アイランドシティのプロセスと未来
- 都市の発展と環境との共生 -
2005年8月15日発行の創刊6号より
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都市の発展と環境との共生がクローズアップされている中、福岡市のアイランドシティで「環境共生都市」としての先駆的な街づくりが進んでいる。自然と人間が共生し、「持続可能な社会」を実践するまちづくりを成功させるカギはハードだけでなく、市民、事業者、行政それぞれの最善の取り組みが握っていると言える。アイランドシティのプロセスと未来を検証していきたい。
コンテナ急増で急がれた港湾づくり
福岡市は水が足りないために60年代、他の臨海工業都市のように工場誘致ができなかった。その代り、港の整備が進み、須崎ふ頭は穀物、荒津地区は石油、中央・博多ふ頭は客船、東浜はLNG(天然ガス)・砂・砂利・セメント、箱崎は野菜・果物・自動車・穀物・木材・鋼材、そして香椎パークポートはコンテナといった具合に現在の博多港の役割ができあがった。
一方で、情報都市としての性格から、シーサイドももち、西福岡マリナタウンなどの埋め立てが進み、都市軸が強化された。また、下水処理場や都市高速、人工海浜などの整備も進んだ。その間、生活港湾としての博多港の役割が強まり、コンテナが急増したため、香椎パークポートの整備が急がれたという経緯がある。
海外との貨物輸送の割合は船が99・7%を占め、飛行機は0・3%に過ぎない。パークポートとアイランドシティが向き合う格好で、国際コンテナ物流ゾーンが整備されることになったわけである。
陸続きの埋め立てから島方式に
アイランドシティのある博多湾東部海域は、78年改訂の博多港港湾計画によると、香椎から和白地区にかけて陸続きの埋め立て計画だった。しかし、水鳥の生息地としてラムサール条約の登録地に匹敵する和白干潟などの自然環境を保全するために、89年に島方式に変更した。陸側と島との間をアメニティ空間とし、市民が自然と触れ親しむことができる水辺空間として「エコパークゾーン」が位置付けられた。陸側の浅い所を干潟として残し、人工島の陸側を「まちづくり」エリア、水深の深い方を「みなとづくり」エリアとした。島方式で沖合いに出した分、狭くなったが、環境を意識した埋め立てになった、と言う。
その直後、「人工島」から「アイランドシティ」に呼び方を変えた。当時の桑原敬一市長(故人)が「人工島と言うと、コンクリートの固まりみたいに聞こえる。緑豊かな能古島みたいなのを目指しているんだから、それにふさわしい名前を付けてほしい」ということで名付けられたが、市民の間ではいまだに人工島の方が通りがいいようだ。
当時、干拓や埋め立ての開発計画が進められていたのが和白干潟をはじめ、三番瀬(千葉県)、藤前干潟(愛知県)、諫早湾(長崎県)だった。このうち三番瀬と藤前干潟は埋め立て中止となり、諫早湾は工事差止め裁判などを抱え、予断を許さない。今のところ、和白干潟だけが環境と折り合いをつけながら進んでいると言える。
<メモ>ラムサール条約
(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)湿原、沼沢地、干潟等の湿地は、多様な生物を育み、特に水鳥の生息地として非常に重要である。しかし、湿地は干拓や埋め立て等の開発の対象になりやすく、その破壊をくい止める必要性が認識されるようになった。湿地には国境をまたぐものもあり、また、水鳥の多くは国境に関係なく渡りをすることから、国際的な取り組みが求められる。そこで、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全を促し、湿地の賢明な利用を進めることを目的として、1971年イランのラムサール(カスピ海沿岸の町)で開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」において作成された条約。
能古島と同じ広さで事業費は3912億円
