フォーラム福岡

新幹線がもたらす地域新時代新幹線写真

駅ビルの役割と駅を中心としたまちづくりの可能性

2008年3月29日発行の19号より

フォーラム福岡19号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡19号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

大規模な駅ビルの開発が進んでいる。都市機能と魅力を満載し高い評価を得る駅ビルがある一方で、開業した駅ビルからテナントが撤退し、駅前市街地の空洞化が大きな社会問題になっている。駅ビルが果たす役割、鉄道や駅がまちづくりやライフスタイルに与える可能性について考える。

進む駅ビル開発

2011年開業へ向けて、新博多駅ビルの建築が急ピッチで進められている。出店テナントや規模、特徴などが次々に公表され、博多駅周辺や天神地区を含めたまちづくりも視野に入れ、九州新幹線鹿児島ルート全線開業とともに新駅ビルへの期待が次第に高まっている。

新博多駅ビルに限らず、全国的に鉄道の駅ビル開発が進められてきている。そこで強烈なインパクトを示したのが、JR西日本が開業した新京都駅ビルだ。1997年、百貨店やホテル、劇場、専門店街などが入る延床面積約24万u、国内最大規模のターミナルビルが古都に出現した。その後、2000年にJR東海がJRセントラルタワーズ(名古屋駅/約42万u)、03年にはJR北海道がJRタワー(札幌駅/約28万u)など大規模な駅ビルの開業が続いた。

開業から10年がたった京都駅ビルの06年度の3事業(京都駅ビル開発、ジェイアール西日本伊勢丹、ホテルグランヴィア京都)の売上高は871億円。初めて通年営業した98年度に比べ売上高で4割増、来場者数も11%増の約3800万人に上った。当初、賛否両論あった京都駅ビル巨大開発プロジェクトだったが、観光客や地元の支持を得て確実に実績を上げ、駅ビルのモデルとして今も、多くの見学者が訪れる。JR西日本では新博多駅ビルと同じ11年開業に向けて、大阪駅新北ビル(約21万u)の建設、増築する駅南側のアクティ大阪ビルと新北ビル間のホーム上のドーム設置などを進めている。駅ビルは、一つのまちとも呼べる大空間に、多様な都市機能を提供し、多彩な過ごし方を提案する。

こうした大規模な駅ビル開発とともに、首都圏では駅構内「駅ナカ」での商業展開や駅周辺の開発、私鉄や地方都市でも駅ビルの開発や改修、周辺開発が活発に行われている。何が駅ビル開発を駆り立てているのだろうか。

「駅ビル」の誕生

新博多駅ビルの核テナントになる阪急百貨店は、1929年、現在の阪急電鉄が大阪・梅田駅に誕生させた、地上8階地下1階、延床面積1万uを超える世界で初めてのターミナルデパートという歴史を持つ。百貨店という商業施設を備えた「駅ビル」のはしりとも言える存在である。呉服店を前身とする多くの百貨店は、鉄道駅に関係なく店を構えていたが、その後、鉄道利用と百貨店集客という大きな利便性と相乗効果を持つ駅+百貨店事業は、多くの私鉄で展開されていくことになった。

一方、国鉄(現JR)に「駅ビル」に相当するものが登場するのは、1950年に改修された豊橋駅である。戦災を受けた駅舎の再建が本格化する中、駅舎をまちと復興のシンボルにという要請が起こり、豊橋市では行政と民間が費用の一部を負担した。その結果、豊橋駅構内の一部を民間が使用できることになり、完成した駅舎の2階部分で食堂や理髪店などが開業された。以後、池袋駅西口や尾張一宮駅など、駅舎建築の費用を国鉄以外で負担し、駅舎の一部を使用して店舗営業などを行う「民衆駅」と呼ばれる駅が次々に生まれていった。

博多駅の前駅ビルも、九州電力などの出資による博多ステーションビルとして、1963年に誕生した西日本一の大規模民衆駅だった。71年、「国鉄法施行令」改正で国鉄による駅ビルの直接経営が可能になり、やがて分割民営化されたJR各社による駅ビル開発が活発化することになる。

