春吉地区の再開発始動 - 新・都心づくりのモデルに
2004年11月30日発行の創刊2号より
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天神エリアの新・都心構想と呼応するように、既に動き始めているプロジェクトがある。「渡辺通・春吉地区」の開発事業だ。福岡市はここを今後の都心づくりのモデルとしたい考えだがこの事業を成功させるには、ここからなにを創造するのかという視点が必要だ。

再開発が予定されているのは渡辺通りに面した2.5ヘクタールのエリアだ
空襲を免れた「最後の都心」
東西を渡辺通りと那珂川、南北を国体道路と城南線に囲まれた、約43ヘクタールの台形のエリアが春吉地区だ。
この一画は、空襲を免れたため、現在も昔ながらの狭い路地が入り組み、宅地規模が小さいためにこれまで大きな開発事業やマンションなどの大型建造物の進出ラッシュから守られてきた。その一方で消防車などの緊急車両が入りにくいなど都市防災上の理由と、天神に隣接する都心の未開発地として、古くから再開発の必要性や構想が上がっていた。
前福岡市長の桑原市政時代には、博多リバレイン事業に続く大型再開発事業として位置付けられていたものの、現・山崎市政になってから行われた大型プロジェクトの点検・見直し(平成11年度)によって事業規模が大幅に縮小された。地下鉄七隈線の新駅周辺で、事業効果が高いと考えられる渡辺通りに面した約2・5ヘクタールについて、リーディングプロジェクトとして事業化されることが決まり、平成16年4月には土地区画整理事業の都市計画決定が行われている。

