フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

福岡/九州において、〝ピンホール〟となる変化の芽を見出す

2014年1月31日発行の53号より

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前章でのDATAにもとづく、マクロ的な動向に加えて、ヒトやコトなどに注目したミクロ的な動きを追ってみる。これまで無かった発想や現状に〝ピンホール〟ができ、風穴を開けていくような取り組みが、やがて変化をもたらす可能性を秘める。

現状に風穴を開け、ブレークスルーに導く

70億人を突破した世界の人口は依然、発展途上国を中心に増え続け、〝人口爆発〟ともいわれる状況にある。その半面、成熟期を迎えた日本は2004年12月の1億2783万8000人をピークに減少傾向だ。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、福岡市は2020年まで人口増が続く半面、福岡県、九州は既に人口減少期に入っている。

福岡/九州の飲食・飲料業界などでは、成長率の高さや市場規模の大きさから海外展開を志向する取り組みも出ている。その一方、福岡都市圏人口240万人、後背地である九州1300万人の市場性を踏まえた外資系航空会社の新規就航や増便も顕著だ。

また、地域の個性や魅力を見直す新たな観点として、普遍的な価値にもとづくロングライフデザインを提唱するD&DEPARTMENTの直営店も誕生した。

これまでの現状に風穴を開けて、ブレークスルーとなる動きや変化の芽がいま、出始めている。

ロングライフデザインで新風を吹き込む
D&DEPARTMENT


承天寺は聖一国師(円爾弁円)が開山し、宋出身の貿易商・謝国明が仁治3年(1242)に創建した

JR博多駅から海側へ徒歩7分余り。うどん・そば・まんじゅう・博多祇園山笠などの発祥地として知られる承天寺の近くにあるビル2階にあるセレクトショップは、人通りが少ない場所にも関わらず、おしゃれな若者たちが次々と訪れて、客足が絶えない。

「人通りのある場所にお店を出すのではなく、目的を持って出掛ける人しか来ないような場所に出店することで、新たな人の流れを生み出していく」と、『D&DEPARTMENT』の相馬夕輝社長は解説する。昨年11月の福岡店オープン時には、650人もの来店客が訪れて長蛇の列ができるなど話題を集めた。


D&DEPARTMENT相馬夕輝社長

広々とした店内に一歩足を踏み入れると、懐かしく親しみを覚える生活雑貨や家具など約1500アイテムが並ぶ。世の中にあふれる商品の〝目利き役〟であるD&DEPARTMENTは、「良い商品しか取り扱わない。流行や時代に左右されることなく、年代やブランドにとらわれずに、昔から変わらずに作られ、使われているロングライフ商品をセレクトしている」(相馬社長)。

D&DEPARTMENTは本来、全国各地の生活雑貨や家具などを普遍的なロングライフデザインの観点で機能性やデザイン性を評価・紹介・販売していくプロジェクトだ。第一線で活躍するデザイナーであり、京都造形芸術大学教授を務めるナガオカケンメイ氏が2000年に立ち上げた。47都道府県に1カ所ずつ拠点をつくる構想を打ち出す。福岡店は日本国内で8番目、九州では鹿児島に次ぐ出店だが、東京・大阪と同じ直営店の形態を採る。


承天寺近くに店を構えるD&DEPARTMENT福岡店

「今回の福岡店はD&Dの今後10年を占う試金石となる。単なるショップでなく、学びと交流の場として、《学びながら買う》《学びながら味わう》《学びながら地域を考える》ことで地元の人たちと一緒にお店をつくっていきたい」(相馬社長)と意欲的だ。

店内のダイニングカフェは地元で採れた食材を用いたメニューを取り揃え、オープンキッチンのカウンター席で料理人が直接こだわりや思いを伝える。


オープン時に650人が訪れた店内は買い物客でごった返した

また、福岡店で新たに設けたセミナースペースでは地元作家を招いてのトークイベントやワークショップなどを開催して、福岡らしい個性を掘り起こしていく。一方、初の試みである併設ギャラリーでは独自の企画展を開催するなど、地域の人々を巻き込んでいく〝新たな場〟としての様相も呈する。

店舗展開に加えて、各都道府県で地域の人々と一緒になって取り組んでいるプロジェクトが、デザインの視点で地域に焦点を当てていくガイドブック『d design travel』の編集・発行だ。6月に発行を予定する福岡号では、編集作業として地域の人々が参画するワークショップなどを開催していく。「『d design travel』は、地域の人と編集作業を進めて、発行していくガイドブックなので一緒に参画してもらうことに価値がある」(相馬社長)