駅ビルはもともと集客に関する潜在能力が高い。毎日必ず鉄道利用者が大勢集まる場所であり、その他の公共交通機関等のアクセス条件も良く、活用できる空間も多い。デベロッパーや商業者に限らず、まちづくりなどに取り組む行政、さらに利用者が減少傾向にある鉄道事業者にとっても利用者の増大や鉄道以外の収益が期待できる駅ビルは、大きな可能性を持った存在と言える。

アミュプラザ〜JR九州の場合


アミュプラザ鹿児島:AMU広場でのイベント風景

JR九州は、2000年にアミュプラザ長崎(約5万7000u)、九州新幹線鹿児島ルートが一部開業した04年に鹿児島中央駅にアミュプラザ鹿児島(約5万8500u)を開業させた。アミュプラザ長崎では6〜10階にホテルが入居、鹿児島は6階の観覧車をランドマークとして、ファッション・雑貨、飲食店をはじめ、カルチャー、シネマコンプレックスなど、地域初となる店舗や施設を備える。

「長崎の場合、鉄道高架化や区画整理といった将来の駅周辺整備構想と整合を図った上で何ができるかと、行政と話し合いをすることから始めました。出店に関しては、長崎駅、鹿児島中央駅ともいわゆる“繁華街”から少し離れたところに立地しているため、物販や飲食だけではなく、集客の目玉となるエンターテインメントやカルチャー関係の店舗をできるだけ集め、JRはもちろん、バス、路面電車、マイカー、どの交通機関からもアプローチしやすい動線とスペースを確保しました。立地上、駅ビルは毎日多くの通勤・通学のお客様のご利用もあるので、飽きられない施設であり続けることが必要です。そのためにも、定期的な店舗のリニューアルも必要ですし、広場では大小のイベントを開き、併設の地元FM局のサテライトスタジオとも連動した情報を発信していくなど、話題性や新しい楽しみ方を仕かけ、提供していくことが重要だと考えます」と、アミュプラザ長崎、及び鹿児島の開発について、JR九州事業開発本部の担当者は話す。


図-1
アミュプラザ開業前後の利用者と実績の推移

アミュプラザ長崎をより進化させたというアミュプラザ鹿児島は、地元初の大規模複合商業施設ということもあって、市内はもとより県内、宮崎県からの来館者も含めた広い商圏を持つ。長崎駅、鹿児島中央駅ともに、アミュプラザ開業前年に比べると、1日の乗降人員が毎年漸増し、アミュプラザの営業実績もほぼ比例して売上高、入館者数を順調に伸ばしている(図-1参照)。

潜在的な需要を掘り起こす

「駅ビルには、駅ごとの事情があります。人の流れ、まちの構造など、現地の事情を、まず知らなければなりません」と言うのは、日本政策投資銀行九州支店企画調査課長の武田浩さんだ。

仕事柄、新たに開業した全国の多くの駅ビルを見て回った武田さんは、駅ビルには大きくレベル分けができるという。@東京、大阪、札幌、名古屋、京都、博多駅――交通結節点であり、人の流れがある A首都圏の駅――通勤客など人通りが多いデパ地下の駅版 Bそれ以外の駅。この3つに類型される。

「旅行者にとって、駅ビルは通過点に過ぎない。来た時に観光案内所に寄り、帰りに土産物を買って、時間があれば食事をする。一方、例えばアミュプラザの場合、長崎では土産物などが並んだ奥にスーパーがある。これは旅行者ではなく、地元に住んでいる人に向けたものです。旅行者と地元、両方の需要を満たしたうまいつくりだと思います。駅ビルの機能は、利用者の潜在的な需要をどう掘り起こし、それをどう形にしていくかという工夫とのセットで考えていかなければなりません。他に目的地がある観光・ビジネス客と、駅ビルを目的地とする地元住民、それぞれの目的に一致した機能とサービスを提供していくのです」


