九州大学新キャンパス・第一期が開校
地域と共有する「100年の計」スタート
2004年9月30日発行の創刊号より
「九州大学新キャンパス・第一期が開校 - 地域と共有する「100年の計」スタート」に対する皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
コメント受付フォームよりお送りください。>> コメント受付フォーム
2005年秋、工学部の一部、2100人の学生・教職員が移転し、新キャンパスでの活動を開始する。移転完了まで15年という大事業のスタートは、同時に九州大学を中核とした新しい地域づくり「100年の計」のスタートでもあるのだ。

巨大研究棟に2100人
福岡市・天神の都心部から都市高速を利用すれば約30分、九州大学の新キャンパスは、福岡市西区の元岡・桑原地区から志摩町、前原市にまたがる約275ヘクタールの丘陵地で土地造成と建設工事が進められている。2005年秋の工学部の一部を皮切りに、理学系・文系学部、農学系の順番で移転し、最終的な移転完了は2020年ごろになる見込みだ。
2005年に開校する第一期分は、敷地ほぼ中央、工学系地区の教育研究棟UとV。ほかに理系図書館、エネルギーセンター、給水センターなどの建物が完成している。
教育研究棟U・Vは、全体で長さ約140メートル、奥行き約30メートル、高さ約40メートルの鉄筋コンクリート造9階建てで、床面積は4万5000平方メートル。福岡市庁舎や百貨店並みの巨大な建物となる。ここには2100人の学生と教職員が移転し、翌年には隣接して教育研究棟Tが完成して、さらに2100人が移転。2006年度には4200人のキャンパスが姿を見せるということになる。

来年秋の開講に向けて仕上げ工事に入っている工学部の教育研究棟UとV。写真左側では、PFIによるTの建設も始まっている。
先行するU・Vが国費で建設されているのに対し、06年移転のTはPFI(PrivateFinance Initiative)事業として建設される。三菱商事を代表とするグループが事業者となり、施設建設・維持管理などに民間の資金とノウハウが活用される。特に管理部門での民間ノウハウの導入で、これまでのような「暗い、汚い」環境ではなく、快適な建物・研究環境となることが期待されている。
学際空間を実現する研究棟
この新しい研究棟の特徴は、全体の面積の3割程度を共有スペースとしている点にある。各研究室で取り組んでいるテーマに応じて必要なスペースをシェアしながら効率的に研究を進めようという目論見だ。学生や研究者がそれぞれの研究室にこもることなく、オープンな環境で横の交流・連携を発生させようという狙いもある。
この考え方は、九州大学が新キャンパスに移転するのを機に掲げたマスタープランの重点項目である「学際時代に対応したキャンパスの形成」を具体化するものだ。
従来の大学は、中庭を取り囲むように研究室が配置され、それぞれが専門分野を極めてきた。これに対して九大の新キャンパスは、各研究棟が波打ちながら東西につながり、それぞれが重なる部分を持っている。それぞれが独立しつつも、連携性を持てるようにという空間構成になっているのだ。
この未来型ともいえるキャンパスの構成と理念は、学内だけに留まるものではない。その連携のネットワークを地域の住民や企業に広げ、そこからさらにアジアや世界と連動していこうという構想だ。
これは、周辺地域一帯を「九州大学学術研究都市」として地元自治体や企業と協力しながら整備を進める構想で、今年10月には(財)九州大学学術研究都市推進機構が発足する予定だ。