アイランドシティは、博多港の港湾機能強化のために湾内の航路整備で生じるしゅんせつ土砂や地下鉄七隈線の公共残土などを利用して埋め立てた人工島である。全体の面積は約401ヘクタールで、能古島(399ヘクタール)とほぼ同じ。既に全体の53パーセント、約214ヘクタールの埋め立て工事が終わっている。
全体の事業費は計画当初、4588億円だったが、経費見直しなどで3912億円(別表参照)まで約15パーセント削減した。また、長期的な事業に対する融資対応が厳しい金融情勢の中で、長期的な視点でじっくりとまちづくりに取り組むために博多港開発の2工区を福岡市が譲り受け、市債事業で行うことになった。
アイランドシティは、香椎浜と海の中道を結ぶ道路の西側が「みなとづくり」エリア、東側が「まちづくり」エリアに分かれる。
みなとエリアでは、港湾機能を高めるために、5〜6万トン級の大型コンテナ船が接岸できる、総延長約1000メートルの国際コンテナターミナルなどを整備している。既に5万トン級のコンテナ船が接岸できる水深14メートルのバース(岸壁)が2003年9月から供用されており、残り2バース(水深15メートル)の建設が予定されている。この工事は国の事業で、1バースは07年度末供用開始を目指している。その背後には、船で運ばれた貨物を仕分ける物流センターや、一時的に保管しておく倉庫などの施設を集め、産業の集積を図る。
住宅、医療施設に構造改革特区も
東側のまちづくりエリアでは、将来1万8000人が生活する住宅ゾーンで、最初の住宅開発として「照葉のまちづくり」が始まっている。鎮守の森のような空間など、緑豊かでコミュニティを大切にするまちづくりを行い、今秋から約280戸の入居が始まり、11年度までに約1500戸の住宅ができる予定。
隣接する中央公園(約15ヘクタール)は福岡ドーム4個分に相当する広さで、「全国都市緑化ふくおかフェア」が9月9日から73日間の日程で開かれる。まちづくりエリアの海沿いには、海の景色を楽しみながら散歩できる親水緑地を整備している。また、野鳥がすみやすい砂浜や干潟、磯浜、ヨシ原など自然を手本にして、市民が気軽に散策しながら鳥や水辺の植物を観察できるような「野鳥公園」も計画されている。
健康をキーワードに、子ども病院も含めた新しい市立病院の立地候補地に決まったほか、高齢者関連施設も事業者の選定が予定されている。
新産業・研究開発ゾーンには、構造改革特区として「福岡アジアビジネス特区」と「ロボット開発・実証実験特区」を設ける。規制緩和でアジアビジネスを展開する国内外の企業や、日本市場への進出を目指すアジア企業等に対する総合サポート施設などの設置も含め、「アジアビジネス交流拠点づくり」を進める。IT・ロボット関連では、高度情報インフラ網などを活用し、デジタルコンテンツの配信を行うIT関連企業や人々の暮らしをサポートするロボットのソフトウエアを開発する企業などの集積を図り、研究開発拠点づくりを進める。
生物による環境改善に取り組む
エコパークゾーンでは、残った干潟の生物の多様性を強化しようと海域環境の質の向上などに努めている。
御島(みしま)海域で、生物の棲みやすい環境を創り出すために、海底に堆積した有機汚泥の上をきれいな砂で覆う「覆砂(ふくさ)」と、海水が流れやすいように海底を削って流路つくることで河川水の停滞を防ぎ、海水の交換を促進する「作澪(さくれい)」を組み合わせて実施している。覆砂によってアサリなどの2枚貝やゴカイなどの底生生物が増加し、その底生生物を餌とするカレイやエイなどの魚類も数多く確認されている。また、オゴノリやアマモの生育も確認された。
アマモなどの海草は底泥の栄養塩を吸収するとともに、光合成による海域への酸素供給で、水や底質の改善が期待される。また、オゴノリなどの海藻類やアマモなどの海草は魚などの動物にとって食物と隠れ家、産卵場所を提供し、生物群集の多様化をもたらす。さらに、この海域周辺で大量発生するアオサと競合し、アオサの発生を抑えるという。