図-2 全国の新幹線10駅の調査結果

武田さんが2004年に、熊本県のまちづくりシンポジウムで発表した資料「『熊本駅とまちづくり』〜全国の新幹線駅の現状を中心に〜」がある。その中で、全国の新幹線駅の中から熊本市の規模やまちの環境に近い、宇都宮駅、浜松駅、広島駅など10駅の調査結果をまとめたのが、図-2である。これから九州新幹線鹿児島ルート、そして長崎ルートの開業へ向けて、駅や駅ビルの改修や開発が行われることになるが、旅行者、地元住民、まちづくりにとって、その一つひとつが、それぞれの地域の事情や環境を活かし体現された個性的な駅ビル、九州を表現し発信していくような駅として、数多く出現することが望まれる。

また、博多駅について武田さんは、「山陽新幹線、前駅ビル、駅前のオフィス街の集積などの実績があり、駅ビルとしてのポテンシャルはすでにあります。これからは周囲と連携したにぎわいづくり、それぞれのハコの中で終わることなく、天神やキャナルシティ博多なども含めた広域的なまちづくり、広場でのイベントなど何度でも来たくなるような駅ビルづくりが必要だ」と言う。

まちづくりと駅、鉄道が果たす役割

アミュプラザと言えば、JR九州が最初に手がけたのは、1998年開業の小倉駅アミュプラザ(7万6300u)。新幹線、在来線、モノレールの駅、駅前広場のバスターミナルとして、都市景観についての協議を北九州市と重ねながら開発された、上階にホテルを持つ駅ビルである。開業10周年を迎えて大規模な改装工事と店舗のリニューアルを行い、3月にグランドオープンした。07年3月期の売上高は約120億円だが、ここ数年の業績は横ばいだという。JR小倉駅周辺では昨年1月にラフォーレ原宿・小倉が閉鎖、同じく12月には小倉伊勢丹が撤退を発表するなど、中心市街地の空洞化が進み、郊外型のショッピングセンターとの競争も激化しているという厳しい現状にある。


図-3
排出原単位の推移 出所)国土交通省

20世紀初頭、都市の成長は路面電車を含む鉄道によって支えられてきた。その後、居住区の郊外化、モータリゼーションの発達、郊外型SCの出現などの要因もあいまって、鉄道の利用者は減少、求心力が低下した中心市街地では衰退に歯止めがかからない状態が続く。全国各地で中心市街地の再生が議論され、コンパクトシティという概念が導入されている。車社会のドア・ツー・ドアの利便性は、交通混雑や、それに伴う道路拡幅延長、CO2問題などを生み出してきた。図-3は、1人を1q運ぶために排出されるCO2排出量(排出原単位)の推移を表すが、自家用車は鉄道の約9倍に当たり、しかもやや増加傾向にある。それに比べ、鉄道の水準は非常に低いのが分かる。鉄道駅を中心とした市街地再生、コンパクトシティ化は、大量輸送が可能な鉄道など公共交通機関への転換を求めた地球環境問題解決に向けた方向性でもあり、まちづくりと交通施策は一体となって行われるべきものである。

自然発生的に生まれた都市や、時を重ねたまちには、その地域の住民や歴史、文化によって培われ、育まれた特色や個性がある。それを画一的な開発、どこに行っても同じようなまち、同じような駅ビルでは、地域事情に受け入れられることも、旅行者に支持されることもない。少子高齢化社会、地球環境問題など、未来も視野に入れたまちづくりが行われなければならない。そこに、駅や駅ビルの果たす役割は大きいと考える。

「鉄道の駅が見向きされることなく、駅とは関係ないところで都心の開発が行われた時期を経て、今、駅回帰が始まっているのではないでしょうか。近代は、時間と空間をいかに克服するかがテーマでした。大型輸送、時間短縮、コスト削減、効率化という流れが、時間を重ねた伝統や暮らし、時間自体を楽しもうというエイジング、スローライフへと変わっていこうとしています。近代化は駅から始まりましたが、近代化の前の“よき時代”に連れ戻してくれるのも、また、駅なのではないかと思います。時代の中で、時間と空間がクロスしているのが駅なのです」

