フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

海アリ・山アリ 見直される福岡の魅力に「根付く」新しい人たち

2012年9月30日発行の45号より

フォーラム福岡45号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡45号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
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福岡市と筑紫・糟屋・宗像・糸島の地域で構成する福岡都市圏は中枢的な都市機能に加え、豊かな自然や恵まれた食文化を有する地域だ。近年、大都会から芸術家らの移住が目立つ糸島地域では、新たなライフスタイルや価値観への模索が始まっている。

再発見、福岡の新たな魅力

目の前に玄界灘が広がり、背後に油山を控える福岡市はコンパクトな都市で、空、海、陸の玄関口である福岡空港、博多港、博多駅が、都心から半径5キロ以内に収まる。

日本最古の港湾都市である福岡/博多は古来、人や物の往来が活発な地域であり、大陸との玄関口として大きな役割を担ってきた。経済のグローバル化が進む中、九州の中枢都市である福岡市は東アジアのビジネスハブ都市としての役割も期待されている。

福岡市は人口149万人の大都市でありながら、周辺に海・山など自然や歴史、文化などに恵まれた地域が多く、都市圏としての魅力を形成する。福岡都市圏は9市8町で構成され、福岡市と筑紫、糟屋、宗像、糸島の各地域からなる。福岡都市圏の各地域の魅力をみる。

歴史とロマンを感じさせる筑紫地域

「遠の朝廷」と呼ばれた大宰府政庁跡、菅原道真を祭る太宰府天満宮、万葉集にも詠まれた二日市温泉がある筑紫地域は、歴史とロマンを感じさせるエリアだ。また、福岡の水がめのひとつである南畑ダム周辺は、バーベキュー場やキャンプ村、バンガローが整備され、レジャースポットになっている。

森林セラピーでも注目される糟屋地域

都心から車でほぼ30分圏内にある糟屋地域。今なお古木や巨樹が生い茂る山々の緑は深く、自然に恵まれている。昨今、森林浴の一歩先を行く、医学的な実証に裏付けられた癒し効果・森林セラピーも注目だ。海辺に目を転じれば、朝鮮通信使の舞台となった相島が浮かぶなど、自然と歴史に富んだ地域でもある。

世界遺産と若者移住が目立つ宗像地域

世界遺産の暫定リスト入りした「宗像・沖ノ島関連遺産群」に加え、宗像大社に代表される神社・仏閣が多い宗像地域。「海の正倉院」沖ノ島に加え、「西の湘南」と称される福間海岸は西日本有数のボートセイリングのメッカだ。古い町並みが残る津屋崎千軒では、空き家を活用した若者の移住が増え、新たな地域づくりが胎動している。

都会から芸術家らが移り住み始めた糸島地域

福岡県西端に位置する糸島は日本の白浜青松100選「幣の浜」、日本の渚・夕日100選「二見ヶ浦」があり、四季を通じてマリーンスポーツが楽しめる。都市型農業や畜産業も盛んで、個性的な工房も多い。近年は都会から移り住む人も多く、福岡都市圏の中でも注目される地域だ。糸島への移住者やUターン者らの姿を追いながら、糸島地域の魅力について考えてみたい。

糸島の自然と音楽が一体となるサンセットライブ


九州最大級の野外音楽イベントであるサンセットライブ(画像提供:糸島市)

毎年夏の終わりを告げる頃になると、玄界灘を臨む芥屋の砂浜が若者らの熱気に包まれる|。九州最大級の野外音楽イベント「サンセットライブ」が開催され、3日間で1万5000人が詰め掛けた。

今年、20回目という節目の開催となったサンセットライブには国内外から100組近いアーティストが出演。時折、通り雨が天然のシャワーとなる中、ロックやレゲーのサウンドが海辺に響き渡った。夕日が海に沈みかけて、空を赤く染める頃になると、観客らのボルテージも最高潮に達した。


サンセットライブ実行委員長 林憲治さん

「美しい海を目の前に、自然の恵みに感謝しながら、大好きな音楽を思い切り楽しみたいと始めたのが最初でした」。サンセットライブ実行委員長の林憲治さんは誕生秘話を明かす。

根っからのサーファーである林さんが、サーフィンのスポットである二見ヶ浦でカフェ「サンセット」を開店したのは23年前。オープン3年目の夏に店舗前の広場で観客500人が集ったコンサートがサンセットライブの端緒だった。

仲間と手づくりで始めたサンセットライブはその後、評判が評判を呼び、数千人規模に膨れ上がり、10年前に会場を芥屋海岸に移した。開催初日に地元の全住民を招待するなど、地域に溶け込んだ一大イベントだ。

