フォーラム福岡

天神および博多駅の開発シナリオ天神写真

今、求められる福岡の文化戦略

2005年2月20日発行の創刊3号より

「今、求められる福岡の文化戦略」に対する皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
コメント受付フォームよりお送りください。>> コメント受付フォーム

一見豊かでありながら行き詰まった閉塞感の中にある都市の機能を、いかに回復させるか。文化を起爆剤にした都市再生は、ヨーロッパを先例に、日本でも都市戦略の柱にする街が増えた。美術館、博物館、劇場、ホールなどの文化施設を備える福岡市の文化戦略について検証する。

文化戦略が必要

だれが文化芸術を企画運営していくか

床にテーブルが置かれ、周囲に木切れや小石、松ぼっくり、ビー玉などが入った箱が並び、子どもたちは動き回りながら思い思いの素材を使って、作品づくりに取り組んでいる。洒落た店舗が整然と続く一区画に突如現れる賑やかで自由な空間。ギャラリーアートリエの「通りと広場ー地下都市の実験ー」の会場風景だ。

アートリエ

博多リバレインリバーサイト地下2階にある文化芸術情報館アートリエは、文化芸術活動の総合的情報発信基地として、情報交流、チケット、ミュージアムグッズ、カフェの各コーナーがあるオープンスペース。そこに新たに昨年、ギャラリーがオープンした。6月から福岡市文化芸術振興財団の委託を受けて企画・運営を行うアートNPOミュージアム・シティ・プロジェクトは、15年間街なかで「ミュージアム・シティ・福岡」などのアートプロジェクトを展開してきた実績を持つ。

事務局長の宮本初音さんは、今回の取り組みについて次のように話す。

宮本初音さん

「現代美術は、従来の作品に比べると、心地いいものばかりとは限りません。私たちは現代アートを街の中に置いて、いきなり見せてしまうプロジェクトをやってきた実績が買われたのではないでしょうか。それに今、全国的に文化芸術関連の事業をNPOに委託する流れにもなっています。今回のギャラーアートリエの年間テーマは『芸術家の家』ですが、地元作家を中心に、企画の中に作家も入ってもらい、ワークショップもどんどんやっていきます。

手応えは感じますね。それに委託された財団からの信頼性が周囲の信頼を生むという、よい活動環境にもあります。これからは、ほかのアートスペースとの連携、公共の文化芸術関連の施設とアーティストや一般の人たちとの窓口役、そして作家同士、ほかのジャンルのアーティストや異業種、さまざまな年代や職業を超えて、集まり情報を交換し本音が言える、『あそこに行くと、みんなが出会える場所』に、していきたいですね」

実際にギャラリーでワークショップを行っていた作家のオーギカナエさんは、「ここでは、つくることがコミュニケーションのツールであり、コミュニケーションの場になっています。例えば、芸術が社会に対してできることを考えた時、街の中に子どもも大人も気軽に来られる、いつも開かれた、ものづくりを通して遊び、つながれるアトリエのような空間があればいいなと思います」と語る。

オーギカナエさんのワークショップ風景

公共の施設の管理をNPOに任せるということ

ぽんプラザホール

キャナルシティ博多のすぐ横、新向島ポンプ場(福岡市博多区祇園町)の4階にある「ぽんプラザホール」は、演劇を中心に地元舞台芸術団体の利用が最も盛んなホールである。文化財団は昨年4月、ホールの受付管理業務をNPO法人に委託した。それまでのビル管理業者から委託先を変更する際、財団は舞台芸術関係者からなるNPO法人に受け皿を求めた。

現在、ホールの管理運営を行っているNPO法人福岡パフォーミングアーツプロジェ クト事務局長の高崎大志さんは次のように話す。

「地元で舞台活動をしているNPOに委託するという話を聞いて、常々横のつながりで何かしたいよねと話していたので、おもしろそうだとNPOを設立して申し込みをすることになった。現在の仕事の内容は、ホールの使用申し込みの受付と全体の管理、そして文化振興事業です。まず行ったのが演劇ポータルサイトの立ち上げで、地元劇団や公演情報の集約と充実を図った。次のホール利用者セミナーでは、ホールの技術スタッフにも出席してもらい、40団体90人の参加者がありました。今年1月から3月までは、公演のない平日を無料で貸し出す『火曜劇場』という企画に取り組んでいます。

高崎大志さん

財団との協議の場は、現場の情報・需要を伝える貴重な機会だと考えています。財団の姿勢はとても柔軟で、もちろん行政の論理や立場もわかりますが、中間に立っていいクッションの役割をしてもらっています。

現場がわかっている人間に受付管理業務を任せることについて、今のところメリッ トの方が多いと思います。個々を集約して活動の手伝いをし、舞台芸術の総体として地元、全国へ、社会的な働きかけも含めて発信していく。公共の施設を横のつながりであるNPOに任せる、先進的な事例だと思います。これを成功させて、よき先例として全国に広げていきたいですね」

