今後のカギを握る半導体と水素への九州の取り組み
2007年3月28日発行の13号より
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エレクトロニクス化が進む自動車産業と、シリコンアイランドとも呼ばれる九州が融合へと向かう道を見いだし、次世代車を左右する水素が持つ九州のポテンシャルを探る。
自動車の性能はエレクトロニクスで決まる
1980年頃まで、自動車に搭載される電子部品はステレオ、エアコン、バッテリーなど補助的な機能だった。それが2005年になると、駆動系制御、ボディ制御、走行安全制御、ITS(高度道路交通システム)などの機能を持ち、自動車部品全体で電子部品が占める割合も、80年まではおよそ3%、05年には約20%、自動走行や衝突検知など本質的機能を保持するようになる15年以降は全体の40%を占めると予測されている。現在でもハイブリットカーになると、比率は50%近くになる。
中でも、急速に進んだ電子制御を司るECU(電子制御装置)は搭載率が急増し、要求される技術の高度化、機能の拡大によって複雑化している。それに伴いシステムLSI(大規模集積回路)の需要、その基本ソフトウエアである組み込みソフトウエアの開発が急務となっている。将来の自動車の性能はエレクトロニクスで決まると言われている。それを支えるのが半導体産業である。
「福岡県に集積がある自動車産業と半導体産業の連携は、これから大きく期待される産業分野です。九州はかつてシリコンアイランドと呼ばれながら、頭脳なきシリコンアイランドと比喩された時代もありました。しかし、産官学によるシリコンシーベルト福岡プロジェクトに取り組み、アジア各都市とはビジネス的には連携し、協力関係も生まれ、LSIの設計開発の拠点化が進んで来ました」と、福岡県商工部新産業プロジェクト室の神谷昌秀室長は話す。
九州の集積回路製造業を含む関連企業は、現在およそ550社に達し、製品出荷額1兆円を超えて、九州は国内のシェア(生産額ベース)4分の1を占める。九州大学や九州工業大学など知的集積も合わせ持つ福岡県では、産官学による取り組みを進める中で、01年、「シリコンシーベベルト福岡プロジェクト」をスタートさせた。シリコンシーベルト地域(韓国、九州、上海、台湾、香港、シンガポール等を結ぶ半導体産業のベルト地帯)におけるシステムLSI設計開発拠点の構築を目指して、福岡ソフトリサーチパーク(ももち地区)、北九州学術研究都市、飯塚地区で拠点化が進んでいる。04年には、その中核施設となる福岡システムLSI総合開発センター(福岡市早良区)を開設した。
●福岡システムLSI総合開発センター(九州大学連携型起業家育成施設)
システムLSIに特化した全国初の施設。センター内には、安価で利用できるLSI設計に必要なソフトウエアを備えた共用設計ラボと、試作したLSIチップの性能を検証するための検証ラボがある。インキュベーションルームはシステムLSI設計関連ベンチャー企業を中心に、およそ70室は満室になった。また、福岡システムLSIカレッジでは、大学教授や企業の技術者など最先端の講師陣による独自の実学本位のカリキュラムで、06年度までの6年間で延べ約3000人の技術者を養成し、受講生は県外や国外からも訪れる。会議室、商談室、交流サロンでは情報が交換され、ネットワークが生まれ、企業間を結ぶコーディネーターもいるという環境だ。
同センターには、福岡知的クラスター研究所、九州大学システムLSI研究センターが開設されている。知的クラスター研究所は、組み込みソフトウエア設計ツールで国内トップシェアのキャッツ(横浜市、上島康男社長)などと共同で、昨年、携帯電話などに組み込むソフトの設計ミスを自動的に探知するソフトを開発した。キャッツは今年、センター内に「組み込みソフトウエア研究所」を開設することを決め、九州大学などと連携して自動車などの組み込みソフトウエア関連の開発を進める。自動車半導体の研究開発が加速され、自動車産業の頭脳拠点化につながると、地元関係者は期待を寄せている。
「知的クラスター研究所では、自動車用半導体の開発と組み込みソフトウエアの開発を大きな柱として、今後のプロジェクトを進めていく予定です。全国でも、ここ数年、福岡県ほど産業の集積が進んできているところはないと思います。組み込みソフトウエア関連企業の福岡進出予定も相次いでおり、流れが来ています。カレッジでは07年中に、自動車用組み込みソフトウエアをカリキュラムとして開講していく予定ですが、その流れを積極的に加速して行こうと考えています」と、神谷室長は話す。
カーエレクトロニクスセンター設立へ
福岡県内のシステムLSI設計関連の企業集積の推移を表したのが、表 である。所在地別の内訳を見ると、福岡市と北九州市に集中しているのがわかる。