渡辺通り側がビジネス 内側は生活エリアに
では、具体的な開発事業の内容を紹介しよう。
開発されるエリアは、別図の一角「渡辺通駅北地区」と呼ばれている。来年2月に開業する地下鉄七隈線の渡辺通駅の北側の出入り口となる場所で、現在の広瀬病院から都市未来ふくおか社屋を前面に、東側に約220メートル奥まで入り込む、手袋型のエリアだ。広さは約2・5ヘクタール。ほぼ中央に、キャナルシティ博多の南端からつながる幅18メートルの都市計画道路「渡辺通・春吉線」を通し、渡辺通りに面したエリアは民間開発によるオフィス・商業ビルを張り付け、その内側に住宅を再配置し、都心居住地としての生活エリアを整備しよう、という構想だ。
まずは対象エリア全域で区画整理を行い、住宅など地権者の意向に応じた宅地の再配置が決まった段階で渡辺通り側のエリアを再開発するという手順で進められている。区画整理の施行者は都市再生機構、市街地再開発事業は当該地権者による組合が事業を推進する予定で、福岡市が全体をコーディネートしている。
福岡市および都市再生機構では、来年度後半には区画整理の「換地」を決定し、平成18年度に着工、また前面の再開発業も18年度から本格始動する意向で、22年度にすべての事業が完成するというスケジュールを組んでいる。
地権者は36人(企業含む)だが、個人の住宅はそのうちの約3分の2。残りは九州電力やセントラルホテルなどが所有する駐車場や福岡市などが出資している都市開発会社・都市未来ふくおかの本社や広瀬病院などで、面積では企業の所有地が3分の2以上を占めている。
春吉再開発事業の三つの意義付け
この事業には、三つの視点から意義付けがされているので、ここで整理してみよう。
まず、大きく分けると
(1)天神から博多駅を含む福岡都心部の循環構造の実現
(2)春吉エリアの地域づくりという2点。
このうち、(1)については、博多駅〜呉服町〜天神〜渡辺通1丁目...という大循環と、天神とキャナルシティ博多を両極とする小循環の二つの輪を整備するという構想を実現するためにa:渡辺通りの顔づくりb:渡辺通・春吉線の整備の二つが今回の開発事業の中に組み込まれている。
(2)については、春吉地区全体を今後整備していくためのモデルとしてc:都市型住宅エリアの形成の実現を、この事業の中で目指そうとしている。
【渡辺通りの顔づくり】現在、天神地区に集中している商業・ビジネス機能を、博多駅を含むおおきな循環構造を実現することで「点」から「線」に伸ばし、渡辺通り沿道を、都心部の幹線道路にふさわしい機能と景観を持ったまちにするという構想が検討されている。その具体的なモデルケースを、今回の再開発事業のエリアでつくろうというのが目的だ。
【渡辺通・春吉線の整備】キャナルシティ博多の南側から那珂川を渡る橋を経て渡辺通りにつきあたる道路を、都市計画道路として整備しており、既にキャナルシティから橋を渡って春吉大通りにつきあたるところまでは完成している。この道路を完成させるのが今回の開発事業のふたつ目の目的だ。都市計画道路全体としては、今回のエリアだけでは完成しないが、残りの部分についても今後、整備手法を検討する予定だという。
【都市型住宅エリアの形成】現在の春吉地区が抱えている都市防災上の問題を解決することに加えて、高齢者世帯の増加や地価下落などによる人口の都心部回帰の流れもあることから、福岡市では渡辺通・春吉地区全体を都市型居住地としての機能を持ったエリアとして整備していく構想を持っている。今回の事業では、エリアの内側をこうした観点から整備し、将来の春吉地区全体の住宅ゾーン整備のモデル事業としたい考えだ。
春吉の再開発事業に創造都市の視点を
この区画整理・再開発事業における前述の三つの事業目的を達成するためには、巻頭言(7ページ)で本誌編集委員・九州大学経済学部の山崎朗教授が提言している「創造都市」の視点が必要だ。特に都市型住宅エリアの形成にあたっては、この視点からの具体的な構想と取り組みが不可欠となる。
「この事業によって、春吉はなにを創造する街にするのか」という命題が、今、行政に問い掛けられているのだ。
この命題を解くヒントは、春吉の地域の中にある。現在、春吉地区では、地域の中から「自分たちのいいところを発信していこう」という動きが始まっている。
春吉地区に店を構える飲食店や商店の人たちが集まって、今年の春、情報誌スタイルの地域マップを発行したのがスタートだ。
ここ数年、福岡では大名から今泉にかけて個性的なショップが次々と生まれ、若い世代が集まるエリアを形成してきた。最近は、春吉エリアにも個性的なバーなど新しい店ができはじめ、情報誌などで紹介されたりするようになっていた。しかし、春吉の場合は、大名や今泉とは事情が違っていた。「大名のごとならんように」というのが、春吉地区の店主たちの危機感だ。
「ピシャーっとした大人の街にしたかとです」
春吉大通りに構える酒店の中二階を地域の人たちの寄り合いの場として提供している友添けんじさんは語る。
「確かに大名は当初、若い人たちで活気のある街になったが、そこに目をつけた中央資本が入り込み、今ではみかけのよさだけを残して、地元の若者たちの表現の場としてのよさが薄れようとしている。私たちの春吉は、大名とちがって、大人の街。新しい店も、古くからやってる連中も、それぞれが自分なりのこだわりを自分の店で表現しようとしており、地域に根付いている。そういういいところを失わんごとせないかんし、それをもっと多くの人に知ってほしいとです。ホテルやら怪しい店やらもあるけど、それもぜ〜んぶひっくるめて春吉。春吉は、ピシャーっとした大人の街にしたかとです」
友添さんらによる情報発信は、現在、インターネットのホームページに場を移して、手探りながらも大人の街としてのこだわりを発信している。
春吉のよさを発信しているホームページ「晴好」
http://www.haruyoshi.jp/
「これこそが本当の地域のニーズ。このニーズを将来のまちづくりに生かしていくのが、これからの行政の役割ではないか」と提言するのは、都市計画に詳しい佐藤俊郎氏(環境デザイン機構代表)。
地域の良さを生かすまちづくりを
福岡市が今回の事業で進めている段取りは、(1)区画整理を実施して、事業地域内に混在している企業と住宅の土地を、企業を渡辺通り側に、住宅をその内側に「換地」し、(2)その検討の段階で、渡辺通り側は再開発組合を結成して商業・ビジネスビルの建築プランを考え、住宅側もどういう街並みにするのか決めるーーというもの。
しかし、個人の地権者の中から「どういう街にするのか決まっていない段階で何を基準に土地の入れ替えを決めればいいのか」という戸惑いの声が聞かれる。福岡市と都市再生機構ではこうした地域の声を再開発事業に生かしていくために対話を重ね、その方法を探っている。
そのためにはどういう姿勢が求められているのか。前出の佐藤氏はこう指摘する。
「土地をつぶして箱モノをつくり、利用方法はあとから考えるというのは、古い手法。これからの行政による地域づくりは、地域のニーズを時間をかけて醸成し、そこから生まれるものを行政がサポートすべき」
この点、春吉地区には、まだ手探り状態とはいえ、地域の住民たちの中から生まれた明確なニーズがある。このニーズを生かした地域づくりの手法として、佐藤氏がこんな事例を紹介してくれた。
【アイルランド・ダブリンの「テンプル・バー」地区】テンプル・バー地区は、春吉と同様に古い街並みの残るエリアで、隣接して都市開発が進んでいたため、行政はここに大きな交通センターを造ろうと計画。少しずつ土地の買収を始めた。その買い上げた場所を一時的に芸術家などに開放したところ、おもしろい人間がこのエリアに集まり始め、地域の中からアートを創造する街にしてみてはどうか、という声が上がり始めた。そこで市民がコンペで、代案を作成して、行政の交通センター計画を中止させた。それから10年以上の時間をかけて、古い街並みは生かして、エリアからは車を締め出し、街角や古い建物のあちこちで芸術関連のイベントや若い芸術家が集まる場をつくり、ヨーロッパの中でも芸術都市として注目される地域になっている。
「海外の事例がすべていい、というわけではないが、似たような地域の成功事例は参考にする価値は高い」と佐藤氏。
春吉の場合、ダブリンにおける「芸術」にあたるようなまちづくりの「核」は、まだ見出せてはいない。だが、それを探す下地はできている。
春吉が何を創造する街になるのか、地域の人たちと時間をかけて話し合い、本当のニーズをベースにしたプランを実践することが、長い目で見た場合の成功につながり、周辺地区のモデルケースとなりうるのではないだろうか。(宮崎仁士)

細い路地が入り組み、それが独特の雰囲気を醸し出している春吉地区
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※当ページの内容は、2004年11月30日発行の創刊2号に掲載されたものです。