美術館・博物館3館の共通フリーパス制を導入

同財団ではこのほかにも、2002年5月に福岡市の文化芸術活動の振興を図り、文化芸術の輪をさらに広げることを目指して、「Art&Culture わの会」を発足している。美術館は敷居が高いというイメージを払拭し、市民のものである施設にもっと気軽に来てもらおうと、福岡市美術館、福岡アジア美術館、福岡市博物館の3館共通のフリーパス制を導入した。

文化施設1館だけの『友の会』はあっても、同じ市内の3館を対象にした共通のフリーパス制を実施するのは全国的にも初めての試みではないかとのこと。また、大規模な特別展になると主催者もまちまちで、開催館に限らないことも多いことから、フリーパスにも限界が出てくるところだが、「わの会 」では2週間以上の展覧会は全て対象としている。

現在の会員数は約3300人。福岡県内がほとんどだが、九州各県や、関東在住の会員もいる。市民に限らず、広く会員への門戸は開かれており、芸術鑑賞をきっかけに、より多くの人に福岡の街を訪れてもらうことも期待している。

バルセロナ、ナント文化戦略の最前線を訪ねる

2004年5月〜9月、スペイン・バルセロナ市で「ユニバーサル・フォーラム バルセロナ2004」が開催された。『文化の多様性』『持続可能な発展』『平和のための条件』をテーマに、ディベート(会議・討論等)、展示、フェスティバル等が、バルセロナ市東南海岸部の再開発地区を会場に繰り広げられた。

同フォーラムの目的は、世界の人々がバルセロナに集い芸術と文化を語り合う、これまでにない新しい形のフォーラムであり、「多様な文化間の対話と全人類の生存・平和のための普遍的な文化創造」。また、開催期間中、世界中から政府首脳をはじめとする政府要人や市民等が招かれ参加することによって、「バルセロナが世界都市として機能することを目指す」。さらに、フォーラム開催により、会場となる都市部の再生とともに近代パブリックスペース(公的広場)の創造を目指す」といった目的により開催された。

福岡市では、芸術・文化を活かしたまちづくりの最前線を調査し、文化的視点から福岡のまちづくりを検討することを目的に、同フォーラム及び、フランス・ナント市の視察を行った。視察メンバーは、北嶋雄二郎市民局長以下6名。

文化は政策の基本大会会場は再開発地区

バルセロナは、ローマ時代から港町として発展し、カタルーニャ地方独自の伝統文化を持つ。市内には歴史的建造物も多く、ガウディの建築物も点在し、ピカソやミロ、ダリ、カザルスなどの芸術家を生んだ街としても有名である。

市の都市戦略プランは、経済的・社会的発展を目標としてきたが、94年には経済のグローバリゼーションへの対応策を中心に据えながら、新しい文化インフラ開設にも言及し、99年以降、文化が明確に戦略ラインの中にうたわれ、政策の基本として捉えられている。ユニバーサル・フォーラムは文化戦略の中間見直しプロジェクトと位置付けられていた。

フォーラムの会場となった市東南海岸部は、旧工業地帯で発展が遅れていた地区であり、同フォーラムは、92年開催のオリンピックと同様に、港や海岸線の再生事業完結のための事業という側面を持っていた。オリンピックで整備できなかった東の海岸線をフォーラム開催に伴うインフラ整備に組み込み、EU、政府、民間投資等を呼び込みながら再開発を行っている地域である。

会場には仮設パビリオンは少なく、コンベンションセンター(1階には東京をはじめ世界各都市の模型を展示)、フォーラムビルディング(三角形のユニークな建物で夏期は貯めた雨水で屋根を冷却するエコロジカルシステム機能を持つ)など、フォーラム終了後も利用が予定されている恒久的な施設が整備された。

視察団のメンバーの1人、市民局文化振興課の吉田哲也さんは次のように話す。

「文化をテーマにした今回のフォーラムは、文化によるまちづくりを世界的な規模で展開した、初めての試みだと思います。文化によるまちづくりは、ヨーロッパでは昔から取り組まれていたものです。石の文化だったから古い歴史的な建物が多く残ってはいるわけですが、街の随所で大事にしながら活用されている。市民一人ひとりの意識も違いますね。高度成長を経て、時代は行き詰まっている。これからの都市づくりに求められるのは多様性、創造性です。文化を都市再生の起爆剤にするというのは、時代の流れとしてあります。そういう意味でも今回のバルセロナのフォーラムは、1つの手法として大変参考になるものでした」。

両市の文化予算が全体に占める割合を見ると、バルセロナ市5・0%(全体額2424億円=2002年度)に比べ、福岡市は1・8%(同7317億円=2004年度)である。

