北九州にみる環境への取り組み
2007年9月29日発行の16号より
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かつて「公害の街」として知られていた北九州市は、その克服の過程で蓄積された経験やノウハウを環境国際協力に活用、今や日本の循環型社会づくりの実践者としての牽引役を果たしている。「世界の環境首都」を目指す北九州の取り組みを見ていこう。
市民と行政、企業が一体となって
煤煙の空、死の海から奇跡の復活
北九州市は、1901年の官営八幡製鉄所の立地から工業都市として発展。日本の四大工業地帯の一つとして、重化学工業を中心に、日本の近代化・高度経済成長の牽引役を果たしてきた。当時、製鉄所から盛んに昇る煙は、「七色の煙」といわれ、繁栄のシンボルとして旧・八幡市の歌にもうたわれていたほどだった。
しかし、産業の繁栄は一方で激しい公害をもたらす。当然のことながら、「七色の煙」は大気を汚染し、降下煤塵の害をもたらす。60年代、北九州地域の大気汚染は国内最悪を記録する。さらに洞海湾は工場排水により「死の海」と化した。
この公害問題に最初に気づいたのは、市民だったという。既に50年代、「家の中がザラつく」「洗濯物が汚れる」といった声が市民から寄せられていた。戸畑地区の婦人会は自ら調査に立ち上がり、議会、行政、企業に対し、公害対策を働きかけてきた。1965年、戸畑婦人協議会が製作した記録映画「青空が欲しい」は、公害対策を求める市民運動を象徴するものだった。
市民の声に押され、行政も動き出す。大気汚染等の測定により公害の実態を把握。行政指導、立ち入り検査等により企業へ改善を働きかけた。そうして、各工場と公害防止協定を締結し、市、県、当時の通産局等と市内の企業約30社からなる大気汚染防止連絡協議会を設立。企業側も、公害防止施設を整備するとともに、生産プロセスの改善を進めてきた。
この間、1968年には大気汚染防止法、騒音規制法が施行され、70年にはいわゆる「公害国会」で公害関係14法案が可決する。全国的に、公害問題への社会的関心が高まる中で、北九州市では、官民あげた取り組みにより、急速に環境改善が進んでいった。
こうして、80年代には、「七色の煙」に覆われた街に青空がよみがえる。また、大腸菌も棲めない「死の海」と言われた洞海湾に100種類以上の魚介類が、生息するようになっている。


85年には経済協力開発機構(OECD)の環境白書で「灰色の街」から「緑の街」へ変貌を遂げた都市として紹介され、87年には環境庁の「星空の街コンテスト」で、大気環境が良好な「星空の街」に選定された。

北九州市環境首都推進室 櫃本礼二室長
これらの北九州市の取り組みは国際的にも高く評価されている。1990年6月には、国連環境計画(UNEP)の環境貢献を表彰する「グローバル500賞」を日本の自治体としては初めて受賞。92年6月、ブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットでは、日本の自治体では唯一となる「国連地方自治体表彰」を受けた。
この奇跡的とも言える公害克服、環境再生について、北九州市環境首都推進室の櫃本礼二室長は、「市民が公害に気付き、行政、企業、大学などが一体となって対策に取り組んできた」ことが最大の要因という。「この良好なパートナーシップ、地域のまとまりが、今の環境都市のまちづくりへとつながっているのです」。
環境技術を創造し、産業化
資源の循環利用など環境で経済を拓く
企業の公害防止施設整備、生産プロセス改善、行政のインフラ整備など、20年間で公害対策に8000億円が投じられたという。が、これは、決して負の投資ではなかった。公害対策と省エネ・省資源、生産工程の効率化を両立させる革新的な技術開発へと発展、「環境」をキーワードとする新たな街づくりへの意義ある投資だった。
たとえば、原・燃料を無駄なく使って生産効率を高め、同時に汚染物質を削減するクリーナープロダクション技術(CP)を開発。生産工程には省エネルギー設備や熱効率の高い設備を導入し、廃熱利用、冷却水などのリサイクルなどのシステムを導入する。収益の向上と汚染物・廃棄物の削減を両立するアプローチだ。
もともと、北九州市は長年にわたる「モノづくりのまち」として、産業基盤や技術力が蓄積されていた。そこへ、公害克服の過程で培われた人材・技術などを活かして「産業振興施策」と「環境保全施策」を統合、資源循環型社会の構築を図ろうという試みが、「北九州エコタウン事業」だ。