北九州市は、先端的な新産業の創造に向け、その頭脳部分を担う産学連携による中核的な知的基盤として、01年、北九州学術研究都市(北九州市若松区)をスタートさせて、産学連携による取り組みを続けてきた。北九州市産業学術振興局新産業部産学連携課飯野晋主幹は、次のように話す。
「自動車と半導体分野における生産拠点の集積化の動き、自動車部品・システムの電子化への動き、それらを支える人材の育成、研究開発を行う学術研究都市への大学の集積化の動き、この3つの動きが融合して目指した方向が、『カーエレクトロニクス拠点構想』でした。05年から、自動車・サプライヤー・半導体の各メーカー、地場企業、大学、公的機関が集まって検討委員会を組織。そこで、それぞれ本音の部分での議論を重ねてきて、今年7月、学研都市内に推進機関・中核施設として、カーエレクトロニクスセンターをスタートさせることになりました」
●カーエレクトロニクス拠点構想(北九州市)
「センターでは、検討委員会を活用して産業界のニーズを的確にとらえ、学研都市の3大学等のポテンシャルを活かしながら、相互にメリットがある本格的な産学連携による人材育成と研究開発を両輪として推進していきます。育てる人材は、専門学校や工業高校から大学・大学院、企業の中堅技術者、地場企業のエンジニアまでを想定しておりますが、特に焦点を当てているのが、高度化・複雑化するシステムに対応するための組込みシステム。座学ばかりでなく、実践的な内容の授業や企業でのインターンシップなども取り入れたカリキュラムをつくっていきます」と、飯野主幹は話す。
北九州市は、現在のカーアイランドの先にある次世代のカーエレクトロニクス拠点を見据えている。エレクトロニクス化が進んで、自動車技術が多様化・複雑化していく中で、必要となる人材・技術がここで生まれていく、と飯野主幹は言う。次世代車の知識だけでなく、それを実現するために必要となる実践的な能力と、プロジェクトを推進するためのプロジェクトマネジメントスキルを持った人材を生み出していくことを目指している。
福岡県、北九州市がともに重点を置く、組み込みソフトウエアは、搭載する自動車や携帯電話などの多様な高機能化が加速する中で、技術者不足の深刻化が進んでいる分野だ。福岡県システムLSI設計開発拠点推進会議は、4月に組み込みソフトウエア委員会を設置し、技術者養成に乗り出すことを明らかにした。組み込みソフトウエアをシステムLSIと並ぶ福岡県の重要産業と位置づける考えで、エレクトロニクス化が進む自動車にとっても、取り組みが九州自動車産業の育成につながると期待されている。
次世代燃料電池車へ水素戦略
エレクトロニクス化とともに、自動車産業に求められているのは、代替燃料など地球温暖化への対策である。次世代車として開発・実用化が進められている燃料電池車は、すでに官公庁などにリース販売されており、今年3月には一般乗客を乗せる燃料電池ハイヤーも登場した。燃料電池車は、車載燃料電池で起こした水素と酸素の化学反応から得た電気エネルギーで、モーターを駆動させる。水素の供給で電気が取り出せ、水素は再び酸素と結合して水になって二酸化炭素などを排出しないことが大きな利点だ。
福岡県では04年、産官学による「福岡水素エネルギー戦略会議」が設立された。その中核を担う九州大学では、07年に水素材料先端科学研究センターが新設されるが、同戦略会議のこれからの主な研究活動の拠点、同時に世界最大規模の水素材量研究拠点となる。また、伊都キャンパス(福岡市西区)を「水素キャンパス」として、水素利用社会のモデルと位置づけている。同戦略会議では、九州大学の知的資源、九大キャンパス等における実証フィールド、製鉄・化学工場など大量の副生水素を発生する企業の集積、産業化を実現するための多様な製造業の集積を、福岡のポテンシャルとしてあげている。
燃料電池の実用化は、定置型の家庭用に比べ、さまざまな環境下で車載される自動車の方がリスクが大きい。供給する水素をつめた超高圧タンクの開発や圧縮技術、マイナス数十℃の環境での始動・走行、事故時の安全性の確保、水素利用システムに必要とされる約1万点に及ぶ部品。さらに、水素製造に化石燃料を用いた際に発生する二酸化炭素の問題や、水素ステーション建設などのインフラ整備、またコスト面でも、数百万円の家庭用に対して、燃料電池車は1台およそ3億円程度と言われている。
しかし、地球温暖化や環境破壊、いずれ枯渇する化石燃料など、逼迫した問題が突きつけられている。九州大学を中心とする福岡の高いポテンシャルが、新たなクリーンエネルギーを自動車に、社会へと送り出すことを期待したい。(遠山香澄)
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※当ページの内容は、2007年3月28日発行の13号に掲載されたものです。