新キャンパスのイメージ図。手前から奥にかけて、各学科の研究棟が連結しながら長く伸びている
新キャンパス全体を実験場に
この枠組みを活用することで、九州大学の新キャンパスは、新しい社会システム構築の実証実験場としての機能を持たせようとしている。単に大学のまわりに企業の研究機関が集まるだけではなく、また、大学の研究成果を企業の商品開発に生かすといった単純な産学連携でもない。九州大学を中心にさまざまな企業が参加し、地域の自治体や住民も構成要素となり、新しい社会システムの構築につながる実験を行おうというのだ。
実際に、来年秋の第一期新キャンパスから、具体的に2つの実証実験が始まる。水素による地域熱供給を実現するための「水素キャンパス」とICカードによる個人認証技術を地域社会に応用する「全学ICカード導入プロジェクト」だ。
こうした実証実験を今後は地域社会にも広げながら、「常に5つくらいは行っていきたい」(有川節夫・九州大学副学長)という意向だ。
地域での受け入れ準備も
2005年秋の開校に向けて、地域での受け入れ準備も進みつつある。
道路整備は福岡市が中心となって進めており、ほぼ不自由ない状況で開校を迎えられる予定だ。一方で見えにくいのは、新しくやってくる学生や教職員のための生活支援施設だ。住宅や飲食店などはもちろん、書店やパソコンショップなども近隣に必要となってくる。クリーニングチェーンやファミリーレストランなどから自治体に問い合わせが入るなど、民間でも独自の動きがあるが、地域住民や自治体にも受け入れの準備の動きが始まっている。
隣接地に遊休地を持つ地元の地主らが集まって受け入れ準備の勉強会を行っているケースが、福岡市側で2カ所、前原市に1カ所ある。それぞれ、別の大学移転の実例を見学に行くなどして、どのようなサービスが必要かなどを検討している。
また、前原市では今年から市民の祭りに九大の留学生に参加してもらい、母国の料理をふるまってもらうなど、草の根ベースでの交流も始まっている。
学術研究都市としても、草の根の交流でも、九州大学を中心とした新しい地域づくりが、いよいよ来年、本格的にスタートする。(宮崎仁士)
九大新キャンパスで始まる「新社会システム」の実証実験
1、水素キャンパス構想
人類による資源の食いつぶしによって、温暖化や環境の悪化を招いているが、その解決策のひとつとして注目されているのが、水素エネルギー。燃料電池の名前で自動車などでの実用が始まろうとしているが、この水素エネルギーを地域熱供給に利用する実験が、九大の新キャンパス全体で行われる。キャンパス内には水素供給のためのパイプラインが既に張り巡らされ、各建物や農業ゾーンなどの冷暖房、それにキャンパス内の循環バスの燃料としても使われる。地球の将来を変える可能性を持つ実験プロジェクトだ。
2、全学ICカード導入プロジェクト
九大で開発した新しい個人認証システム(パーソナルID)を利用したICカードを全学生・教職員に発行し、建物の入館管理や図書館の利用、証明書発行などに応用する。情報通信、カギメーカー、警備会社などとの共同研究。PIDでは個人情報を100万桁の暗号に置き換えて発行元(今回は九大)が管理し、サービスの提供者(例えば図書館)にはその中から必要な極一部だけを提供し、個人を特定できるようにするシステム。サービス提供者ごとに違う暗号を渡すことが可能で、しかも余分な情報が入らないため、セキュリティ面でもメリットが大きい。将来は地域の企業や商店にも対象を広げ、買い物や食事も同じ1枚のカードでできるようになる。
「九大は福岡の西の拠点に」
落合太郎・九州産業大学教授(九大OB)
「移転をきっかけに、新しいキャンパスのコンセプトを構築したことが大事。東京とは違う独自性を出し、学問的なアジアのハブとしての地位を確立するためには、時代の変化を見ながらコンセプトを失わないようにキャンパスづくりを続けること。100年かけて世界遺産をつくるつもりで、取り組んでもらいたい。
福岡の都市構造はこれまで天神を中心にY字型に発展してきたが、いろんな意味で弊害が出つつある。Y字の各頂点をつないで、ベンツのマーク型にするのが理想的だが、九大の新キャンパスは、そのマークの西の拠点になりうる。跡地の再利用も含めて、福岡の都市構造を変えていくきっかけにもなるだろう」
「九州大学新キャンパス・第一期が開校 - 地域と共有する「100年の計」スタート」に対する皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
コメント受付フォームよりお送りください。>> コメント受付フォーム
※当ページの内容は、2004年9月30日発行の創刊号に掲載されたものです。