総合環境コンビナート・響リサイクル団地
エコタウン事業とは、「あらゆる廃棄物を他の産業分野の原料として活用し、最終的に廃棄物をゼロにすること(ゼロエミッション)」を目指し、先進的な環境調和型のまちづくりを推進することを目的として、1997年度に創設された制度。北九州はその第1号の承認を受けて、北九州学術研究都市と連携、環境分野の「教育・基礎研究」から「技術開発・実証研究」、「事業化」に至るまで、総合的に事業を展開している。
エコタウン事業化の拠点・響灘地区には、ペットボトル、空き缶から家電、自動車などさまざまなリサイクル工場が集積する「総合環境コンビナート」や「響リサイクル団地」がある。事業所数25、投資額は約600億円、雇用者数は1000人を超え、現在、全国26地域のエコタウン事業の中でもトップクラスを誇っている。
アジアの環境人材育成拠点に
各国から4千人が北九州で研修

KITA外観(国際村交流センター)
一方、北九州市は、公害克服で培ってきた技術を早くから国際協力の分野で活かしてきた。1980年には財団法人北九州国際技術協力協会(KITA)を設立、86年度から本格的に国際協力事業団(現・独立行政法人国際協力機構[JICA])の環境研修コースの受託を開始。80年度から2006年度までに受け入れた研修員は、アジア各国を中心に121カ国、4438人、専門家の派遣は25カ国・118人に及ぶ。
産業廃水処理技術コースや生活排水対策コース、鉄鋼業におけるクリーナープロダクションコース、大気環境保全管理コースなど、KITAの研修にはさまざまなコースが用意されている。その特色は、200を超える地元企業や行政機関、NPOなどのバックアップによる実践的な研修にある。工場や研究機関などで経験豊富な専門家の指導を受けることで、高度かつ実用的な技術を習得。環境分野で活躍する人材を育成しているのだ。
また、アジアを中心とした海外の環境改善協力も積極的に推進している。友好都市である中国・大連に対して「大連市環境モデル地区計画」を提案、これが国家レベルのODA事業に発展した。大連市は2001年、中国の都市では初めて「グローバル500」を受賞するほどの成果をあげている。インドネシア、タイでは、北九州市内の企業の協力で開発された生ゴミ堆肥化の手法が広く普及、現地のゴミ減量、衛生改善に大きな貢献を果たしている。

北九州市では「アジアの環境人材育成拠点」を目指して年間400人の研修生を受け入れる
世界の「環境首都」創造へ
市民、産業・技術、都市分野で活動
北九州市が公害克服の歩みを続けてきた70年代、世界では既に地球環境への警鐘が鳴らされ始めていた。1972年、ローマクラブは「成長の限界」を発表。同年、第1回国連人間環境会議がストックホルムで開かれ、環境問題が、地球規模、人類共通の課題になってきたことが表明された。
「公害克服から国際協力、エコタウン事業などを続けてきましたが、我々の課題は、長期的な視点で、持続可能な社会を形成し、未来の世代に資源と良好な環境を引き継ぐことです」(櫃本氏)。
「持続可能な社会の構築」「真の豊かさ」にあふれたまちの継承へ。1年間に及ぶ広範な論議を重ね、1000件を超える意見や提案をもとに、2004年10月、市民・NPO、企業、大学、行政などで構成する「北九州環境首都推進会議」は、世界の環境首都の創造に向けたグランドデザインを策定。市民分野、産業・技術分野、都市分野に250のプロジェクトを提案した。

