今後の地方分権社会における、地方財政と地域の未来像
2008年5月31日発行の20号より
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地方財政における最近の動向として、関心が高まる行政改革と協働推進を考えながら、地方分権時代における地方財政のあり方を考える。「負担」と「受益」との関係にある財政を切り口に地域住民と行政との関係を捉え直し、あたらしい地方財政像の方向性にアプローチしていく。
「歳入不足・歳出過剰」が続く財政の歴史
有史以来、財政の歴史を振り返ると「歳入不足・歳出過剰」の連続だったといえる。時として財政のあり方が、国や社会に大きな影響を与えてきたのも事実だ。
かつて、栄華を極めたローマ帝国は、膨大な社会資本の維持や異民族の侵入を防ぐための歳出が増大、都市における財政負担の膨張が帝政崩壊の一因となった。
その後、16世紀のスペインやポルトガルは、南米から得た莫大な銀収入を歳入として浪費を続けため、ヨーロッパに価格革命をもたらしたといわれている。また、16世紀当時、スペインの支配下だったオランダでアルバ総督が課した10パーセントの売上税は、仕入税額控除がない累積課税であったために市場取引が麻痺、のちにオランダが独立する一因となった。
17世紀を迎えると、イギリスやフランスに代表される絶対王政国家は、対外戦争を繰り返して莫大な国債残高を抱える事態となる。そして、明治維新を経た日本は地租改正を実施、従来の米現物中心から貨幣経済へ移行した。20世紀の世界恐慌に際して、アメリカは積極的な財政支出を通じて、失業者救済を図って経済を立て直した。
いま、日本においても莫大な長期債務、急速に進む少子高齢化などで、国、地方を問わず、財政構造の変革が求められている。日本経済団体連合会や九州経済連合会が今年2月、大分市で開いたシンポジウム「道州制で日本は変わる」の壇上においても「国の基準で補助金が配分される中央集権制では、地方は活性化しない」「国の発想で動く統治機構を住民が地域を変える仕組みに変えるべきだ」と、指摘が上がっている。
変化する住民と行政・財政との関係
いま、行政、そして財政を取り巻く状況は大きく変化しつつある。バブル経済の余韻が残っていた90年代半ばまでは財政的にも余力があり、歳入も「右肩上がり」の時代だった。歳入が拡大基調だったこともあり、行政的な施策は「ビルド&ビルド」だった。そして、財務情報の公開や行政評価、コスト意識などについては、意識されることが少なかったといえる。また、住民からは、さまざまな要望が出される半面、参加度合いや納税意識は薄かったのも事実だ。
しかし、「失われた10年」を経て、行政は「歳入が横ばい・右肩下がり」の時代を迎えている。肝心の歳入が減少傾向にあるだけに行政施策は「スクラップ&ビルド」となり、住民からの要望も限られたなかからの選択が強いられる。一方、財務情報の公開や行政評価、コスト意識は強く意識されるようになり、住民の参加度合いや納税意識も高まってきている。
いま、住民と財政・行政との関係も大きく変わりつつある。このような中、われわれはどのように財政と向き合ったら、良いのだろうか。
九州大学客員准教授 前田隆夫・西日本新聞編集委員
九州大学で客員准教授として分権型社会論を手掛ける前田隆夫・西日本新聞編集委員は、「財政は仕組みが複雑なので、市民にとっては近寄り難いテーマだが、まずは県や市町村が広報紙に公開している予算に目を通すことから始めてみてはどうか。財政の厳しい現実が分かるだけでも一歩前進」とみる 。
「財政の透明性は住民自治の質を測るモノサシの一つ」と説く前田准教授は、「税が身近なところでどう使われているかが分かるように、行政は工夫してほしい。福岡市でも区や校区単位で明らかにしていくと、市民はより関心をもつようになる」と、アドバイスする。
地方財政の今後を握る行政改革と協働推進
地方財政の動向について、「いま、地方財政の主流となる二つの流れがある。それは行政改革と協働推進」と、久留米大学経済学部の世利洋介教授は指摘する。平成不況で財政が悪化した地方公共団体は、国からの助言にもとづく行政改革の名の下、人員削減による人件費削減を進めている。
行政は、いわばサービス業であり、人件費の割合は通常4割前後を占める。人件費のウェイトは大きい分、削減効果も大きい。ただし、削減していくやり方が、退職者数に対する補充数を抑えての自然減が通例なため、スピードは民間に比べてかなり遅いのが実情だ。また、行政改革としての取り組みでは、ムダな経費の削減ばかりに目がいきがちで、「行政改革は経済性、効率性、有効性を追求すべきであり、削減だけを進めると後世に大きな禍根を残す」(世利教授)。
