九州大学総長 梶山千里氏に聞く
- 研究の成果と住みやすさが学研都市成功のカギ -
2005年10月1日発行の創刊7号より
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九州大学学術研究都市づくりが九大工学部の移転を皮切りに動き出した。移転・統合の狙いや新キャンパスへの期待、そして21世紀の新たな九大の姿について、九州大学の梶山千里総長に聞いた。
<かじやま・ちさと>
1940年福岡県生まれ。64年九州大学工学部卒業、69年マサチューセッツ大学大学院高分子工学科博士課程修了、75年工学博士(九州大学)。2000年4 月1 日から工学研究院長。01年から総長。
先端化・大型化・精密化という研究の流れに対応
九大新キャンパスの移転・統合の意図について、教養部と専門課程の統合や、キャンパスが手狭で設備が老朽化したことなどがよく挙げられています。確かに、その部分もありますが、本来の目的は将来に備えた先端的な研究環境を整えることにあるようですね。
研究が教育とともに大学の重要な機能ですよね。従来型の研究であれば、ここ(箱崎)でもできますが、研究というのは、先端化、大型化、精密化の3つが進んでいます。そうなると、世の中の規制とか法律をクリアしなければなりません。
いい例が水素キャンパスです。水素キャンパスは高圧ガスを使いますが、高圧ガスを扱える所は日本の中には基本的にないんです。日本の企業はこれまで、高圧ガスの実験をカナダでやってたんですよ。今回、伊都キャンパスを水素特区にしてもらって、高圧ガスを扱えるようにしたんですよ。
もっと身近な例で言いますと、放射線関係、それから、いろいろなウイルスを扱うバイオ関係は、周囲の人の賛成がない限り、ある程度危険な研究はやれません。かつてのように畑の真ん中にあったような時代ならともかく、箱崎の今のような状況ではやれませんね。
ナノテクのような精密な研究も、新キャンパスでないと難しいんでしょうか。
精密な研究というのは、少しでも風があったり、飛行機による振動や潮の満ち引きによっても、影響が出ます。そういうのは機械を宙に浮かせればいいじゃないか、という考え方もあって、全くできないことはありませんが、環境的には良くない。やっぱりね、新しいところで、そんなことを気にしないでやれる研究環境が必要です。
今は、それを解決したとしても、将来的には先端化・大型化・精密化がもっと進み、だんだんクリアできなくなるでしょう。
もう一つは、土地の問題がありますよね。研究のための新しい施設をつくるにしても、ここ(箱崎)でやりくりしようとしてもできないですよね。そういう意味で伊都キャンパスは重要だと思います。
大学の使命というのは、教育面では人材育成ですが、基礎研究の面では非常に最先端の独創的な研究をすることですよね。成功するかどうかとか、使った資金にペイするかどうかとかを考えないでやる。そんなことは企業にはできません。そういう大学の使命を十分に果たすためにも、新しいキャンパスが必要なのです。
移転は急ぎすぎても、遅れても迷惑をかける
キャンパス移転期間を最長15年と見込んでおられますが、この期間短縮が大きな課題ですか。
昔は概ね10年と言っていたんですが、記録を読むと、1期目の工学系を終えても、2期目は資金面で不可能に近いと書いてあるんですよ。だけど、スタートすることが大事だったんでしょう。それを敢えて、関係省庁と話し合って、最長15年と昨年決めたのは、私は誠実なやりとりの成果と思っています。
九大にとっては、短期間で一気に移るのが一番いいことなんでしょうが、道路をはじめとしたインフラの整備時期と整合する必要があります。学生向けのマンションとか、地元の方の支援の動きともマッチングしないといけない。急ぎすぎても、遅れても迷惑をかける。大学としては教育研究に支障がないようにしなくてはいけません。
そうなると、短縮は難しい?
15年という期間を短縮する仕掛けは、基本的に資金です。それは、六本松と箱崎の跡地を全部売却することが前提で計画は動いています。ですから、文系が一部残るとか、そんなことはないんですよ。
可能性を言うと、九大独自のPFI(民活インフラ)もあります。国だけに頼っていては短縮できませんからね。
他所より「産・官・学・民」の結束力が強い
筑波研究学園都市や広島大学などの移転とはどう違うのでしょうか。
どの大学も地元の協力があり、経済界の協力があるんですが、九大の移転は「産・官・学・民」が結束して動いていることでしょう。小さな自治体ではやりたくてもできないことを、福岡市の場合は道路等のインフラ整備をはじめ、完全にやってもらってます。
水素キャンパスは福岡県知事から特区に指定していただいた。特に、研究に関しては、福岡県と九大がタイアップして水素をはじめ、ナノテク、バイオ関係など他所にはない、いろんなことを協力してやっている。
九大を核につくろうとしている学術研究都市も含めて、他所よりはるかにいい大学にしてやろうという協力体制が大きいですね。
アジアの大学と研究拠点を共有して、成果を出したい
アジアス九州(九州北部学術研究都市)構想、九大が提唱されたアジア学長会議(10カ国・地域26大学が参加)といったネットワークも九大学研都市でこれから生きてくるんじゃないでしょうか。
ネットワークをつくるのはいいことだけど、集まって話し合って、いろんな人材育成をやりましょうやと提案する。敢えて言うと、お祭りという要素もある。私としては目に見える成果をつくりたい。
じゃあ、アジア学長会議のネットワークを使ってどういうことができるかというと、研究拠点を各大学みんなで共有する。例えば、これから先、重要なのは薬ですよ。薬はどうやってできたかというと、欧米人の遺伝子をもとにつくられ、誰にでも効く薬を使っているけど、その本人に合ってるかどうかは分かりません。
我々日本人はモンゴロイド系ですから、モンゴロイド系特有の遺伝子を研究する。骨格は同じでも、日本とかタイとかその枝葉が違うので、アジアの全大学の研究者を総動員しないと分からない。遺伝子をキチンと調べた創薬の研究拠点づくりです。
アジアに近いことが親密という時代ではなくなった。彼らが求めているものを我々が持っているかどうか。創薬の概念と実績を持っているし、水素を燃料として使う技術では、九大独自のものがあります。
住みやすさも研究者が集まる大事な要素
学術研究都市に研究者や企業が集まりますか。
それは、知の部分つまり研究成果を出せるかどうかによるが、かなりの部分を出せると思う。あとは、それを使いたい人をどう集めるか、です。本当に最先端でなくても来たいというのは、ここで研究する心地よさ、便利さ、胸襟を開いて話し合えるといった雰囲気づくりが必要なんですよ。
アメリカに行ったからといって、最先端の研究ができるとは限らないけど、みんなが行きたがるのは、アメリカは外国人が住みやすいからです。住みやすいというのも大事な要素なんです。
糸島地区で外国人が生活したいという雰囲気づくりができたらいいですね。志摩町の海岸あたりに“国際村”ができたら、九大まで車で15分で通え、研究しながら楽しめる。
今までは、研究、教育で人が集まるのに、情報が重要だったが、その情報ははるかに距離を超えていると思う。
あとは、情報を使いながら、住みやすい環境が整っているか。それは、いい土地といい空気、いい人、それに知的な雰囲気です。
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※当ページの内容は、2005年10月1日発行の創刊7号に掲載されたものです。

