ユニバーサルデザインが交通インフラで走り出す
2005年2月20日発行の創刊3号より
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福岡市の交通インフラの新しい顔として地下鉄・七隈線がデビューした。ユニバーサルデザインを全面的に導入し、バリアフリーにも配慮した市民の足である地下鉄・七隈線での取り組みは、今後の新しいプロジェクト推進のひとつのモデルと言えそうだ。
ユニバーサルデザインの地下鉄・七隈線が誕生!
2005年2月3日―――福岡市西南部地区の慢性的な交通渋滞解消に向けて地下鉄七隈線が、営業を開始した。福岡市都心部に開設した天神南駅と福岡市西南部に位置する橋本駅を結ぶ全長12キロを24分でつなぐ七隈線には、ユニバーサルデザインやバリアフリーの観点からも熱い視線が集まっている。
「体系的にユニバーサルデザインの考え方を浸透させた国内で初めての地下鉄が七隈線であり、この七隈線には色々な試みを採用した先駆的な地下鉄である」と、福岡市地下鉄デザイン委員会座長を務める佐藤優・九州大学大学院芸術工学研究院教授は自信を持って解説する。
製品や環境を可能な限り最大限、年齢や障害の有無に関係なく全ての人々にとって使いやすく設計するユニバーサルデザインの考え方を浸透させた七隈線は、新しい交通インフラの顔も持つ。
通常、地下鉄をはじめとする交通機関に関しては、完成の3、4年前から表面処理としてデザインを考えることが多いのに対して、今回の七隈線の建設プロジェクトでは、着工に先立ち、今を遡ること10年前から取り組んで来た。
七隈線でのユニバーサルデザイン導入において中心的な役割を果たした福岡市地下鉄デザイン委員会では、『色々な人たちの生活のための地下鉄』というコンセプトの下、技術的な裏付けをもとに地下鉄全体についてソフト・ハードの両面にわたって、全体を統括した体系的な組織として活動してきた。
小断面の小型車両なのに「明るく、広々」の車内デザイン
「揺れが少なくて、思ったより乗り心地が良い」「沿線の大学・短大に通うのに便利で、大学病院に通う患者さんにとっても助かる」「曲線を帯びた車体がおしゃれで、意外と車内が広い」...。利用者からも好評な七隈線が在来の箱崎線、空港線と構造的に大きく違うのは、建設費低減を目的として地下鉄の断面内寸を従来6・1メートルあったのに対して、4・7メートルと小型化させた点だ。
このため、車両も従来に比べて小型化となる点を踏まえ、デザイン委員会で検討したコンセプトをもとに車両メーカーに設計・製造を依頼した。丸みを帯びたアルミ製車体の新型車両ではオープンタイプとなった運転席をはじめ、室内色として明るい色彩を基調とし、車両間の貫通扉へのガラスの採用など、空間的なハンディーを持つにも関わらず、バリアフリーに対応しながら、視覚的に配慮した「明るく、広々とした」車内で誰もが快適に過ごせるようにデザインしている。
また、車両の小型化が可能となる駆動システムとして鉄輪式リニアモーターを採用、リニアモーターによる音の静かさに加えて、収音材を配していくことで静音性を高めている。
ユニバーシアード以来のデザイン都市の底力を発揮
自然な曲線を描く壁面、動線に沿った照明ーー 。「駅にある案内板の表示が大きくて、見やすい」「各駅にはエレベーターやエスカレーターがあって便利」...、改札口や駅事務室などへスムーズに誘導できるように考慮した駅舎の構造についても利用者の声は上々だ。
「『デザイン都市・フクオカ』のソフト蓄積は大きく、95年に開催されたユニバーシアード福岡で発揮したデザイン力が、今回の七隈線プロジェクトに結びついている」と、デザイン委員会関係者は明かす。162カ国の学生たちが集う総合競技大会であるユニバーシアード福岡ではデザインシステムの概念を導入した取り組みでSDA(日本サインデザイン協会)大賞や通商産業大臣賞を受賞するなど、高い評価を得た。
これらの実績と蓄積を踏まえ、七隈線開業に合わせて開設した16の駅舎についてもユニバーサルデザインやバリアフリーの観点から様々な試みを取り入れている。ゲートの形状や色彩は統一を図る一方、周辺地域の景観や敷地条件と調和した個性的なデザインを取り入れ、〈すぐに分かり、目立ち過ぎず、周辺環境と使う人にも優しい〉デザインとなっている。
すべての駅の入り口にエレベーターかエスカレーターを設置、明るく広がりがある空間をつくり出すために入り口の外観にはガラス面を多く採用し、自然光をできるだけ地下に取り込む工夫もしている。
