安全なまちづくりへ - 地域主導の防犯運動広がる
2005年2月20日発行の創刊3号より
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東区の一家殺害、博多区の早朝OL殺害など、凶悪な犯罪が相次ぎ、ひったくりなどの被害も跡を絶たない。都市化や国際化が進む一方、確実に福岡の治安は悪化している。安全で暮らしやすい街にするためには、この現実を市民全員がしっかりと受け止め、正面から向き合う覚悟が必要だ。
福岡市が「地域安全警戒宣言」
本特集のプロローグでも紹介した通り、福岡市の刑法犯罪は2003年度が5万3507件で、1989年度に比べて約1・7倍と増えている。住民1000人あたりの犯罪発生率は政令市のなかでワースト3位だ。
この現状を重く見た福岡市は、昨年9月に「福岡市地域安全警戒宣言」を出して「犯罪のない安全で住みよいまちづくり緊急対策会議」を設置した。2004年度中には総合的な防犯指針(案)を策定し、05年度以降は地域、事業者、NPO、ボランティア、警察、行政と連携を取りながら、互いに協力して行動する防犯推進体制の強化を図っている。
具体的には、まず「地域防犯マニュアル」を作成する。これによって、よりわかりやすい犯罪情報の地域への提供、安全・安心マップの作成支援、福岡市庁用車のパトカー様式塗装、学校における安全対策、児童・生徒に対する防犯ブザーの助成検討などを進める。
そして現在、市が提案している革新的な取り組みが「防犯DIG」である。DIGとはDisa ster(災害) Imagination(想像力) Game(ゲー ム)の頭文字を取ったもので、元来は、災害時にどう行動したらよいかという問題を解決するために、地図を使いながら訓練する問題提起型のワークショップだが、これを防犯に応用したのが福岡市の「防犯DIG」だ。防犯DIGは全国で福岡市のみ実施しており、2003年6月から始めて今年度は1月現在で約50件の依頼に応えた。
地域固有の情報から解決法を導き出す「DIG」
防犯DIGは、地域の防犯には人と人のきずなが大切だという理念に従い、住民の問題意識を喚起するよう作られている。
福岡市市民局市民生活部が地域から防犯DIG実施の依頼を受けると、まず地域の担当者と打ち合わせを行う。防犯DIGの性格上、参加者の自主性が大事なので必要な道具は準備してもらい、さらに住民を無理に動員しないよう念を押す。
防犯DIG当日は市の担当者が、目的は仲間作りであることを説明する。街の地図上に危険情報や安全情報を記入していくうちに、参加者は情報を共有することの大切さを実感する。
この間に折を見て、警察官や消防署員がアドバイスを加えるが、彼らは私服で参加しざっくばらんな雰囲気で会談に加わる。防犯DIGはあくまで話し合いが基本だ。
また場合によっては、突然男が乱入して去る。その後に主催者が、「まず何をやるか」「服装や容姿の特徴」などをたたみかけて聞く。上手く返答できなかった体験をもとに、子どもや老人が犯罪に遭遇した時、どういった対応をするのが適当かを話し合う。
こういった2時間半程度のプログラムを通じて、参加者は情報を共有することの大切さを実感することができる。
防犯DIGに対しては、すでにパトロールなどの取り組みを行っている地域からの依頼もある。その時にDIG担当者が強調するのは、「夜回り隊」から「見守り隊」への転換だ。夜回りという行動の意味を考えていくと、住民が表に出ることが犯罪抑止力の出発点だということに気づく。加えてみんなが情報を共有して、地域で何が起こっているのかを知ることが肝要である。それが犯罪防止の最も有効な方法だということを、防犯DIGのプログラムは導いてくれる。
西区石丸校区では、3カ月に1回の割合で防犯DIG講習を受けている。「話を聞くのではなくて参加するので非常にわかりやすい」という参加者の声が集まる。5月には、高齢者を対象にして「振り込め詐欺防止DIG」を開催する予定だ。また西区姪の浜地区では、DIGの考え方を参考にして環境推進委員会の活動指針を作ったり、活動で問題が起こった時の具体的な対応が上手くいくようになったという。
