フォーラム福岡

パブリックアクセス誌フォーラム福岡

福岡で開催された国際知識経済都市会議

2010年7月31日発行の32号より

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『知識経済地域』(ナレッジ・リージョン)――。今年7月、福岡市が加入する『国際地域ベンチマーク協議会』(IRBC)の第3回年次総会として『国際知識経済都市会議』が開催された。活発な論議を重ねた国際会議での動向をレポートするとともに加盟地域の横顔を紹介する。

世界8地域の産学官関係者が福岡で会議

海外7地域に開催地・福岡を加えた、産学官のまちづくりのリーダーが一堂に会して開催した『国際知識経済都市会議(IRBC2010)』が7月7日から3日間の会期で、アクロス福岡、九州大学、大濠公園能楽堂などで開かれた。国際的な地域の連合体といえる『国際地域ベンチマーク協議会』にとって第3回年次総会となる本会議は、アジアで初めての開催でもある。


アクロス福岡で開幕した国際知識経済都市会議

国際知識経済都市会議の初日、一般市民も参加した公開プログラムとして基調報告をはじめ、基調講演、参加地域の代表者による地域リーダーズ・フォーラムを開催した。

冒頭の基調報告では、都市政策などのコンサルティングを手掛けるルイス&アソシニイツ社のマイケル・ルイス代表が、産学官に仲介機能を付加した新しい連携モデルを提案した。引き続いての基調講演では、元ソニーグループCEOの出井伸之・クオンタムリープ社長が、「コンパクトなナレッジ・コミュニティ(知識共同体)をつくるべきだ」と提唱するなど、参加者らの関心が高まった。

また、地域の代表者が参加しての地域リーダーズ・フォーラムでは、地域特性を生かした取り組みも紹介されて、率直な意見交換がなされた。

午後、九州大学箱崎キャンパスに会場を移しての討論では、産学官のうち大学に求められる変化や役割について語り合った。その後の対話セッションでは学生による箱崎キャンパス跡地利用案の提案もあり、海外からの参加者らは、強い関心を寄せていた。

国際地域ベンチマーク協議会とは何か

今回、福岡で開かれた国際知識経済都市会議の開催母体である国際地域ベンチマーク協議会(International Regions Benchmarking Consortium 略称IRBC) とは、シアトルが、『知識経済地域』(ナレッジ・リージョン)とみなす自治体に呼び掛けて誕生した国際的な地域の連合体だ。シアトルは従来、産学官による視察団を世界の地域に派遣。福岡市へも2004年9月と2007年5月に訪問した経緯があり、福岡市も含む世界10の都市・地域をメンバーに2008年6月、国際地域ベンチマーク協議会の第1回年次総会を開催した。

協議会に加盟するのは、シアトル(アメリカ)、バルセロナ(スペイン)、福岡(日本)、メルボルン(オーストラリア)、バンクーバー(カナダ)、ヘルシンキ(フィンランド)、ミュンヘン(ドイツ)、ストックホルム(スウェーデン)、大田(韓国)、ダブリン(アイルランド)の地域だ。今回の国際知識経済都市会議には、ダブリンとミュンヘンを除く8地域が参加した。

「類似した規模や産業構造の都市・地域が集まって、お互いに違った取り組みや状況を比較(ベンチマーク)して成功事例などを学び合うことで、各都市・地域の発展を目指す」ことを設立趣旨とする国際地域ベンチマーク協議会。特定のテーマに絞り込んだ戦略的な国際都市ネットワークづくりが活発化するなか、国際地域ベンチマーク協議会の活動や方向性には注目と関心が集まる。

大濠公園能楽堂を舞台に国際会議を開催


大濠公園能楽堂にとっては初めての国際会議の《舞台》となった

木々の緑、湖面を湛える水の恵みに心和む大濠公園は市民の憩いの場だ。その一角にたたずむ能楽堂が国際知識経済都市会議2日目の《舞台》となった。

日本の伝統的な舞台芸術のひとつである能は国の重要無形文化財であり、さらにユネスコ無形文化遺産の第1号に認定されるなど、歌舞伎と並んで国際的な知名度は高い。毎年100回を超える国際的な会議やセミナー、シンポジウムが開催される福岡市において能楽堂での国際会議は、初めての開催だ。