と、話す九州大学ユーザーサイエンス機構教授の坂口光一さんは、駅は社会の重要なモデルを象徴・発信する存在であり、『駅学』として多面的なアプローチができるのではないかと考えている。

「例えば、テーマパーク的に開発された駅と駅が鉄道で直接結ばれているという関係は、防犯上、安心・安全という新しい価値をもたらせてくれる。あるいはヨーロッパの広場のような、ニューパブリックな駅前広場をみんなが使いながらつくっていく。機能的な駅、都市空間の入り口になる駅、急ぐ旅、忙しい移動が『上り』に向かう一方で、ゆっくり時間をかけ、場としての空間を楽しみ、不便をかこつ。そんな近代化の道をさかのぼって原風景へと向かうような『下り』の旅もあるのではではないでしょうか」

地域とともに情報を発信する駅

坂口さんは、また次のように話す。

「鉄道や駅には、独特の空間、ドラマ、人生、旅へのいざないがあります。海とアジアを背景に持つ新博多駅ビルでは、時間の流れ、自然との接点から『気づき』を与えてくれる空間、九州の拠点駅として、九州各地の暮らしや物産を紹介するミュージアム的な要素を持たせ、何かに出会える空間づくりをしてもらいたい。他の九州各地の駅でも、地元の人たちの学びや交流など新しい要素を盛り込みながら、外へ向かっては、旅行客に立ち降りてもらうための情報拠点として知恵比べをしてほしい。例えば、団塊の世代などを対象にした駅長募集をして個性豊かな駅をつくってもらうなど、魅力的な駅が出てくれば、出かけたくなる点が増えることになって、鉄道の旅が面白くなります」

九州新幹線鹿児島ルート全線開業、それに続く長崎ルート開業で、九州内の各駅では博多や大阪方面へのストロー効果を懸念する声も大きい。しかし、移動時間の短縮は、都市部への通勤、あるいは週末の田舎暮らし、日帰りのスローライフを可能にもする。『上り』も『下り』も使い方次第なのだ。そのためには、駅や地域の資源や魅力を掘り起こし、知恵と工夫で練り上げた情報を発信していくことが肝要だ。


JR肥薩線嘉例川駅の木造駅舎


九州の駅弁ランキング第1位に選ばれた「百年の旅物語『かれい川』」

2月に行われた第4回「九州の駅弁ランキング」で第1位に選ばれたのは、JR肥薩線嘉例川駅(鹿児島県霧島市)の「百年の旅物語『かれい川』」だった。嘉例川駅は築100年を超える木造駅舎で有名だが、通常は無人駅。駅弁は、鹿児島中央駅から1日2往復する観光特急「はやとの風」車内での事前予約販売と、土日のみの駅販売。地元の食材を使った素朴な懐かしさが詰め込まれた弁当だ。この弁当と木造の駅舎を目的に、新幹線と観光特急を乗り継いで嘉例川駅を目指して観光客がやってくる。

常に新しい情報を発信し続ける都市機能を備えた駅ビルがある一方で、名物駅長がいるユニークな駅、駅前に鎮守の森や古い木造校舎が広がる駅がある。地元の人も通う市場のような駅ビル、自然もいっぱいのテーマパークのような駅ビルがある。地域が一体となったまちづくり、駅づくりの中から生まれた地元の特色あふれる情報が、新幹線、在来線の駅や駅ビルから、発信されていく。そんな旅行者にとっても、地域住民にとっても求心力のある駅が各エリアに点在している。それを結ぶ鉄道には、掘り起こすべき潜在的な需要と供給力、可能性がある。(遠山香澄)

フォーラム福岡19号特集記事に関するアンケートを実施しております。ご協力いただいた方全員にフォーラム福岡19号をプレゼントいたします。皆様のご意見ご感想を心よりお待ちしております。
こちらのページよりご回答ください。» アンケート回答フォーム

※当ページの内容は、2008年3月29日発行の19号に掲載されたものです。

<< トップページへ

Copyright © 2005-2007 Forum Fukuoka. All Rights Reserved.

推奨ブラウザ:IE6・NN7・Safari・Firefox