福岡店のセミナースペースでは地元作家を招いてのトークイベントやワークショップなどを開催している

今回のD&DEPARTMENTの福岡進出は、人気店舗の出店という枠組みだけに留まらない。地域の意欲的な人々が集う場ができ、自らの地域や産品などをデザインや外部からの視点で見つめ直して、新たな可能性を見出していく可能性も秘めている。これらのプロジェクトを通じて、福岡、そして、九州の地にどのような新風を吹き込んでいくのか。今後の取り組みが注目される。

外資系の増便相次ぐ九州の〝空の玄関口〟
福岡空港国際線


KLMオランダ航空本社で小川洋・福岡県知事(左)と握手するピーター・エルバースCOO

「搭乗率も高く好調であり、就航当日から申し入れてきた増便について決断していただきたい。福岡空港を現代の出島にしようではありませんか」。昨年10月、KLMオランダ航空本社を表敬訪問した小川洋・福岡県知事は、同社のピーター・エルバースCOO(代表取締役兼最高執行責任者)に提案した。小川知事からの呼び掛けに対して、ピーターCOOは、「これからさらなる努力が必要だが、4月1日から現在の週3往復を週4往復に増便する」と回答。福岡空港に就航するヨーロッパ直行便(福岡―アムステルダム線)が、就航時の週3往復から週4往復に増便することが決定した。

同線は就航以来、福岡県をはじめ、福岡市や地元経済界などからも相次いで増便が要請されていた。「県民の利便性や空港周辺住民の負担にも配慮した上で、福岡空港をゲートウェイとした航空ネットワークの充実に向けた環境整備に取り組んでいきたい」と、福岡県企画・地域振興部空港対策局空港整備課の横田幹生課長補佐(兼)空港整備係長は説明する。

昨年4月、福岡からヨーロッパへの初の定期直行便として就航した福岡―アムステルダム線は、搭乗率80~85%という好調な利用状況も増便を判断する上での後押しとなった。今回増便する3月下旬~10月下旬の期間は夏ダイヤと呼ばれ、ヨーロッパ観光のメーンの時期が夏であることとも合致する。


発着回数、乗降客数で国内第3位の福岡空港は年間304万人の国際線利用者がいる

発着回数15万回余(2012年度)・乗降客数1778万人(同)で共に国内第3位の福岡空港は、オランダ・アムステルダムも含む海外9カ国・地域の19都市を結ぶ。週19路線・426便(2014年1月時点)が飛び交い、福岡空港の国際線乗降客は304万人(2012年度)に上る。

KLMオランダ航空がヨーロッパ直行便を就航した翌月、シンガポール航空が週5便だったシンガポール―福岡線を1日1便のデイリー運航に切り替えた。福岡線就航25周年という節目に加えて、アジアのビジネス拠点として存在感を増すシンガポールが、福岡/九州の企業にとって、より身近になった。

また、ベトナム航空は今年2月3日~3月28日と8月・9月に従来、週2便だった福岡―ハノイ線を週4便で増便する。これまで火・土曜日の運航で、レジャー目的などで平均75%~80%の搭乗率だった。今後、月・金曜日にも就航することでビジネス客や修学旅行などの団体客、さらに東南アジアからベトナム経由で日本を訪れる旅行客も取り込んでいく。「シンガポール便、ハノイ便ともに地元企業の現地進出にともなうビジネス客の利用が多く、地元経済界の要請に応えていただいた」(横田課長補佐)

今後、オープンスカイ政策やLCCの浸透などによる〝空の自由化〟が進展していくことで、九州の〝空の玄関口〟である福岡空港の役割も増していく。その一方で、都市部に立地するため、「新路線の開設や既存路線の増便は良いことばかりとは言えない。安全面や環境面でのデメリットもある点も踏まえ、県として安全性を確保しながら、空港周辺住民の生活環境にも配慮していくことが重要だと考える」(福岡県空港整備課の大石光代事務主査)。

ヒト、モノ、カネ、情報、ビジネスが地球上を駆け巡るグローバル時代を迎え、今後、ターミナルビル建て替えや誘導路の二重化、滑走路増設などが控える福岡空港は、国内外を結ぶ交通インフラとして、さらに重要度を高めていくと考えられる。

NYを突破口に焼酎を世界に売り込む
Sho―Chuプロジェクト

九州文化の核ともいうべき焼酎(Sho―Chu)を旗頭に九州がひとつになって、魅力と文化を世界に向けて発信していく」――。九州大学大学院統合新領域学府にある九大イデアラボ(代表・坂口光一教授)は、昨年7月に中小企業の海外展開支援を行うZationと共同で九州の焼酎蔵元に呼び掛け、11社とともに『Sho―Chuプロジェクト』を立ち上げた(現在、参加蔵元は6県21社)。