ユニバーサルデザインにバリアフリーを加味
バリアフリー対応施設として多機能トイレや誘導・警告ブロック、手すり、音声案内装置などを全駅に設置している。
駅舎内の床や壁、天井などの色彩については空間的な明るさと広がりを感じさせるために白色を基調とし、傾斜型券売機や改札口、トイレ、駅事務室などの行動のポイントとなる箇所についてはイメージカラーであるグリーンをアクセントカラーとして、ひとの気持ちに対応した形で自然に導かれる仕掛けになっている。
バリアフリーや安全面からすべての地下鉄のホームを直線化させ、見通しがきき、さらにホームと車両とのすき間や段差を少なくするなどフラット化に努めている。コンコースとホームをつなぐエレベーターは利用しやすい位置に統一し、ホームではエレベーターの前に車イスに対応した車両が停車する工夫がなされている。車両へのホーム乗降口にある転落防止のホームドアではホーム全体との調和を考慮し、乳白色の強化ガラスを採用している。
これらの機能を備えた各駅では、地域性とイメージを重視し、駅出入口の階段および踊り場、改札口正面の壁面、コンコースおよびホーム階段の柱、ホーム両側の壁面などにタイル、石、ガラスなどの異なる素材を採用し、駅ごとの個性を表現した個性化壁という新しい試みも導入している。これらのデザイン的なアプローチ以前に技術的な裏付けも重視しており、天井や床下など、利用者があまり目にしない部分では規格化したモジュールによる共通化でコストダウンも実現している。
全てのひとに優しいこれからの交通インフラ
「明確なコンセプトと技術的な裏付け、そして体系的な組織運営で考えた内容をひとつひとつ実験し、チェックしながら、実行し実現できただけに完成度は高い。100点満点の150点の出来である」と、先出の佐藤教授は目を細める。
従来、個別に優秀な技術力があっても、現実的にバラバラな縦割り運営ゆえに十分に発揮することができないことが多い。この点に関して、システムとしての考え方を取り入れ、縦割りの壁を突き破り横断的に取り組んだことが、七隈線プロジェクトにおける最大の効果といえる。現実に七隈線プロジェクトで実現できた点について、「福岡は先進的でなければならない」という気概を持った担当職員らの頑張りとトップである交通事業管理者らの理解と推進が大きかったという。
事実、七隈線プロジェクトでは様々な人々からの協力を得た。例えば、バリアフリーとしての機能性については、実際に身障者らの協力を仰いだ。目が不自由な中、OLとして社会生活を送る高橋玲子さんも協力者のひとりで、実際に触れてみた七隈線の感想について「つくる段階から色々な試みと工夫を感じる」と、にこやかに語る。
「開業してみてからが大事、これからも色々な声を生かして、より良い地下鉄にして欲しい」とエールを送る。チェックしていく過程においては、使い勝手に関する指摘のみならず、従来はあまり確認していなかった点字の誤りも見つかるなど、徹底したものだった。
七隈線に代表されるユニバーサルデザインやバリアフリーに関しては、身障者からの声や社会的な取り組みが大きな役割を果たしているのも事実だ。都市空間のバリアフリーに関して積極的に取り組むデザイン都市FUKUOKAを創る会幹事で、自らも車イス生活を送る椋本敏行さんは「七隈線の車両や構内は色々と考えられた地下鉄であり、魅力的。今後は各駅までの一体的なアクセス整備について期待したい」と、率直に語る。
このような意見や要望を反映しながら改良・改善をすすめ、「お金は無いけれど、良いものを作る。お金が無いなら、知恵を出す。皆でつくった地下鉄であり、新しいフクオカを発見できる散歩道」「すべての人にやさしい都市基盤づくりを志向していく上での出発点である」と、七隈線の建設プロジェクトに携わった関係者らは胸を張る。
地下鉄・七隈線にみる今後のプロジェクトのあり方
七隈線にみられるように、プロジェクト推進において明確なコンセプトは不可欠であり、さらに運営体制の如何が事業の正否を決めると言っても過言ではない。
これらの点を踏まえ、都市形成や街づくりなどのプロジェクトにおいては最大の需要者である市民からの声や要望、意見などを吸い上げる場と仕 組みが必要となる。そして、これらのニーズをカタチづくっていくキーワードのひとつが、ユニバーサルデザインである。(近藤益弘)
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※当ページの内容は、2005年2月20日発行の創刊3号に掲載されたものです。