前日に引き続き、産学官それぞれの観点からのナレッジ・リージョン(知識経済地域)へのアプローチを試みた。特に2日目は、行政、企業それぞれの役割や機能についての分析や検討に加えて、産学官を通じての連携のあり方についても議論を重ねた。

「フクオカの将来像が見えない」、外国人ビジネスマンが語るホンネ


エダンズ グループ ジャパン トム ダコスタ取締役

一連のパネルディスカッションのなかでも異彩を放ったのは、福岡を拠点に世界的なネットワークで学術英論文の編集・校正サービスを提供するエダンズ グループ ジャパンのトム ダコスタ取締役による中小企業の視点にもとづいたプレゼンテーションだった。

福岡の魅力としてコスタ取締役は、充実した都市機能やインターネット環境、安価な賃料・人件費や生活費、恵まれた自然環境や食文化などを挙げる一方、外国企業への偏見や日常的な障害、さらに政策的な支援の無さなどを指摘。その上で「フクオカの将来像が見えない」「アジアの玄関口とは一体何か」「まちに何か貢献したくても都市の方向性が分からず、協力しようがない」との真摯な訴えに聴衆の多くは熱心に耳を傾けていた。

ナレッジ・リージョンをテーマに開催

今回、福岡で開催された国際知識経済都市会議では、「知識・技術・人材などの『ナレッジ』を集積する仕組みや魅力を持ち、さらに新しい『ナレッジ』を創出・創発することで、人材・資本・企業を一層呼び込む好循環を実現した地域」を指す『ナレッジ・リージョン』をテーマに開かれた。


会議の場では創造的な対話手法も導入された

このようなナレッジ・リージョンを実現していくのは地域で活動する企業、大学、行政――、いわゆる産学官による連携した取り組みが、不可欠との視点にもとづき、会議の討論プログラムを構成している。産学官における企業、大学、行政の機能やあり方について、産・学・官のそれぞれに力点を置いたパネルディスカッションで考えるとともに、産学官連携で成果を出す仕組みについても考察を試みた。話し合った内容はグラフィックレコーダーという手法で会場の大きな紙にリアルタイムで記録されていき、色鮮やかな思考アップが描き出された。

また、パネルディスカッションでの討議や質疑応答に止まらず、参加者が自由に意見交換や討論できる対話の場も多く設けた。特に全体の文脈を共有しながら進めていくホールシステムアプローチという創造的な対話手法を採用して、各人の問題意識にもとづいて深く掘り下げていく構成になっていたのも今回、特徴のひとつといえる。

開催に向けて産学官で実行委員会等を組織

国際知識経済都市会議の開催に向けて組織した実行委員会は、福岡市、九州大学に加えて、糸島市や地元企業など、産学官による連携組織だった。

地元各界のリーダーらが名を連ねる実行委員会の下には、会議を企画・運営する企画委員会を産学官のメンバーで組織。さらに具体的な内容に関しては、外部の専門家なども加わったワーキンググループを機動的に発足させた。一連のプロセスで培われたネットワークや知識・知恵、体験・実績、そして成果などは、将来への《財産》になる可能性を秘めている。

また、会議事務局としての運営拠点機能に加えて、関係者らの学びと交流の場としてイムズ8階に『HIRAKE-BA〈ひらけば〉』というオープンスペースを設けた。HIRAKE-BAでは、産学官、そして市民向けのナレッジ・リージョンへの意識を醸成する場として、会議に向けた打ち合わせに加えて、セミナーや勉強会、座談会などが、合計39回も開催されるなど、いろいろな《実験》を試みた。これらの実験の成果として、今後の実用化に向けた取り組みが注目される。