ニューヨークでの試飲会では、焼酎の原料(芋、米、麦、胡麻など)も並べて、来場者に焼酎の魅力を説明

「焼酎」という蒸留酒の存在をアピールし、「九州焼酎」の海外での認知を広げ、「世界の酒」としてデビューさせていくのが目的だ。昨年9月には英語での情報発信をスタートさせ、ニューヨークで「Sho―Chu(焼酎)」のプロモーション活動を行った。また同年11月、ニューヨーク日本国総領事館総領事公邸で開かれた『九州PRメディアイベント』では、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』とともに焼酎で九州をアピールした。

「本格焼酎の9割強を生産する《圧倒的シェア》、九州発の地酒である《独自性》、約300の蔵元がつくる《多様性》、様々な飲み方で楽しむ《開放性》、九州全県で醸造する《地域網羅性》など多彩な魅力があり、九州が世界に誇る宝だ」と坂口教授は説く。


九州の地図に「九州焼酎讃歌」を描き「SHO-CHU」という文字を書き込んだ段幕を制作してニューヨークに乗り込んだ。「Do you know SHO-CHU?」と、質問を投げ掛けて興味を示した人を個別蔵元による試飲コーナーに案内した

日本酒は『SAKE』として世界的に知名度のあるのに対して、焼酎はアメリカでの認知度が低く、韓国焼酎『Sonja』の日本版として売られることが多いのが現状だ。これまでも焼酎の国際展開として、行政から支援を受けた蔵元による見本市出展やイベント開催に取り組み、現地の卸売業者向け輸出などを試みたが、いずれも成功には至っていない。同プロジェクトでは焼酎を海外向けにSho―Chu(焼酎=小啾、かわいいキッス)とネーミングした上で、「モノとして売り込むのではなく、楽しみ方やこだわり、文化などの『焼酎スタイル』『焼酎タイム』などのモードとして提案していく」(坂口教授)。

ウェブサイトやSNSなどを活用して、英語で焼酎の魅力を紹介していく一方、海外のレストランオーナーや卸売業者らとの意見交換や海外での焼酎ファンづくりに取り組む。そして、『九州の酒・焼酎』を世界にデビューさせて、世界中の人々から選ばれ、愛される酒にしていきたいとする。その第一歩として、ニューヨークを拠点に一点突破で海外市場に風穴を開けて、グローバル展開を図る考えだ。


九州大学大学院統合新領域学府九大イデアラボ代表坂口光一教授

今年4月には焼酎文化講座を開講する。その後2015九州焼酎祭(Sho―Chu Festival)やSho―Chuアカデミー賞、九州焼酎文化研究所などを発足させて、東京オリンピックが開催される2020年には『世界蒸留酒オリンピック』を九州で開催する計画だ。「九州は〝世界最大〟の蒸留酒の生産地であり、スコットランドといえばスコッチを連想するように、九州といえばSho―Chuになるようにしたい」(坂口教授)と夢がふくらむ。

海外出店で新たな活路を見出す
福岡/九州の飲食店

近年、福岡/九州のラーメン店や居酒屋の海外進出がめざましい。『九州経済白書2013』によると、『味千ラーメン』で知られる重光産業(熊本市)は1994年の台北を皮切りに、北京、香港、深圳に出店。さらにFC方式でシンガポール、ニューヨーク、フィリピン、タイ、インドネシア、オーストラリア、カナダなど、国内101店を含め世界に802店舗を展開している(2012年9月現在)。

また、ラーメン店『一風堂』を経営する力の源カンパニー(福岡市)は2008年、ニューヨークに出店。その後、ライセンス契約も含めシンガポール、ソウル、香港、台湾、中国に出店している。

『大衆居食家しょうき』」(大野城市 しょうき企画)は2012年9月、日本人駐在員を対象にベトナム・ホーチミンに出店。今後、ソウルや中国へ進出するという。ウエスト(福岡市)も2012年9月、ソウルにうどん店を出店。韓国では年5店舗のペースで出店し、将来的には東南アジア展開も目指す。

