九州の実力、九州発の車づくりを目指して
居城克治・福岡大学商学部教授に聞く
2007年3月28日発行の13号より
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自動車メーカー大手3社が集積する北部九州では、昨年2006年、目標としていた100万台生産が達成されたとして、麻生渡福岡県知事は新たに「150万台構想」を打ち出した。自動車産業における九州の実力、実態はどうなのか、福岡大学商学部教授・居城克治さんに話を聞いた。
九州の自動車産業の現実
いしろ・かつじ
1948年、神奈川県生まれ。中央大学商学部卒。71年、旧通産省機械情報産業局関連のシンクタンク(財)機械振興協会経済研究所に入所。95年に福岡大学へ。研究課題は自動車産業の国際戦略。主な著書に「台湾における技術革新の構造」(九州大学出版会)などがある。中小企業学会、経営学会、産業学会に所属。
私が福岡大学に来た10年ほど前というのは、福岡ではちょうどトヨタ自動車が進出して来た頃です。日産・ホンダにトヨタと出揃って、第2次自動車産業ブームと言われていた時期で、九州通産局が「自動車産業が集積しアジアと連携が始まるのではないか」と、プロジェクトを立ち上げた。関東で車関係を追いかけていた私もプロジェクトに参加したのですが、本社地区で見る見方と地方の一生産集積地で見る見方とに、ずい分ズレを感じました。
それは何故かと言うと、東京や中京地区には、本社機能・開発機能・調達機能、工場、それにつながる部品メーカー、中小企業などが集積し、本社を頂点とする大きなピラミッドをつくって、それがどっちの方向を向いていくのかということを研究者やメーカー、役所は考えている。ところが、福岡・九州の人たちは、こういうプロジェクトを立ち上げるとき、必ず「アジア」という副題をつける。その時のテーマも「九州自動車産業とアジア」で違和感を覚えた。
メーカー側も同じ意見で、「九州工場も所詮、枝葉の先。中国やアセアンなどにある工場も同じで、枝葉が独自で動くことはあり得ない。九州とアジアの自動車産業が連携してお互いに発展しましょうと、言いがちだが、もっと現実を見るべきだ。基本的に言えば、どこの生産拠点も車をつくる役割を担っているだけで、きちんと車をつくることにまず注力すべきだ」と言われた。現実を直視して物事を見ておかなければいけない。九州自動車産業が名古屋地区と肩を並べたり、アジアのリーダーになるというような夢を描いてもしかたがない、ということだったんですね。
それから10年近くたって、九州自動車産業の実態を明らかにしようというテーマを、九州経産局がプロジェクトとして立ち上げた。その時に、「アドバルーン的なプロジェクトはもう止めましょう、逆に九州自動車産業の実力はどこまで上がってきているのか、きちんと車をつくり上げることが出来ているのか実証しましょう。1台の車に3万〜4万点必要とされる自動車部品のうち、九州でどの程度生産することが出来るようになってきているのか、といった詳細な実態から把握していかないと、九州の実態は見えてこないのではないか」と。
この調査から得られた内容をまとめると、自動車生産台数が100万、150万台と言いながら、地元九州での部品調達率が51%という数字が示すように、産業クラスターとして形成されるべき企業・産業集積ピラミッドが未完成な点、肝心な自動車部品は本社地区からきて、九州では組み立てるだけという構図、これを九州の実力だと見なさなければいけない。数字上は、生産台数はこれからも増えていくでしょうが、こうした課題が残っているという現状を前提に、「150万台」という話をしていかなければならないと思います。
地元企業の周回遅れをどう取り戻すか
昨年の九州の自動車生産台数は、日産自動車九州工場(福岡県苅田町)、トヨタ自動車九州宮田工場(宮若市)、ダイハツ九州大分工場(中津市)の3社で、100万台に達したと言えます。
「150万台構想」を打ち出した自動車100万台新戦略委員会は一昨年にスタートしたのですが、発足当初は、自動車・部品メーカーと地元企業の代表との間で現状認識の点で食い違いが多く、共通の発展方向性を見出すのに苦労しました。メーカー側は「九州を発展させるためにもっと車をつくるから九州の企業もぜひ協力してくれ、門戸は開いている」というスタンス。ところが、地場の企業側の意見は、「買ってくれるのはありがたいがレベルが高すぎる。多くの九州地場企業の代表的な意見を集約すると、求められる品質・コスト・納期をクリアするのはなかなかむずかしい、もう少し何とかならないか」というものでした。
多くの地元企業の実力は、客観的に見て周回遅れが否めない。世界で1、2位にあるトヨタをはじめ、世界のトップ10に日産、ホンダと入る日本の自動車は、世界的な競争力を持っている。世界で戦っているメーカーが周回遅れの企業のレベルに合わせることは絶対にない。合わせれば、それは世界競争から落ちていくことを意味する。「関東・中部ではできていることだから、多少時間はかかっても、がんばってレベルを上げていかなければならない」。最終的にはそういう方向で、この委員会を進めていこうということになり、生産台数目標150万台、地場調達率目標70%という提言に収斂していったのです。