防犯DIGは何かの答えを含んでいない。住民が地域固有の情報を出し合って解決法を話し合う。それによって問題解決に向かう方法を身につけるためのプログラムだ。防犯の主役は地域で、活動を役所と警察がサポートするのが求められる姿だ。
福岡市は今後も防犯DIGを紹介することによって、さらに有効性のある活動が広がることを期待している。
防犯DIGについての問い合わせは、福岡市市民局勤労・生活安全課=電話092(711)4054=まで。
地域で本格化する防犯活動
生活の安全や犯罪に対する危機意識は、実際に危険な場面を実感している地域住民にとっては切実だ。その中から多くの地域でそれぞれの防犯活動が本格化している。それらのいくつかを紹介しよう。
早良区小田部校区
児童の父母が立ち上げた「小田部校区だいこんの会」が、民間パトカーを実施している。住民から譲り受けた中古車を、警察の許可を得てパトカーと同じ白黒ツートンに塗った。これを校門の外に置いて朝夕の登下校時にパトロールする。年間経費35万円は、夏祭りやバザーに手製の餅を出品するなどして捻出している。
当初は「だいこん」という名称に対して婦人達から当惑があったそうだが、今は住民の参加意識が高く、本物のだいこんと共に小田部名物になっている。
活動の結果、不審者が激減して公園での中高生によるたかりもなくなった。パトロールの対象は小学生に限定しているが、派生効果としてひったくりや車上狙いも減った。ただ、不審者が他の地区に移っただけのことだ。室見川を挟んだ姪浜地区では、特に新築マンション周辺で車上狙いが多発している。だいこんの会では、そういった地区の自治会と話し合いを重ねて活動の広がりを目指している。
博多区住吉校区の取り組み
財団法人福岡アジア都市研究所は、2002年6月に「安全・安心のまちづくりに関する研究会」を発足した。そして同年7月に意識調査を行い10月から研究を始めている。研究のひとつとして03年、住吉校区を対象に地域防犯ワークショップが開催された。住吉は都心部の商住混合地区で、キャナルシティ博多には年間1300万人が訪れる。住民の7割が単身世帯で高齢化と国際化が顕著になっている。ここでは03年に417件の犯罪が起こり、中でもひったくりが73件と多発している。この現状をふまえて、ワークショップではひったくりと不審者対策をテーマにした。方法は、危険・不安マップ作成、交番業務体験ゲーム、安全を考えた街歩きと続いて最後にディスカッションを行った。
ここで浮き彫りになったのは、地域内で組織を統合する必要性である。すでに防犯活動を行っている防犯組合、青少年補導員、PTAが協力して活動を機能的にすることが提起された。具体的な対策としては、外壁を見直してこどもの目の高さで見えない部分をなくす、こども110番の機能を見直して対応をマニュアル化する、夜間には既存のこども110番やコンビニを「女性110番」にする案などが出た。さらに「危険・不安マップ」を作成した。
博多区住吉校区子ども会育成会の高橋正志会長は、「この校区では、今も福岡アジア都市研究所と定期的に会合を持って防犯活動を続けてます」と、活動の発展に意欲的だ。
東区自警団
制服がある本格的な自警団。2004年2月に発足した美和台校区自警団を皮切りに東区全体に拡がり、現在11団体を越えている。団員は格闘技の有段者、大学のスポーツ部員、現職の警察官などで構成される。このような強力なメンバーで結成された自警団は、全国でも珍しい。
西区石丸パトロール隊
定期パトロールは行わず、定例会で問題が指摘された時に活動する。一種の「お助け隊」であり、雑多な職種の住民たち35人ほどが隊員として登録し出動待機している。小学校でシンナーを吸っている若者が問題になった時には、夜10時からパトロールを強化した。警察と連携する場合もあるが、柴田義雄隊長は「あの校区はパトロールしている、という評判が犯罪を沈静化させるんじゃないでしょうか」と言う。