かつて、九州・山口の地場企業の海外進出は、低コストを狙った製造拠点の移転が中心だった。近年、メーカーの移転は減少し、販売・サービス拠点の進出が大きな伸びを見せる。「アジアを市場として、家計をターゲットにした進出が目立つ」と九州経済調査協会の加峯隆義総務部次長は指摘する。海外進出において、「外的要因は中国をはじめ東南アジア全体の購買力、中間層の拡大。内的要因は国内の人口減少に伴う家計支出の低下」が挙げられる。つまり、国内市場の縮小分を「アジアの成長市場を取り込む」動きにほかならないのだ。また、工場と異なって生産調整の必要がなく、初期投資を低く抑えられる飲食店の海外進出は今後も広がると見られる。


九州経済調査協会の加峯隆義総務部次長と金戊丁研究員

ただし、日本の成功体験がアジアで生きるとは限らない。調査を担当した金戊丁研究員によると、「韓国や中国は飲食店に一人で行く慣習がなく、回転率で利益を上げることはできない」。また、アジア各国で市場や食文化、生活スタイルが違うため、「現地の食生活や文化に合わせてアレンジする必要がある」。

中国、台湾、韓国に続く、今後のアジア市場として、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーなどが注目されるが、法制度などに課題があるのも事実だ。福岡/九州の飲食店が海外に活路を見出して、新たなグローバルビジネスの担い手になり得るのか。今後の展開に注目していきたい。

名門サッカークラブ初の日本校を運営する就職支援の異色企業
FCバルセロナ・オフィシャルスクール(ガーディアンシップ)


FCバルセロナ・オフィシャルスクール福岡校は、福岡県営春日公園球技場を〝ホームスタジアム〟とする

平日の夕方、青色とえんじ色で彩られたユニホームを身にまとった子どもたちが、福岡県営春日公園球技場にある芝のピッチ上を元気よく駆け回る。スペインの名門サッカークラブ・FCバルセロナが5年前、日本で初めて開校したのが『FCバルセロナ・オフィシャルスクール福岡校』だ。日本で唯一の公式スクールでもある同校に通う子どもたちは、FCバルセロナの下部組織と同じメニューをこなす。

「寛容さ、人に対する敬意、協調性、チームワーク、フェアープレー精神、努力、喜び……。FCバルセロナが最も大切にする、人間育成で必要な要素をサッカー通じて、子どもたちが学んでいく」と、同校を運営するガーディアンシップ(福岡市)の北博典社長は目を細める。いまから8年前、北社長は、FCバルセロナにオフィシャルスクールの日本校開設を働き掛けた。スペインでも絶大な人気を誇るサッカー漫画『キャプテン翼』の作者・高橋陽一氏らの協力も得て、日本での初開校にこぎ着けた。


全国の体育会学生向けに『体育会ナビ』を開設するガーディアンシップは、体育会学生に限定した合同企業説明会を開催する

福岡校に通うスクール生は週末、自分が所属するサッカークラブで練習するため、自らの学びを仲間に伝えていくことで地域としてのレベルも上がっていく。そして、当初、目標に掲げていた「バルセロナの背番号10(エース)を日本から生み出したい」という夢がかなう日がやって来るかもしれない。

自らもスポーツで汗を流してきた北社長の本業は、大学の体育会に所属する学生に特化した就職支援サービスだ。リクルート系列企業や地場就職支援企業で採用活動や総合人材サービス手掛けた北社長は、「スポーツを通じて体力・気力を養い、礼儀をわきまえ、チームワークを大切にする体育会学生に対する採用現場での評価が高い」ことを実感。その半面、練習や大会などに時間を割かれて十分な就職活動ができない現状も目の当たりにした。

独立後、各大学の体育会を回って、学生の登録を集める一方で、競技種目や地域単位で大会スケジュールを把握。採用希望企業に対して、体育会学生のスケジュールを踏まえた面接や入社試験を提案するなど、きめ細やかな活動を手掛けて来た。現在、福岡を拠点に全国の体育会学生向けに開設する就職支援サイト『体育会ナビ』には、2万人余りが登録する。また、体育会学生に限定した合同企業説明会を東京、名古屋、大阪、福岡などで開く。

「文武両道の人材育成と社会への輩出」をテーマに掲げる北社長が昨年、新たに始めた特化型の就職支援サイトが『寮生就職ナビ』だ。日本の大学は昨今、日本人と留学生がルームシェアをする国際化対応の学生寮などを相次いで開設する中、1年以上の寮経験がある学生のみを対象とする。「集団生活で育まれた協調性やコミュニケーション能力を持つ寮経験者は、企業が求める人材像とマッチする」(北社長)。

日本初の公式サッカースクールを手掛けながら、福岡発の人材サービスを全国展開する北社長は、子どもたちや学生らの〝アシスト役〟に徹する。( 近藤益弘・永島順子)

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※当ページの内容は、2014年1月31日発行の53号に掲載されたものです。

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