どこまでも青い海、波が打ち寄せる白い砂浜、そして緑豊かな山々に象徴される糸島の恵まれた自然を目の前に林さんは「美しい海や素晴らしい自然をいつまでも残していきたい」との思いを抱く。店を始めてから毎月、店舗スタッフと地元有志で海岸清掃を続ける。その根底には、「大自然の脅威を体で感じ、自然と自分とのバランスを取りながら極めていく」というサーファーの姿勢がある。

「人のために働き、自分のために遊ぶ」をモットーとする林さんは「サンセットライブを100年続けて、本物に近づけたい」との思いを抱きながら、地域と一体となった取り組みを自然体で続ける。

「食卓の向こう側」元記者一家の糸島移住物語


元西日本新聞社社会部記者 渡邊美穂さん

西日本新聞の連載企画「食卓の向こう側」の取材班だった元記者が親子3人で芥屋に暮らす。連載に携わる中で自分の食生活を見直して体質を改善、食の大切さを痛感した渡邊美穂さんは、「連載を手掛け、自然の中でゆったり暮らす田舎暮らしにあこがれた」と優しくほほ笑む。

その後、転勤族の夫と結婚したのを機にフリーライターに。結婚生活6年目の東京で東日本大震災と福島原発事故に遭遇した。乳飲み子を抱えた渡邊さんは、「目に見えない不安で心配となり、以前からあこがれていた暮らし方へ背中が押された」。そして、昨年8月、退職した夫とともに糸島市・芥屋にある築40年の民家に移り住む。


渚で遊ぶ夫の渡邊精二さんと息子の三多くん

海の美しさ、空の広さ、夜空の美しさ、心和む田畑の風景、気さくで寛容な住民気質、子どもへの地域の温かいまなざし……。当初、田舎暮らしへの仮住まいだった渡邊夫妻は地域の魅力に魅せられ、本格的に根を下そうとする。

芥屋に移り住んで1年。渡邊夫妻は生活の土台づくりとして、農作業と台所仕事での自給自足的な生活を核に考える。それをもとに人物撮影やイベント企画、ライター業などを手掛け、将来的にはカフェも運営する構想だ。

「環境に負荷を掛けないためにも《足るを知る》生活を実践していく。みんなに喜んでもらいながら、ハッピーな気持ちで暮らしていきたい」と語る渡邊さんは「静かで美しい風景を守りながら、子育て世代が増える」ことを願う。

即興ピアニストが糸島で挑む新たな表現スタイル


ピアニスト・即興演奏家・作曲家 河合拓始さん

ピアニストは譜面を置いていないピアノの前に座り、一心不乱に弾き出す。緩急を交えた独創的な演奏に聴衆は、我を忘れて聞き入っていた。

長年、即興演奏のピアニストとして東京を拠点にコンサート活動やCDを発表してきた河合拓始さん。幼少時からクラシックピアノに慣れ親しんだ河合さんは京都大学で経済学を学び、東京芸術大学大学院で音楽学専攻という一風変わった経歴を持つ。そんな河合さんは今年1月、糸島市深江に移り住んだ。

「3・11以後、東京での生活に違和感を覚えた。避難ではなく、ライフスタイルを見直していきたい」と思った河合さんが選んだのは、仕事で縁があった福岡だった。

「これまで都会での生活しか知らないので、土に触れる農業をやってみたかった」と思った河合さんは糸島に居を構え、自然農法を学びながら、農業と音楽の日々を送る。


ピアノの鍵盤を弾く河合さんの演奏風景

以前の東京暮らしについて、「音楽も消費していく経済優先の社会であり、ストレスを我慢しながら、生活していた」と振り返る。いま、糸島で暮らして、その魅力について、「食べ物のおいしさや自然・風土の良さ、自然農法ができる環境、親切で気さくな人間関係」を挙げる。

「糸島での暮らしはインスピレーションに良い影響を与える。多様な人々と関わる中で新しい価値を見いだし、新たな表現のスタイルを見つけたい」と河合さんはいま、新たな境地に立つ。

新しい暮らし方の価値観を糸島でデザインする


デザイナー・アートディレター 桐原紘太郎さん

映画「劔岳」「ゼブラーマン2」「仮面ライダー オーズ」、テレビドラマ「JOKER 許されざる捜査官」、CD「テゴマスのまほう」…。これら話題作の広告やポスター、パンフなどのアートディレクションやデザインを手掛けた桐原紘太郎さんは今年9月、親子3人で東京から糸島へ移り住んだ。

「3・11を契機にライフスタイルや生き方を変えていこう」と考えた桐原さんが、津々浦々を見て回った結果、選んだのが糸島だった。「糸島は、自然と都会とのバランスが良い。糸島は、食べ物が美味しく、人々もフレンドリーで、安心して暮らせる。その上に大都市・福岡市と隣接し、東京の仕事も福岡空港を利用できて助かる」。

