−など直接的な消費活動に及ぼす4つのデータを主体に調査したものだが、生産誘発額は需要増加額の1・2倍の2793億円、粗付加価値額は市内総生産の2・8%の1755億円となっている。

「粗付加価値額の1755億円は、福岡市内の電気・ガス・水道の事業所が生み出す付加価値額1684億円とほぼ同規模で、人口6〜7万人の宗像市や筑後市などの市町村内総生産に匹敵する付加価値を生み出している。このように大学・短大の立地は、人材育成、産業振興、地域活性化など、都市や地域の発展に大いに寄与している」(九経調調査研究部・加峯隆義次長)

大学は都市機能を支える社会インフラ

九州経済調査協会の調査を受けて福岡市は、大学を(1)都市機能を支える重要なインフラ(2)相当な経済効果を有する一つの産業群(3)大学と都市の活力は相関関係・相乗効果がある−と位置付けて「知識を創造する『大学のまち福岡』」のスローガンを掲げ、次々に施策を打ち出している。

大学の持つ知的資源の活用の施策としては、次のような事業がある。大学・事業者・行政が共働してイベントや共同広告などを実施し、福岡の大学と都市の魅力を一体的にPRする都市圏大学連携事業「福岡で学ぼう2008」。都市圏大学の学長が一堂に会し、大学と市の相互発展に向けて情報交換や意見交換をする福岡市・大学定期交流会議。九大の水素キャンパスを活かし、子どもや市民、地場企業を対象とした環境・科学技術の教育プログラムを実施する科学技術理解増進事業などだ。

産学連携の推進事業としては、次のような事業がある。産学連携コーディネーターを活用し、大学の研究成果と企業ニーズを結びつけ、国・県などの助成事業の獲得支援を行う産学連携コーディネート事業。産学出会いの場の提供や、産学共同研究の育成支援を行う福岡産学ジョイントプラザ実行委員会事業などだ。

福岡市は2008年4月より、大学の知的資源の活用や産学連携の先導的施設として、九州大学伊都キャンパスの近くに「福岡市産学連携交流センター」を開設し、ナノテクノロジーをはじめとする最先端の研究者や企業の研究開発拠点、産学連携プロジェクトの拠点作りに力を入れる。

大学淘汰の時代へ挑戦するまちづくり

福岡市がこれだけ大学が持つ知的資源の活用に力を入れ出してきたのには理由がある。最近は少子化の影響で大学入学者の数が減少しており、大学も淘汰の時代へ突入する。福岡市から大学や学生の数が減ると、市自体の元気も失われてくるからだ。

九州経済調査協会の調査でも、福岡市の大学入学定員充足率は全国平均を上回っているとしながらも、大学全入時代の2015年には大学の生産誘発額は211億円減、粗付加価値額は132億円減、雇用誘発者数は1214人減と試算している。

このため大学では、生き残りをかけて学生獲得に向けた大学説明会やオープンキャンパスに力を入れている。公開講座やビジネススクール、社会人教育、市民への大学キャンパスの公開などの新しい動きも活発になってきた。これからが「知識を創造する大学のまち」福岡市の真価が問われるときである。(渋田哲也)

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※当ページの内容は、2008年7月31日発行の21号に掲載されたものです。

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