局長は地方文化行政のプロ職員も文化の専門家

フランス・ナント市は、ロワール、ブルターニュ地方最大の都市で、ブルターニュが独立国だった時の首都。そのナント市のジャン=ルイ・ボナン文化局長は、同市の文化事業、文化遺産、観光を担当し、地域のアイデンティティー、文化的催しの芸術性、財政などの側面から自ら分析・決定する。フランス各地で文化専門家としての業績を残す、文化政策の専門家、地方文化行政のベテランである。

ボナン局長の発言によると、「フランスの文化政策は地方分散型で、文化予算は大規模化し、全都市が文化に投資する金額を合計すると国の文化予算を超える。文化の方向性を担っているのは地方である。ナント市では国際的な文化政策を積極的に推進している。文化局の職員はすべて、文化マネジメントを修得した専門家で、ほかのセクションに行くことはない」。

ナント市には「リュー・ユニーク」(ユニークな場所)という、ビスケット工場を改築して、内外の舞台公演や講座・展示等を行う文化発信基地がある。舞台の稼働率はほぼ100%、夜中2時まで営業する施設を管理運営するのは、「アソシエーション」というNPOの協会である。

リュー・ユニーク

福岡の文化戦略ーー急がれるこれからの課題

「福岡に文化戦略が必要だ」、福岡市文化芸術振興財団専務理事の吉村哲夫さんは言う。

「産業が活性化すれば街が発展するというのは、20世紀の考え方。ヨーロッパの先例都市のように、これからは文化の持つ創造性、文化力といったものがコアになって、街や経済の発展、活性化につながっていくと思う。『街の創造性をどう高めていくか』『文化芸術を社会資源としてどう活用していくか』といった文化戦略が、福岡にも必要です。

たとえば博多織、博多人形といった伝統産業も、消費、保存する産業面だけでなく、アートとして価値の再発見、ハイテクや新しい芸術との出合いや新たな創造を支援するという考え方が必要ではないか。京都西陣では、古い町並みの中に若いアーティストがつくった創造空間がITによる西陣織図柄の活用を生み出したという話も聞きました。

また文化施設も単にハードとして管理するだけでなく、創造、コミュニケーションの場として、多くの市民やコミュニティーが活用できる仕組みづくりも必要。金沢の金沢21世紀美術館は、『街の広場』として市民との参画交流、伝統工芸の発展、実験の場、見て触れ体験し子どもとともに成長する美術館というコンセプトで話題となりました。

舟乗り込み

文化集客でも、たとえば博多座の観客数、飲食等の支出といった文化的消費面だけでなく、『歌舞伎を愛し演劇で賑わう街』といった福岡のアイデンティティーやイメージの向上に果たす役割も重視すべき。『いつも何か面白いことをやっている街』というような多様な文化が相乗的な魅力となって街の価値をつくり出すという面があると思う。

文化は都市の発展、都心部の活性化、コミュニティーの再生、子どもの育成、文化集客といったさまざまな資源として活用できる可能性があり、街の『お飾り』ではない。国内外の創造都市を検証し、福岡の街が応用できる答えを探していく。これ 、これからの急がれる課題です」。

福岡の文化戦略を模索する文化の種をまくために

鴻臚館の時代から海を通した海外との交流の歴史、博多商人の町、あるいは城下町としての賑わいと文化を持ち、アジアの玄関口、九州の拠点都市として発展してきた。文化施設、大型複合商業施設、スポーツ施設、教育施設なども集積されている。土俵もハードも揃った福岡の街に、足りないものは何だろう。

文化は人の心と同じだ。いくら豪華な料理を並べられたテーブルにつかされても、食べたいものがなければ、食べたくなるような環境でなければ 、食べたくもないし食欲もわかない 。おいしいとも思わない。「高い材料ですばらしい料理をつくったのに」と言われても困る。

文化は植物や動物に似ている。生まれた風土、育つ環境、生きて行く自然が合わなければ、健やかに繁栄することはできない。いくら条件を揃えられたからと言われても、そこで生き生きと育つことができるとは限らない。

都市における文化の多様性、創造性をどう『かたち』にしていくか。全国、世界各地で都市に根づき、豊さと賑わいと喜びを生む文化を模索しているそれぞれの都市が自らの拠りどころを、アイデンティティーを求めている。

本来、自然発生的に、時には時間をかけて生まれ育つ文化に、人知で挑戦するには、都市の歴史と風土と人々の声に耳を傾け、情報を収集分析し、柔軟で懐の深い土壌をつくることから、まず始めよう。そしてそこにどんな種をまくか。種をまき、見守り、育てる専門家専従者の存在も欠かせない。これから、どれだけの時間と労力と費用をかけて、それがどこまでできるか。そこで、福岡の文化戦略の方向性が決まっていく。(遠山香澄)

「今、求められる福岡の文化戦略」に対する皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
コメント受付フォームよりお送りください。>> コメント受付フォーム

※当ページの内容は、2005年2月20日発行の創刊3号に掲載されたものです。

<< トップページへ

Copyright © 2005 Forum Fukuoka. All Rights Reserved.

推奨ブラウザ:IE6以上・NN7以上・Safari・Firefox