東京での生活は仕事一辺倒で、子どもの誕生後はワークライフバランス重視の生活だったが、「新しい暮らし方をデザインして、日頃の暮らしの中で新しい生き方を実践していきたい」。暮らしの質を重視して家族との時間に大切にしながら、自分の食べる物やエネルギーは自分たちでつくる考えだ。


桐原さんの仕事振りが伝わるヒトコマ

具体的には、《シンプルな生き方》をテーマに掲げ、《古民家》《キッズスペース》《サロン》《民宿》《カフェ》《再生エネルギー》などを素材にした取り組みを考案中だ。「デザインで世の中を楽しく元気に!」が信条の桐原さん。「子どもたちの明るく楽しい未来づくりと持続可能な社会のあり方をデザイナーの目線で模索し続けていく」。

糸島の《農》と《芸》が融合して胎動


糸島芸農2012実行委員会事務局 松崎宏史さん

工芸家やデザイナー、芸術家らが移り住み始めた糸島|。春の田植えから秋の収穫までの間、糸島・二丈深江の田んぼや海辺に多彩な現代アートが登場している。さらに作家によるワークショップやパフォーマンスもあり、新たな賑わいをみせる。

「糸島の《農》と《芸》が出会う場が糸島芸農。糸島での空間的な大きさや人々の寛容さは、新たなモノを創造する上でもプラスになっている」と糸島芸農2012実行委員会事務局の松崎宏史・Studio Kura代表は解説する。糸島の地域資源とアートを融合させる糸島芸農は、地域の魅力を再発見しながら、生活と密着したアートのあり方を考える試みだ。この企画には外国人作家も複数参加する。


注目を集めた糸島芸農でのパフォーマンス風景

「糸島の広大な自然、ご飯や水のおいしさは外国人にも好評です。インスピレーションが湧き、糸島でしかつくれない作品を創作する」と松崎さんは相好を崩す。レジデンスと呼ばれる外国人作家を短期滞在させての創作活動を手掛ける松崎さんは過去7年間で13カ国・18人を招いた。松崎さん自身、欧米8カ所をレジデンスで武者修行し、帰郷した経験を持つ。糸島芸農自体もレジデンスで招いたオランダ人音楽家が作曲した糸島の自然に捧げる作品から始まった。

約半年にわたって開催される芸農会議は毎月、芸術家と農家らが話し合いながら取り組みを決めていく。この場から農産品の新たなパッケージデザインも誕生した。いま、糸島では地域住民と芸術家らの移住者との交流を通じて新たな胎動が始まっている。

糸島の事例にみる、地域に「根付く」魅力と課題


昔ながら町並みが残る津屋崎千軒(画像提供:福津市)

美しい自然、美味しい食、寛容で開放的な気質……。いま、注目を集める糸島は大都市・福岡と隣接して、都市機能や国内外への交通アクセスを補完できている点も見逃せない。田舎に暮らしながら、足を伸ばせば、都会の雰囲気が味わえるのも魅力のひとつだ。その一方で、大都市から糸島に移り住む人たちはパイオニア的な存在であり、抱える課題もある。


年間700万人が参拝する太宰府天満宮

移住に際し、一軒家での暮らしを夢見がちだが、空き家は多くても借家が少なく、家探しに苦労するケースが多い。地域に多く点在する空き家を活用した移住者向けの住宅を提供する仕組みが求められる。

地域内に隣組などの伝統的な隣保組織が存在するものの、慣習的な運用となっている例も多く、移住者の理解を得にくい面もある。移住者が増えつつある状況を踏まえた対応を図るべきだろう。


九州最大の繁華街である福岡市・天神(画像提供:福岡市)

また、移住者は、地域において生活基盤づくりを目指すケースが多い。このため、移住者の能力や才能を活用するサポート体制づくりも必要ではないだろうか。

「来る」(来訪)→「交わる」(交流)→「根付く」(定着・定住)の流れを構築する上でも、「根付く」ための仕組みづくりや支援策が求められると考える。

いま、糸島で考える、新たな価値観やライフスタイル


環境省選定「快水浴場百選」に選ばれた芥屋海岸(画像提供:糸島市)

東京などから糸島に移り住んだ人たちの多くにとって、大きな転機になったのは、東日本大震災を契機とした3・11だったといえる。これを契機に価値観やライフスタイルの変化がみられるようになった。そして、これからのあり方として注目と関心を集めているのが、糸島に象徴されるスローライフな暮らし方や生き方だといえる。

いま、糸島で移住者らが、模索する新しい価値観やライフスタイル、地域に根差した取り組みを通じて、「暮らし」の中に新たな可能性が芽生えることが考えられる。(近藤 益弘)

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※当ページの内容は、2012年9月30日発行の45号に掲載されたものです。

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