今年7月、福岡市で開かれた国際知識経済都市会議の開催母体である国際地域ベンチマーク協議会に加盟する海外9地域および中核都市の横顔を紹介する。

今後30年で人口が1・5倍――シアトル

ボーイング、マイクロソフト、スターバックス、アマゾン、コストコ……。これら世界的に著名な大企業の生誕地として知られるシアトルは市内人口で58万人、地域人口で352万人の規模である。

長年、『世界な競争力を持つ地域』へ視察団を派遣して調査・研究を重ねたシアトルは自らの『経済振興戦略』(2005年〜2010年)の策定ではビジネス環境や産業構造の分析から手掛けた。この調査を踏まえ、71市町村からなる広域協議会が300におよぶ産学官の組織を束ねて戦略や計画をまとめた。

「いい仕事と高い収入」「ビジネスで創出する雇用」「活気あふれる都市・繁栄する地域社会」など、6つのビジョンを謳う経済振興戦略では、航空やIT、貿易・物流など7つの成長産業に取り組み、その結果、当初目標とした29万人の雇用創出に対して10万人の上乗せに成功した。一連の取り組みで国際ベンチマーク協議会も発足。現在、2040年を目標年度とする『成長管理計画』で地域人口は2000年から170万人増えて1・5倍の499万人、雇用も122万人増えて1・6倍の316万人を見込む。

多文化・産学連携に活路――ヘルシンキ

フィンランドの首都であるヘルシンキは、『バルト海の乙女』とも呼ばれる港湾都市だ。これまでヨーロッパ極北の辺地と見なされてきたヘルシンキは、一転してアジアへ最も近い都市への意識転換を図る。

地域間競争力の向上や国際的な地域連携に向けてヘルシンキは、多文化重視の国際戦略を策定。ヘルシンキでは外国籍・外国生まれが増加中で、留学生も増加の一途をたどる。ヘルシンキは2040年までの30年間で、地域人口が40万人増の170万人、市内人口で10万人増の67・5万人になると予測する。

一方、地域の開発・振興において、産学官での連携を重視しており、地域開発会社も産学官で設立した。また、ヘルシンキ地域で設立した国際プロモーション会社の業務は、民間の専門家に委託する。また、リビング・ラボという革新的な利用者主導の技術・製品開発にも産学官で取り組んでいる。さらに今年1月ヘルシンキ市内の3つの公立大学を統合して誕生したアルト大学は、革新的な教育機関として産業界、官界、そして市民からの基金で運営される。

留学生獲得を輸出産業とみなす――メルボルン

「国際競争が激化する今日、メルボルンが世界的な地位を維持・持続させるには大学との強い連携が必要だ」とのメルボルン市長の考えで、メルボルン地域にキャンパスを持つ8大学で共同研究が始まった。

研究成果の具体化に向けてメルボルン市や地域協議会、8大学の共同出資で《知識首都》オフィスを市役所内部に設立した。『オーストラリアの知識首都』『世界的な大学都市』としてメルボルンの世界的な認知に向けて、《知識首都》オフィスが活動する。

一方、「高等教育を産業として開発する必要がある」との政府見解も踏まえ、メルボルンでは「輸出産業としての留学生獲得」を重点施策として掲げる。

大学をひとつの産業と見なした場合、メルボルン地域にキャンパスを持つ8大学の収入は40億豪ドル(3800億円※)超となる。また、高等教育産業のメルボルン地域での雇用は、2万2500人以上だ。さらに留学生獲得を外貨獲得に向けた輸出産業とみなした場合、その産業規模は実に20億豪ドル(1900億円)超にも達する。メルボルンでは高等教育産業という、新たな都市戦略を打ち出す。

※データは2007年5月発表レポートによる。為替レートは1豪ドル=96円(2008年1月時点)