コンポスト普及活動
たとえば、市民分野では、環境教育のための副読本を独自に作成。市民団体主催により、環境活動の環を広げる取り組みである。「エコライフステージ」、清掃ボランティアや古紙回収プロジェクトなどを認定、市内の自然・景観や環境への取り組みなどをPRする「わがまち環境自慢」など、多彩な運動が展開されている。指定袋の手数料改定と分別・リサイクルの仕組みの充実を打ち出した「家庭ゴミ収集制度の見直し」(2006年7月)などの事業により1年間で家庭ゴミが約25%減少、古紙回収量が約70%以上も上昇したという。また、市内で約3億枚使用されているレジ袋削減のため、昨年12月から導入した全市共通ノーレジ袋ポイント事業「カンパスシール」もスーパーや百貨店、商店街など約300店舗が加盟、レジ袋辞退の消費者行動も徐々に定着してきている。
●サーマルリサイクル
廃棄物をただ燃やしてしまうのではなく、可燃性のゴミを固形燃料化したり、油化、ガス化したり、燃焼させて水蒸気や温水などの熱源や冷房用のエネルギーとして利用することをいう
産業・技術分野では、先述のエコタウンでサーマルリサイクルまで含めたゼロエミッションの取り組みを進めると同時に、企業の連携によって未利用エネルギーの有効利用や廃棄物の再資源化を推進し、地域全体としての環境負荷を削減する「エコ・コンビナート構想」を推進。また、環境負荷が低いことを新たな付加価値としてとらえた商品や技術、産業活動を「エコプレミアム」として選定し、普及に努めている。

自然エネルギーを利用した風力発電は現在11基が稼働している
一方、都市分野では、自然を生かしたまちづくりへ向けて「北九州市自然環境保全ネットワークの会」を組織。また、北九州市の二酸化炭素排出量は2002年に1990年比で3%以上削減されているが、さらなる削減を目指して、「地球温暖化対策地域推進計画」を策定。家庭、業務、運輸の各部門で単位あたり(1世帯等)10%の削減目標を設定している。自然エネルギーを利用した風力発電は現在、11基が稼働、太陽光パネル・温水器への市独自の助成制度も創設された。
昨年、全国の環境NGO11団体のネットワークが主催する「第6回日本の環境首都コンテスト」で、北九州市は総合1位に。まさに、市民・NPO、企業、大学、行政などが一体となった「世界の環境首都」づくりの取り組み、成果が評価されたものだろう。
国境を越えた環境問題の解決へ
北九州のイニシアティブに期待
このように公害克服から環境都市へと大きな歩みを遂げてきた北九州市だが、今年4月、10年ぶりに光化学スモッグ注意報が発令された。注意報発令まで大気が悪化したのは、大陸からの大気汚染の流入も要因のひとつではないかと推測されている。環境問題は1国、1都市だけで解決できるものではない。光化学スモッグや酸性雨、水質汚濁、漂流ゴミなど、近隣国からの影響にどう対処していけばよいのか?

財団法人地球環境戦略研究機関北九州事務所 前田利蔵研究員
現在、国連アジア太平洋経済社会委員会のプログラムとして、アジア・太平洋18カ国62都市が参加する「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」で、都市環境改善のためのセミナーやパイロットプロジェクトなどが展開されている。しかし、これはアジア・太平洋という広大なエリアの中での各都市の問題解決とその共有化を図ることが主眼だ。財団法人地球環境戦略研究機関北九州事務所の前田利蔵研究員は、「たとえば、現在のプログラムと併行して、環黄海圏などにフォーカスを絞って、特定の環境問題のテーマについて協議していくようなフレームワークをつくっていくことが必要ではないか」という。
先述したように、中国・大連への2都市間協力などで大きな成果を上げた北九州市は、国境を越える環境問題解決に関しても、イニシアティブをとりやすいのではないだろうか。それでこそ、「世界の環境首都」の名に値するものと期待したい。(永島順子)
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※当ページの内容は、2007年9月29日発行の16号に掲載されたものです。

