海と港を生かした都市戦略・地域振興を考える
2008年10月1日発行の22号より
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都市の持続可能な発展のために、そして地域の振興に向けて博多港をどのように活用したらいいのか。現在、抱える博多港の老朽化した港湾施設への対応や港湾機能の効率的な再編に向けた課題解決として港湾機能の再構築と港湾部再開発を考えてみる。
福岡・九州、日本、そして東アジアの未来予想
今後、20年ないし30年後に向けた福岡、そして九州の持続可能な発展を支える博多港の「航海」をどのように描いたらいいのだろうか。
まず、博多港の将来を取り巻く環境としては、福岡・九州に限らず、日本全体において少子高齢化が進展し、人口減少が続く結果、国内においては以前のような右肩上がりの経済成長は厳しいものとみられる。
一方、世界的には、依然として人口増加が続き、さらに経済のグローバル化や国際分業が進み、そして国際海上物流もさらに活発化していく。なかでも東アジアの経済成長は今後も引き続き続くものとみられる。
国土交通省がまとめた『2030年の世界経済と日本経済の姿』によると、2030年における日本の国際海上コンテナ貿易額は2003年比で3・3倍となる131兆円を予測している。なかでも対東アジア向けは4・4倍にも達すると推計している。今後も生産拠点、消費市場として拡大していくであろう東アジア経済圏に最も日本で近い特定重要港湾が博多港である。
博多港の強みと持ち味を考える
地理的にも東アジアに近い博多港は、海を介した歴史的・文化的なつながりを持ち続けてきた2000年余りの実績と伝統がある。
福岡都市圏を背後に控える博多港は、海運・鉄道・空輸・陸送などの多様な輸送手段との接続を可能にしている。これらの要因もあり、博多港が取り扱う国際海上コンテナ個数も大幅な伸びをみせて、この10年間で倍増している。海側から博多湾を臨むと、港湾の後背地には240万人の市民が暮らす福岡都市圏があり、さらにその先には1300万人余りの人々の生活の場である九州という一大市場が控えているのだ。九州の地域総生産は44兆円余りに達し、一国の経済規模にみなした場合、スイスやベルギー、スウェーデンなどの国々を上回る規模となる。
一方、一昨年1年間に日本へ船舶を利用して上陸した旅客者130万人のうち、57・8%にあたる75万人強が博多港を利用しており、外航旅客者数で断トツの日本一だ。空港と港湾の国際線旅客者数においても全国6位となり、4位の福岡空港と合わせると、300万人の旅客者が福岡市を経由して海外と行き交う。
第3次産業を中心とした福岡市の産業構造を踏まえてみても、将来に向けた都市の持続的な発展においては、「人流」「交流(商流)」が生み出すエネルギーを新たな都市の力として生かしていくことが不可欠となる。
また、博多港の特色のひとつとして、身近に広がる自然が挙げられる。湾岸部に工業地帯が存在しない博多湾は、自然豊かな内湾だ。和白干潟を中心としたエコパークゾーンにおいては「自然と人との共生」を目指した環境整備が進められている。大都市にありながら豊かな自然に恵まれた博多湾は、福岡にとってシンボル的な存在であり、市民にとって大きな財産といえる。こうした恵まれた環境を生かしながら、訪れる人々を魅きつけるような都市づくりが必要不可欠である。
なぜ、博多港は《閉ざされた港》になったのか
博多港はモノやヒトの動きに限らず、多くの役割と期待を背負いながらも、「福岡に暮らしていても、港町としての実感が乏しい」「博多港に市民が集い、楽しめる空間が欲しい」「博多港は、市民にとって《閉ざされた港》になっている」……。よく耳にするこれらの言葉に象徴されるように、博多港自体に対する市民からの親近感や理解は依然低いという課題がある。
この点に関して、港湾とまちづくりの観点から出口敦・九州大学大学院人間環境学研究院教授は、「日本の都市にとって臨港地区は閉ざされた場所である。臨港地区に指定された時点で、市民生活から切り離された場所になってしまう運命にある」と、明言する。
たしかに海に面した多くの都市において、港湾活動の場である臨港地区は立ち入りが制限されたエリアとなっているのが現状だ。博多港の場合、西から石油基地の荒津地区、九州の穀物基地といえる須崎ふ頭、ウォーターフロントスポットの博多ふ頭、高度化倉庫・国際旅客施設・大型展示場がある中央ふ頭、液化天然ガスや建材を取り扱う東浜ふ頭、多様な港湾施設を備えた箱崎ふ頭、国際コンテナ物流の拠点であるアイランドシティと香椎パークポートが博多湾東側を埋め尽くす。この結果、国際旅客ターミナルやベイサイドプレイスなどの一部の空間を除いて、市民が海と接する空間は限られたものになってしまっている。一方、博多湾西側には、良好な住環境や海沿いの集客施設、海浜などが人々の憩いやレジャーを提供する空間となっている。
このように多様な顔を持つ博多湾が身近に感じられない理由としては、港湾整備にともなう臨港地区特有の閉鎖性に加えて、福岡市との地勢的な関係も指摘できる。「人々が暮らす市街地は、一般に日当たりや環境の良さを求めて南斜面に広がる傾向がある。東京や神戸などでは南側に海が広がっているのに対し、博多港は都市の北側にあるために結果として、市街地の広がりが港側に向き難い状態にある」と、出口教授は解説する。