工業地区を先端知識エリアへ再生――バルセロナ

ガウディ、ピカソ、ミロ……。世界一流の芸術家の建築や絵画、彫刻などが点在するバルセロナは、文化・芸術の香り高いまちだ。スペイン東北部・カタルーニャ州の州都・バルセロナは首都マドリードに次ぐ第2の都市で、かつては一大工業地帯だった。

オリンピック開催を契機としてバルセロナでは、湾岸部で荒廃していた工業地区の再開発に乗り出す。「世界に通用する知識集約産業の開発・提供」をテーマに産学官連携で知識集約産業や研究所、文化施設などを集積、さらに高級住宅街も形成するなど、複合的な先端知識エリアへと大きく生まれ変わる。

世界でも最も住みやすい都市――ミュンヘン

世界の主要都市で発売するグローバルなライフスタイル誌『MONOCLE』で恒例の「世界でも最も住みやすい都市TOP25」2010年版でミュンヘンは、3年振り2回目の世界一に返り咲いた。

ドイツ南部のバイエルン州の州都であるミュンヘンは、国内第3の都市であり、古来、ドイツとイタリアを結ぶ交通の要衝として栄え、ヨーロッパ文化の中心地のひとつだ。

ドイツを代表するオーケストラのひとつであるバイエルン放送交響楽団が本拠地として活動するミュンヘンには、世界でも有数の自動車メーカーとして知られるBMWも本社を構える。

アジア系移民が多い多民族都市――バンクーバー

今年2月、世界82の国・地域が参加した冬季オリンピックを開催したバンクーバーは太平洋に臨み、天然鉱物資源や工業製品などを輸出する港湾都市だ。

長年、政府の移民政策の受け皿として恩恵を受けてきたバンクーバー地域には、世界各地からの移民が数多く暮らす。なかでも40万人の中国人や8万人のフィリピン人などのアジア系移民が多く、地域人口の実に3分の1を占める。多民族都市でもあるバンクーバーは、多言語・多文化のコミュニケーション拠点として公共図書館を活用している。ローマ期の円形闘技場を思わせるバンクーバー図書館では多言語での情報提供やイベント開催などの試みがなされる。

韓国の科学学術都市――大田

韓国のほぼ中央部に位置する大田は、日本統治下で交通の要衝として発展してきた。その後、1973年に研究学園団地として指定され、韓国でもトップクラスの理系大学の創設や、1993年には大田国際博覧会も開催されるなど、韓国を代表する科学学術都市のひとつだ。

現在、韓国で5番目の都市である大田には、韓国の首都機能の一部移転として特許庁と統計庁が移っている。また、韓国鉄道公社の本社も置く。大田はシアトルとは姉妹都市の関係にあり、その縁もあって国際地域ベンチマーク協議会への加盟を果した。

IT大学で産学連携――ストックホルム

スウェーデンの首都であるストックホルムは、毎年12月に恒例のノーベル賞の授賞式で広く知られる。ストックホルムは、バルト海に達するメーラレン湖に浮かぶ14の島々に分散しており、『水の都』『北欧のヴェネツィア』とも称される。

ストックホルム北部には『北欧のシリコンバレー』との異名を持つシスタ・サイエンスパークがあり、世界的な通信機器メーカー・エリクソンも本社を構える。同パークには王立科学技術大学とストックホルム大学が共同運営するIT大学も立地する。エリクソンは産学で近距離デジタル無線通信規格を開発した。

多民族・多文化地域――ダブリン

アイルランドの首都・ダブリンは、国内の政治・経済・文化の中心地だ。長年、イギリスの植民地下だったアイルランドは1980年代まで伝統的に貧しい農業国家で、北米大陸への移民輸出大国だった。

EU加盟後、援助金で教育制度や公共設備を整備、低い法人税と安い人件費で多国籍企業の誘致に成功、世界で最もグローバルな国のひとつになる。今日では、中国やアフリカ、東欧からの移民が増大しており、ダブリンは人口の半分以上が外国生まれで、多民族で多文化な地域になっている。(近藤 益弘)

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※当ページの内容は、2010年7月31日発行の32号に掲載されたものです。

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