このほか、03年5月から、福岡市港湾局・環境局の一部職員と一般市民が協力して、和白干潟の耕作活動に取り組んでいる。これは、アオサ(海草)の堆積などにより硬くなった干潟表面を掘り起こして、柔らかくし、干潟の奥に酸素を送り込んでやることで、生物にとってよりすみやすい環境にしようというもので、生物採取や分析調査による耕作効果の確認作業も行っている。
現在のところ、着工前に比べてCOD(化学的酸素要求量)など、水質項目の数値は、ほぼ横バイで推移している。
住民同士が係わり合いを持つまちづくり
アイランドシティでは、既存の市街地では難しいような環境対策の導入も積極的に進め、先進的な環境共生都市を目指している。地域の自然との共生はもちろんのこと、地球環境保全の観点から、エネルギーの有効利用、循環型社会のシステムづくりなどを進めていく。市民、事業者、行政それぞれが的確に取り組むために、福岡市は03年11月に「アイランドシティ環境配慮指針」を策定している。
指針は、 (1)豊かな自然環境と共生するまち (2)人と環境にやさしい交通を取り入れたまち (3)水や資源を生かすまち (4)ストップ温暖化のまち (5)地域で支える、持続可能なまち――という5つの環境目標と配慮事項を掲げている。ハードとソフト面をセットに考え、「地域の人々が自分の故郷みたいに愛情を持ち、環境づくりに積極的に関わっていく」イメージを描いている。自分の敷地だけでなく周囲も含めてメンテナンスに力を入れていく。隣近所の人と余り関わらない都市型マンション生活と違って、お互いが関わり合いを持つまちと言えるだろうか。
緑比率は既存 市街地の 約2倍
具体的には、公共関連と民間関連の施設で、必ず(基本的に)導入するものから、可能な場合に導入するものまで、レベル1、2、3という3段階に分けた導入水準を決めている。
その効果は、まず緑比率がレベル1の対策実施で、ふ頭部分を除くアイランドシティ全体の約20パーセント、レベル2・3の対策実施で約30パーセントに達する。これは既存市街地の約2倍の水準。まちづくりエリアだけをみると、レベル1で約30パーセント、レベル2・3では約40パーセントの緑化が図られるというのだ。
2つ目に、省エネルギーや新エネルギーシステムの導入を図ることで、温室効果ガスの排出を従来の施設に比べ、レベル1の対策実施で約10パーセント、2で約20パーセント、3で約40パーセントまで抑制できる。3つ目に、節水型機器や雑用水道の積極的導入、雨水の有効利用を推進することで、上水の使用量を従来の施設と比較して、レベル1の対策実施で約20パーセント、2・3の実施で約30パーセントまで抑制。4つ目に、省エネルギー機器の使用、環境に配慮したグリーン購入(商品やサービスを購入する際に必要性をよく考え、環境への負荷ができるだけ小さいものを優先的に購入すること)やリサイクルの推進で、廃棄物の発生を従来の施設と比べて、レベル2の対策実施で約20パーセント、3の実施で約30パーセントまで削減するという。
21世紀の環境モデル都市づくり

「アイランドシティ整備事業は、約400ヘクタールという広さの陸と海が同じシェアで含まれる、21世紀の環境モデル都市づくりです。中央公園と外周緑地が『緑軸』なら、御島(みしま)から和白干潟につながるエコパークゾーンは『水の軸』。水と緑に囲まれた街づくりですね。この二つの軸は『風の軸』でもあり、ヒートアイランドに対してクーラーランドとも言えます。身近にシギやチドリが飛び交い、干潟では潮干狩りができる。魚釣り、ヨット遊びなど都会では忘れがちな自然との触れ合いがあります。生態系ネットワークを守りながら、自然と人との共生を目指す実験都市です」
こう語るのは、アイランドシティ計画の当初から関わっている福岡市港湾局環境対策部長の馬場崎正博さん。東部の立花山、外海である玄界灘の荒波、内海の湖面的な和白干潟と多様な空間もまた街の力であり、魅力だと言う。(神 崎 公 一 郎 )
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