港湾がもつ「物流」「人流」「交流(商流)」機能
港湾エリアには、モノを運ぶという「物流」、ヒトを運ぶという「人流」に加えて、全国的にも海を通じた交流や海と親しむレクレーションなどの「交流(商流)・レクレーション」の機能が充実している。ヨットやボートなどのマリンスポーツに加えて、水と親しめる浜辺や渚、さらに海辺などの親水空間を生かしたレストランやショップなど、交流とレクレーションの場として活用されている。
東京港・お台場、名古屋港・ガーデン埠頭、大阪港・天保山ハーバービレッジ、神戸港・ハーバーランド……。これらの海に面した都心エリアでは開発が進み、多くの市民にとって楽しみと憩いの場になっている。
『にぎわいのあるウォーターフロント《スポット》』であるベイサイドプレイス博多
福岡市内においても1991年6月、博多ふ頭にベイサイドプレイス博多がオープンした。開業当初は年間400万人超の来場者を誇る福岡市内でも有数の集客施設だったが、2005年9月に運営会社が民事再生法を申請。現在、九電工の傘下で再生を目指す。
将来へ向けた博多港の課題と解決策のあり方
躍進を続ける東アジア経済圏、活発化していく国際海上輸送、将来的な中国の海外渡航自由化による東アジア圏での交流人口の増大……。このような状況を踏まえ、博多港では既存施設の老朽化とともに、これまでの相次ぐ需要の後追い的な施設拡張で各ふ頭に分散した港湾機能の効率的な再編が課題となっている。
博多港の課題である老朽施設への対応と港湾機能の再編を考える上で、港湾が持つ基本機能である「物流」、「人流」、「交流(商流)・レクレーション」の要素も織り込んで組み立てていく必要がある。そして、市民が海や港と親しむ親水性、さらに整備がすすむアイランドシティの活用も視野に入れると、博多港東側への「物流」機能の集約、西側の浜辺や渚での「交流(商流)・レクレーション」の機能強化に加えて、都心と直結する中央部への「人流」エリアとなるウォーターフロントの新設などの構想につながるだろう。
求められる《海の玄関口》づくり
「みなとまち」としての都市ブランドをもつ横浜、長崎、神戸などの都市は、閉鎖的になりがちな港湾部に向けてウォーターフロントや海浜公園などを設けることで市街地と一体化したまちづくりを進めてきた。
《海の玄関口》づくりとして整備が求められる須崎ふ頭東側・博多ふ頭・中央ふ頭西側エリア(写真:白線内)
この点を踏まえ、福岡においても《海の玄関口》として、博多湾の中央部に位置する須崎ふ頭、博多ふ頭、中央ふ頭を一体にウォーターフロントとして開発していくことも必要であろう。具体的には、福岡競艇やサイロがある須崎ふ頭の東側、ベイサイドプレイス博多の博多ふ頭、国際旅客ターミナルやマリンメッセ福岡が立地する中央ふ頭の西側、つまり博多ふ頭を囲む海辺一体を『にぎわいのあるウォーターフロント《エリア》』として再開発していくことは、都市としての個性の創出や交通機能の充実において重要だと考える。
現在、ベイサイドプレイス博多は『にぎわいのあるウォーターフロント《スポット》』という点でしかなく、周辺への広がりを欠いていた。この轍を踏まえて、須崎ふ頭、博多ふ頭、中央ふ頭を一体とした『にぎわいのあるウォーターフロント《エリア》』という面的な広がりは都心部である天神地区、博多駅地区へとつながっていく。そして、東シナ海に開かれたウォーターフロントの存在は、中国や韓国などからの海外客も呼び込む「人流」においても大いに期待されるであろう。なお、開発手法としては、サンフランシスコのふ頭跡を桟橋方式でウォーターフロントとして再生させたピア39の事例も参考になる。
時代の荒波を乗り越えていくために…
2011年、福岡・九州の交通体系が大きく変わる。九州新幹線が博多駅に乗り入れて、鹿児島ルートが全線開業の運びとなるのだ。もっとも、九州新幹線の全線開通は福岡にとって、「終わりの始まり」(藻谷浩介・日本政策投資銀行地域振興部参事役)との指摘もある。将来に向けた舵取りの如何では、2011年をピークに衰退していくこともあり得る。
九州新幹線が博多に乗り入れる2011年は、くしくも平清盛によって建設された日本初の人工港「袖の湊」の850周年という節目の年にあたる。このような歴史的なめぐり合わせも踏まえ、博多港の存在を生かした都市戦略や九州全域を視野に置いた地域戦略を練っていく上で、天正年間の「太閤町割」ならぬ「21世紀の港割」というべき博多湾の港湾機能の高度化、そして《海の玄関口》としてのウォーターフロント整備が必要ではないだろうか。これらの取り組みは、都市における基幹産業としての港の確立や新たな国際基幹航路の可能性、博多湾を生かした海上交通ネットワークづくりによる都市交通体系の見直しにもつながる。
国際競争の激化、国際分業化の進展、グローバル経済の浸透、深刻さを増す環境問題、産業構造の転換、少子高齢化による社会構造の変化……。これらの時代背景をもとに「博多湾という財産をどのように生かしていくか」「博多港という機能をいかに活用していくか」―――。時代の大波が我々の暮らしにも押し寄せるなか、市民一人ひとりの目線で、港を通して将来の都市のあり方を真剣に考えていくことが求められる。(近藤益弘)
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※当ページの内容は、2008年10月1日発行の22号に掲載されたものです。