中央区笹丘のワンワンパトロール
犬の散歩をする時に、リードに「パトロール中」のマークを付ける。現在64人が登録している。パトロール自体が目的ではないが、散歩の時間がまちまちなので誰かが歩いている利点がある。飼い主同士が声を掛け合うことで市民ネットワークが生まれ、同時に情報の共有ができる。副田茂喜隊長は、「マークを見たら不審者が居づらくなるんじゃないでしょうか。私たちのやっていることで、住民の防犯意識が少しでも高まれば良いですね」と言う。
防犯の決め手は市民の意識
NPOで街頭犯罪防止の活動を展開している日本ガーディアン・エンジェルスの小田啓二理事長は言う。
「犯罪防止の決め手は市民の意識だ。天神で活動した時に感じたことは、通行人に、こんにちは、と挨拶をしても返す人が少ないことだ。挨拶は関心度のバロメーターになっている。つまり何か起こった時に何人が傍観するのか、何人が行動を起こすのか。他人のことも気にする人が増えていただきたい。挨拶返しの割合が高まれば、繁華街にいる人たちが互いに関心を持って犯罪が減り、安心して生活を楽しめるようになる。安心度の高まりは犯罪率を減らす。そして街の安全度が高まる」
夜間のゴミ収集車が 警察と協力し防犯活動中
ゴミの夜間収集を行っているのは、政令指定都市では福岡市だけである。市の勤労・生活安全課では、作業車が夜中に市内を回るだけでも防犯効果があると認めている。
加えて福岡市環境局では県警と協力し、収集業者に対して防犯対策を要請している。その内容は、ゴミ収集作業員が不審な事例を見つけた場合、事件など緊急を要することは110番へ、緊急でないようなら作業終了後に市役所の環境課へ連絡する。環境課が報告を受けたら県警へ連絡して対策を練るというものだ。
繁華街の安全を守るガーディアン・エンジェルス
白いTシャツと赤いベレー帽の一団が、福博の夜の繁華街をパトロールしている。日本ガーディアン・エンジェルス福岡支部の若者たちだ。
ガーディアン・エンジェルスは、1979年に13人の若者がニューヨークの地下鉄のパトロールを始めたのをきっかけに設立された。その後、ストリートでの暴行や犯罪の防止に貢献し、麻薬撲滅キャンペーンで全米に拡大された。現在世界11カ国、約5000人のメンバーが活動している。モットーは“Dare to Care”(見て見ぬふりをしない)。
日本では阪神淡路大震災をきっかけに、ニューヨーク市本部長を経験していた小田啓二氏が1995年5月東京支部を設立、翌年2月に国際本部から正式に支部として認定を受け、日本での活動を本格化した。
主な活動としては、安全パトロール、地域安全マップづくり、子ども安全セミナー、インターネット安全教室、落書き消し、護身術講習、講演、犯罪情報ボランティア・コール「ダイヤル」と多岐にわたる。
2003年9月に設立された福岡支部(渡口健支部長)では、今のところ天神地区を重点的に回り、街頭犯罪や非行の防止を目的に、通行人への声かけや歩道の自転車を脇に寄せたりするなど地道な活動をしている。危険な行動をしている人に頭ごなしに注意するのではなく、安全の意識を高めてもらうように気をつけて声をかけているという=写真。
また、独自のユニフォームで活動していること自体が防犯効果を挙げている。「私たちの活動時間は事前に警察へ連絡しますけど、活動時間中に起きた事件は0件だという報告を受けました。もっと多くの仲間と安全な街を作っていきたいと思ってます。だれでも参加できますのでお問い合わせ下さい」(渡口支部長)。(井上光成)
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※当ページの内容は、2005年2月20日発行の創刊3号に掲載されたものです。