地元企業が周回遅れになってしまったのは、日本工業の黎明期を支えた鉄、造船、石炭など九州の産業が、エネルギー政策転換や石油危機などによって競争力を失い、この四半世紀の間、地元企業を引っ張り、教えるリードインダストリー不在の時代が続いたからです。今、世界でどんなことが求められ、どういうことをしないと生きていけないかということを、徹底的に叩き込んでくれるトップの企業がいなかった。もちろん地域経済はそれだけで成り立つものではありませんが、四半世紀の遅れを取り戻す時期は必要であり、今はその勉強の時ではないかと思います。
自動車産業は成熟産業であり、多くは既存技術で対応できます。しかし、国際競争に勝ち残るために求められる品質・コスト・納期レベルは非常に高い。自動車に係っていくためには、これまで未経験な桁外れの量をつくり続け、これをジャストインタイムで納め、求められる品質はPPM管理と言い、100万個つくって数個の不良品というレベルが求められる。そして、コストダウン要求。普通のレベルの中小企業にとっては非常に高いハードルです。しかも、本社地区には自動車メーカーを頂点に部品メーカー、さらに2次・3次の中小企業群がピラミッド型で結束を固めており、九州の企業が本社地区に行き、営業攻勢をかけても、なかなか参入しづらい世界が出来上がっています。
そこまでやって参入すべき産業なのか、新規投資を行って回収し、そして儲かるのか。この点を考えると8〜9割の地元企業は腰が引けてしまう。しかし、既に参入し、しっかり儲けている地元企業も数多く存在している。いつ勉強して、いつ入っていくかということです。
| 九州における自動車産業の歩み100年史 | |
|---|---|
| 1908年頃 | 炭鉱王の伊藤伝右衛門が福岡市内でフォード車を走らせる |
| 1916年 | 矢野倖一(矢野特殊自動車創業者)が現存する最古の国産車「アロー(矢)号」を完成 |
| 1933年6月 | 鮎川義介が北九州で創業した戸畑鋳物(現日立金属)、ダット自動車を吸収 |
| 同年12月 | 戸畑鋳物が日本産業との共同出資で日産自動車の前身となる自動車製造を設立 |
| 1975年4月 | 日産自動車九州工場が福岡県苅田町に完成、エンジン生産を開始 |
| 1976年12月 | 日産自動車九州工場が車両生産を開始 |
| 1991年2月 | 福岡県宮田町(現宮若市)にトヨタ自動車九州が設立 |
| 1992年5月 | 日産自動車九州工場内の第2工場が完成 |
| 同年12月 | トヨタ自動車九州の宮田工場が車両生産を開始 |
| 2003年2月 | 北部九州自動車100万台生産拠点推進会議が発足 |
| 2004年3月 | トヨタ自動車九州の車両生産累計で200万台突破 |
| 同年11月 | ダイハツ車体(現ダイハツ九州)が群馬県前橋市から大分県中津市へ全面移転 |
| 同年12月 | 日産自動車九州工場の車両生産累計で1000万台突破 |
| 2005年9月 | トヨタ自動車九州の宮田第2工場が完成、年産能力43万台へ |
| 同年12月 | トヨタ自動車九州が福岡県苅田町に建設していたエンジン工場、完成 |
| 2006年6月 | ダイハツ車体がダイハツ九州に社名変更 |
| 同年8月 | 北部九州自動車100万台生産拠点推進会議が北部九州自動車150万台生産拠点推進会議に改組 |
人材を育て、九州発の頭脳をつくる
かつて九州の半導体産業が言われたように、自動車産業も頭脳なき繁栄なのか。トヨタ九州では今年500台限定ですが、イタリアのデザインをベースにSUV車のハリアーの外装を改良したハリアーザガートを、九州発の自動車として生産している。九州における頭脳部分(開発機能)の将来の可能性を信じています。自動車メーカー本社としても、ローカルでできることは自立してやってください、という方向性を打ち出している。可能性はありますよ。人材を育成し、経験を積んでいけば。
現在、関東・中京地区では人手不足が顕著で、しかし、九州では若年労働力の雇用がまだ見込める。今、日本自動車産業では南に向かって風が吹いている。この流れを強固なものにするためには、まず人材供給力の強化と人材育成です。小学生、中学生から自動車産業に興味を持たせる仕掛けを産学官でつくり上げていかなければ。
トヨタ九州は1兆円近い売り上げを達成しようとしている。九州トップの九州電力が約2兆円の売上高。出先で1兆円を記録するトヨタ九州を九州の産業界はどう位置づけていくのか。世界の中で生きる自動車を取り込んでステップアップするのか。実際、自動車が150万台生産されれば、インパクトはありますよ。今まで九州は1割経済と言われてきましたが、自動車生産シェアは20%になる。全国、全世界と戦うという気概を持って頑張ってほしいですね。
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※当ページの内容は、2007年3月28日発行の13号に掲載されたものです。