協働においては行政と民間との協働が主体となる。指定管理者制度に代表される公共施設管理においては、NPOなどの民間委託が進む一方で、行政改革路線の延長でコストダウンに走る傾向があるのも事実だ。
行政評価にみられる外部からの視点導入
「職員の意識改革」「コスト削減」「成果重視の行政運営」などの手段として総務省が旗を振って、全国の自治体が導入を進めている。
福岡県は成果重視の行政への転換、県民の行政に対する信頼性の向上などを目的とする行政評価を2000年度から実施している。
一方、福岡市においても、2002年度から行政評価を一部導入し、2004年度から本格的に取り入れて、今日に至っている。
行政評価における取り組みについて、総務省では「外部からの視点、住民との協働」を挙げており、行政評価委員会のメンバーに学識経験者や団体代表とともに公募で選ばれた住民も参加できるようになった。
地域住民も参加して、行政が策定した総合計画や行政改革の進捗状況についても評価していく。行政が取り組みの成果を公表して、住民がチェックして評価できる仕組みは、真の行政改革や協働推進を目指していく上での役割は大きいといえる。
登場当初に注目を集めて、一大ブームを呼んだ行政評価も、いまでは行政技術のひとつとして、定着した観がある。もっとも、行政評価には、「役人の自己評価にしか過ぎない」との指摘もあるだけに、「外部からの視点、住民との協働」を担う公募の住民委員が果す役割は大きい。
協働推進による地域の総合計画づくり
公共サービスや公共財を提供していく地方自治体は、まちや地域の将来像を描いた総合計画づくりが法律で義務づけられている。そして、その総合計画は基本構想、基本計画、実施計画から構成されている。
地方財政とは、まちづくり・地域づくりの中核となる総合計画を実現していくための手段といえる。そして、経済性・効率性・有効性を追求していかなければならない行政改革における本来の目的は、この総合計画をより良いカタチで実現にしていくことにある。
ただし、肝心の総合計画づくりにおいては従来、自治体が専門のコンサル会社などに委託するケースがよくみられた。このため、従来の総合計画では似たような内容が多く、ともすれば画一的なプランになりがちだった面があったことも否めない。
行政改革と協働推進にもとづく地方財政の時代に向けて、今後の総合計画づくりを考える上では、住民参加による協働推進や選挙で住民が選択したマニフェストを反映させていくことがカギとなる。地域で暮らし、地域を知る住民や行政が、自分たちの地域やまちにある自然、風土、歴史、文化などのポテンシャルを織り込んだ地域の個性を反映させた総合計画をつくるべきだろう。
そして、住民自ら参加して策定した総合計画の実施について、住民がチェックして、評価していくことが重要だ。このような取り組みは、住民の公的な欲求充足を目的とする地方財政の趣旨にも適うといえる。
地方分権時代における地方財政の重要性
巨額な財政赤字、地域の閉塞感、タテ割行政の弊害……。厳しい財政状況下、限られた財源を有効に活用しながら、住民のニーズを反映させていくためにも「地域のことは、地域で決める」という『地方分権』が脚光を浴びている。
地域のことは、地域で考え、地域自らが行動していく。このような地域が主体的な取り組みを実現していく行政的な裏づけになるのが、地方財政といえる。いま、中央政府と地方自治体の役割分担が見直される中、財政的な面での見直しも必須となる。
従来の制度的な制約や規制のタガから解き放たれて、地方が主体的に取り組むことで地域経済が活発だと、結果として地方財政も潤う。つまり、地域経済と財政は不可分な関係にあるといえる。地域で暮らし、活動する、個人・法人・行政による三位が一体となった取り組みが求められる。
エピローグ : 3つの『顔』をもつ住民
今回、財政問題を取り上げていく中で、「行政側が市民に知らせる努力が不足していた半面、財源を考慮せずにメリットのみに関心を向ける市民側の体質にも問題がある」と、指摘する声もある。
住民には3つの顔がある。住民は税金を「負担」する納税者であり、公共サービス・公共財の「受益」する利用者でもある。行政サービスを民間の論理に置き換えると、納税者である住民は「出資者」であり、そして、利用者として「お客さま」となる。また、まちづくりの主体であり、自治を担っていく「当事者」でもあるのだ。
このように納税者、サービスの利用者、まちづくりの行動主体という3つの顔をもつ住民は、株主として、顧客として、そして自治の担い手として、財政について「知り」、「考え」、「行動していく」ことが重要だ。(近藤益弘)
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※当ページの内容は、2008年5月31日発行の20号に掲載されたものです。

